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幻の剣

 その夜、封印すべき『影』は現れなかったが、やはり竜斗は夢の中で『刀』を出そうとしていた。

 夢だという意識は希薄なまま、守護神の真似をして腕を振り降ろし、刀をイメージしてみる。えいっ。

 ・・・その手に現れた刀は、百円プラス消費税のオモチャのようなシロモノ。やり直し。守護神に借りた刀の重みを思い出そう。やぁっ!

 ・・・今度は真剣らしき刀が出たが、見るからに切れなさそうだ。輝きも鈍い。

 あの蛇を斬った感触を蘇らせながら、そのまま握った刀を振りおろしてみる。たぁっ!

 ・・・輝きが増して切れ味が良くなった気がする。最初から刀を握っているようなイメージで振ってみる。すると、かなりリアルな刀が出て来た。よく見ると銘が刻んである。・・・斬・蛇・剣?・・・

 どうせなら、断・龍・剣…とかが良いな。勇者ならドラゴンに剣が定番だよね(テンプレとも言うけど)…などとファンタジーなことを考えていたら、これ夢なんだという意識が戻ってきた。


 目覚めると、相変わらずの寝汗と動悸。喉が乾くので、枕元に置いてあったスポーツドリンクに手を伸ばす。

 気が付けば手にしていた刀は無く、俺自身の、また違う『刀』が反り立っている。俺のドラゴンが炎のブレスを天に向かって噴きそうだぜ・・・シモネタの独り言を空しく呟く竜斗だった。




 翌朝、稽古をしながらも、刀のことが竜斗の頭から離れない。

『剣の離合を体で表したのが柔術』とか何とか、合気道の開祖が言っておったとか祖父から聞いたのを思い出す。

 祖父ちゃんの真似をして、剣を振り下ろす格好のヴァージョンの御払い…あのイメージを重ねれば、よく切れる刀が出せそうな気がする。



 登校の途中も刀のことで考えに耽る竜斗だが、後ろから忍び寄る気配は逃さない。

 ギリギリまで気付かない振りをしていたが、何かが背中に触れようとする瞬間、体を半回転して躱す。察知したとおり、忍撫の木剣だ。そのまま間一髪の間合いで擦れ違うように彼女の横に踏み込み、彼女の左手首を掬い上げるように掴んで動きを封じる。

 木刀を握ったままの手を軽く捻り上げられた忍撫だが、竜斗に手を取られてダンスしているようにも見え、互いを見つめ合う格好になっている。


「こんなふうにするのは二度目だな…」

「相変わらず見事な体捌きだな、竜斗」

「すまないけど、今ちょっとだけ、その木刀を貸してもらえないか?」

「構わんぞ、今日もオレの負けだからな」


 忍撫の木刀を借り受け、片手で一振りする竜斗。

(・・・こんな感じかな・・・)

 幻の刀を出して握るシミュレーションのつもりである。

「サンキュー、ノブ。ちょっと刀を握った感じを確かめてみたかったんだ」

 竜斗から直ぐに木刀を返され、受け取った忍撫は嬉しそうに顔を紅らめる。


「竜斗、男から女に刀を渡すのは『これで貞操を守れ』という意味だ」

「ぇ?」(いつの時代の話だよ!)

「つまり『許嫁として操を立てろ』と・・・そう言いたいのだな?」

「…って、いや…」(元々自分の木刀じゃん!)

「照れるな。その気持ちは確かに受け取ったぞ!」

「ぁ…」

 竜斗が何か言う前に「はっはっは」と笑い声を響かせ、忍撫は握った木刀を抱きかかえるようにして走り去ってしまう。 

 しまった。刀に気を取られて忘れてたけど、不用意に関わると勝手に誤解する相手だった。

 それにしても忍撫は、想像を上回る天然ポジティブ思考というか…しばらく妄想から醒めてくれそうもないが、メールでもしておくべきか…下手なことを言うと更に誤解されそうな気もする。


