訓練?
前話の一部を改稿し、改題してます。
竜斗の無言の呟きにアトミが囁き声で答える。
それで、心霊スポットの候補地はまだある?
「今度のは遠いわ。ここから車で1時間…」
もう下校ついでというわけにはいかないか。
「行くとしたら、休みの日にバスで…かしら。お弁当でも持って」
心霊ハイキング?なんだか軽いノリだな。
他の者が近くに居ても、アトミの独り言にしか聞こえないだろう。
その日の放課後。
近場で刀の試し斬りができないだろうかと、ドブネズミの影を封印した旧校舎を探ってみる竜斗だが、怪しい気配は感じられない。
探索エリアを蛇沼方面に変更してみる。一度斬った相手の気配なら察知する自信がある。あの大蛇、今度は早技で刻ませてほしいが、未だ復活していてはくれないようだ。
省エネモードで刀を展開してみて、どれくらい消耗を抑えられるか試したいんだけどな。今日は普通に帰るか。
今日にも自分達の母が標的になってしまわないか、ハラハラするアトミだが、今日は竜斗が心霊ハンティングを諦めてくれそうなので少し安堵する。それでも、油断できない。
竜斗達の下校途中、下り坂が終わる辺り、白昼夢で大蛇の影を刻んで封印した地点に差し掛かった。
今日は蛇も出ないか・・・と思っていると、どこからか怪しい気配を感じる竜斗。
あ、あの烏とか鳩みたいなやつか。見上げると、上空を鳶が旋回していた。
「鳶か・・・刀で斬るには遠すぎるなぁ、弓で射るか鉄砲で撃つバージョンか・・・」
「竜斗君!」
背後から声がする。時間差で下校してきたアトミだ。何だか慌てている。
「り、竜斗ぉ…く〜ん」
ミサキが坂道を駆け下りて来る。竜斗に向かって突進し、止まろうとしない。
「と、止めてぇ〜…」
まさか2回目のフライング・ボディ・アタック?…にはならなかったが、彼に柔らかく抱きとめてもらう格好になった。
「ご、ごめんなさい。コケそうなのが恐くて、止まれなくて…」
ミサキは竜斗に抱きつきながら、彼の死角で舌を出す。
「だ、大丈夫か?」
竜斗は彼女の胸が押し付けられるのを意識し、また鼻血が出ないか気になり出す。
「あ、ありがとう・・・」
ゆっくりと彼から離れ、彼の両手を掴むミサキ。赤面する竜斗。
アトミはニヤニヤしているが、前髪で隠した顔半分は引きつっている。
(お母さんったら、もう、何で鳶なんかに…)
竜斗の気を逸らすため、彼の空への射撃を封じるため、ミサキに特攻をかけさせたのだったが・・・
(お母さん、早く、どっか行って!)
鳶は旋回しながら少しづつ、遠ざかってはいるが、なかなか視界から消えない。
ミサキは不自然なまでに竜斗の手を握って放さない。
アトミが言い訳するように告げる。
「竜斗君、これも、訓練だと思って!」
「訓練?」
「そう、女子に触られても平気でいられるようになるための…」
そうか、親父みたいに自分を見失わないように・・・
「そして、いつかミサキと、もっとくっついても大丈夫なように…」
ミサキと目が合い、更に赤面する竜斗。
ようやく鳶の姿が見えなくなったところで、姉が妹とアイコンタクトをとる。解放された竜斗は、鳶のことなど忘れているようだ。
「ぇえっと…」
竜斗が何か思い出すのを封じるようにアトミが言葉を被せる。
「これからも時々『訓練』しましょうね」
ウィンクまでして念押しだ。
「ぉ、おう。よろしく頼む」
「こちらこそ」
はにかみながらミサキが答えた。
これからどんな『訓練』が待っているんだろう?(でへへ)
漲る血潮(鼻血注意)、迸る青春(以下略)。
倉城姉妹の自宅兼喫茶店には『休業日』の札が掛かっている。
姉妹が帰宅すると、母親のミヤが部屋から出て来た。ぴーひゅるる…と、下手な口笛を吹いている。鳶の鳴き真似のようにも聞こえる。
ニヤニヤしながら娘達に声をかける。
「どうなんだい?オトコは誑し込めそうかい?」
「まだまだ、これからだけど…。お母さん、鳶に入って飛んでたでしょ」
鳶の目で、ミサキが竜斗に飛び付くのを見たんでしょ。お陰で彼に射ち落とされるのを免れたとも知しらずに。
鳥類に同調してばっかりで、鳥並みの軽い脳味噌になってて、そのうち痛い目を見ることになる気がするわ…。
「お母さん、このままだと、いつか鳥になったまま帰って来なくなる気がする…」
ミサキが呟いた。
そうね。お母さんにすれば、それが本望なんでしょうけど。