「ヘェィ、あいかわらズの、ラブコメでスね、リュゥト」

 後ろから見ていたトオルが面白がっている。




 そして、朝の教室。

 伊部舞の睨みを気にして、口数の少ない会話をする竜斗とアトミ。


 それで、心霊スポットの件だけど…

「次の候補地は?」

「学校裏の坂道を下って5分」

 また近いな。

「出そうなのか?」

 怪しいやつとか。

「昔は池か沼で子供が溺れたとか…」

 何かヤバそうだな・・・お祓いより供養が向いてそうなら止めるけど。

「案内してもらえる?」

 離れたとこから、あの辺が…って教えてくれるだけで良い。

「良いわよ」

 じゃぁ帰りにな。こっちが遠回りして追いかけて落ち合おう。


 最後は無言の竜斗から言葉を読み取ったアトミが無言で肯く。

 こんなふうに、半分テレパシーで会話できてしまうのだ。




 そして放課後。

 校門を出た倉城姉妹は、通常とは逆方向に坂道を上る。道は学校の裏門あたりが峠になっていて、そこから向こうは下り坂。先回りした竜斗達が、申し合わせ通りに現れる。


「この坂を降りて行って左手の方に…昔は『水無し池』とも言ったそうだけど、通称『蛇沼』って、知らない?」

「そう言えば、そんな地名があったような…」

「あのへんは、丘の北側の窪地で水捌けが悪くて、むかし池で溺れて死んだ人の霊が出るとかで、私も近くを通ると体が重たくなったりして…」

 アトミの説明を聞いた竜斗は、昨日の大蛇が這って出て来た方向に『蛇沼』があることに気付く。

 あの蛇の巣でもあったのかな?俺が3つに刻んで封印した筈が、また出たりするんだろうか?

 もし何か出たら、自分で出した剣の試し斬りがしたい!それが竜斗の本音だ。


「俺は一度だけ見ておきたいんだけど、君達はどうする?」

「行く」

 と、ミサキが言えば、アトミも追従する。

「私も付いて行く」


 竜斗に縋り付きたい。彼に守られる感覚が忘れられない。それが彼女達の本音だ。


 緩やかな坂を下りて行くと、金網で囲われた荒れ地が見えた。今は池も沼も無いが、地面より深いところで、何かが蠢くのを竜斗は感じた。あの蛇と同じ気配だ。

「やっぱり、大蛇(アイツ)は此処に居る!」


 彼奴(あいつ)が地底から睨んでいる。来るか?

 祓いの呪文を唱えながら刀剣をイメージし、二本指を伸ばして右腕を振る竜斗。その手に現れた刀には唱えた九字の呪文が刻まれている。


 竜斗が持った刀が放つ輝きと、地底に潜む大蛇の両眼の光が、ぶつかり合っているのがアトミには解る。竜斗の考えを読むのに慣れてきたせいか、彼と感覚を共有できるようになりつつある。

 ミサキもアトミと同調するのが日常なので、姉を通して竜斗と感覚を共有しうる。加えて、予知した幻影が重なる。

(竜斗君スゴい、あんなのと戦うんだ…)

「来るわ!」

 予知したミサキが叫ぶと、大蛇が地上に姿を現した。鎌首をもたげて竜斗達を見下ろしている。


 もう昨日のような影ではない。こいつが本体か?

 背は黒く腹は白いのが判るし、鱗も見える。舌を出す蛇に刀を向けて構える竜斗。


「儂が斬れるか?」

 この蛇、喋るのか。

「斬らせてくれる?」

「斬らぬのなら喰うぞ」

 そう仰るなら遠慮なく斬ります。やぁっ!


 竜斗が構えた刀を振り下ろすと、光る刀身が蛇まで延び、一気に切り裂いたかと思うと、視界が白くなった。 


 気がつくと、大蛇の姿は失せていた。刀も消えている。

 倉城姉妹は呆然としているが、今回は竜斗と同じ時間の流れの中にいた。

 トオルだけ時間が止まっていた。彼の目には、エア剣道をしていた竜斗が急に脱力したように見えただけだ。


「アトミさん、大丈夫?・・・いま何かヤバそうなの、目えない?」

「ぇ、えぇ…」

「俺、また腹が減った」


 買っておいた栄養ドリンクを鞄から取り出し、一気に飲み干す竜斗。

 私達の分は無いの?と、アトミは言いそうになった。空腹感まで共有したようだ。

 ミサキが持っていたキャンディーを分けあって飢えを凌ぐ姉妹だが、今回は竜斗に縋りつく隙も無かった。その代わりに、リアルタイムで彼と感覚を共有する体験ができた。


「さっきの大きな蛇、やっつけちゃったの?」

「・・・わからん」

 封印してないし、今日は斬らせてくれただけのような気がする。

「恐いけど、敵対してる感じじゃないのね」

「実は友好的かもな」

 練習台になってくれたとか。

「もう帰るか・・・」

 やり逃げみたいだけど、すぐに復活されても此方の気力体力が持たん。刀で斬るのはHPの消耗が激しいって感じだ。(SAN値もヤバい気がするが)


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