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予感と余感

 双子姉妹のアトミとミサキは帰宅後、彼女達の母が経営する占い喫茶の店番をしながら、今日の体験の余韻に浸っていた。


 放課後に竜斗達と忍び込んだ旧校舎。

 彼の腕に縋りながら心霊スポット探索。彼の結界に守られる抱擁感。

 突然、彼が感じた不穏な気配。この世の者でない何かが現れる予感と緊張感。

 直に体験したのは竜斗だけだったが、その生々しい記憶をアトミが読み取った。

 妹の予感と姉の余感は二人で互いに共有する。

 緊張感と開放感。短い時間のうちに、図らずも『吊り橋効果』で盛り上がる男女みたいな高揚感を味わった。


「ホラーのアトラクションに入ったみたいだったね」

「ちょっと不謹慎かも知れないけど、楽しかったわ」

「ヤバそうなスポットなら他にも未だ知ってるんだけど…」

「また一緒に行けるかな…不謹慎かも知れないけど」


『不謹慎』と言うのは、不成仏霊の存在を想定した場合の話である。

 特にアトミの場合、憑霊現象の当事者になってしまうリスクもある。それが妄想や幻覚あるいは自己暗示によるものあったとしても、厄介なことに変わりは無い。

 しかし、竜斗が守ってくれるという安心感が彼女達を大胆にする。


「今日のは全然、そんな感じじゃなさそうだったけどね」

「うん、彼の一人相撲のような感も無きにしも…なんだけど」


 でも、もっと彼の近くにいたい、密着したいと想ってしまうミサキ。

 結界に包まれ、彼に抱かれたような感覚が忘れられないアトミ。

 彼が拒まなければ、きっと次の『猟場』に誘うことになるだろう。


「アトミはズルい。黙ってても彼の気持ちが解っちゃうんだもの」

「解っちゃうから辛いことも多いのよ」

「知ってる。一度言ってみたかったの」

「ミサキもズルい。彼のこと、私より先に解っちゃうんだから」

「解っちゃうから怖いこともあるのよ」

「知ってる。私も言ってみたかった」


 顔半分が微妙に引きつるような、左右非対称の笑顔を互いに見合わせる二人。顔二つ並べると殆ど対称なのだが。



 竜斗の見たこと思ったことが解るアトミを、ミサキは羨ましく思う。

 竜斗が話さなくてもアトミとは会話ができているし、そのことに彼も抵抗が無い。


 竜斗の気持ちがミサキに傾いていることを知っているアトミは、妹が妬ましい。

 重要な予知も記録は姉に任せ、自分は忘れてしまう。後の気苦労は姉の仕事なのか。


 互いに同情しながら嫉妬する愛憎併存(アンビバレンス)。微妙で奇妙な関係を維持(キープ)する姉妹であったが、肝心なことを遠ざけて甘い夢に浸ろうとしていた。


 そもそも、アトミが彼を妖しい場所に案内したのは、彼女達の妖しい母から彼の目を逸らせるためだった。それはそのまま、彼女達自身が母の存在から目を逸らそうとする、現実逃避でもあった。


 アトミは既に夢で一度、彼女達の母ミヤを祖母が身籠ろうとする時まで遡り、真実に迫ろうとしたが、直視に耐えられず逃げ帰った。

 その夢で見た、若く妖しい祖母の虚ろで冷やかな微笑は、ミヤの父となるべき男の精を搾り取り、魂を喰らい尽くす夢魔を想像させるものだった。

 そして恐らく、母ミヤが自分達を身籠るときも、あの悪夢で見た祖母と同じ悍ましい冷笑を浮かべ、父親となるべき男を生贄に…それは、忌避せずには居られない想像だった。


 夢や想像に過ぎない、囚われざるべき妄想であって欲しい。


 けれども、彼女達には過去や未来を言い当ててきた実積があり、祖母も母もシングルマザーという現実があり、祖母もアトミの推理を否定しなかった。


 祖母や母と同じ運命を辿ることを回避すべく、忌まわしい因果を解明し、自分達を呪縛する者の正体を暴こうと決意した筈だったが、躊躇いを禁じきれずにいる。


 彼女達を嘲笑うかのように、呪縛する者は向こうから使者を差し向けてきた。祖母の元秘書を通じ、怪しげな団体への加入を促してきた。


 その団体の事務局長だと言う元秘書によれば、倉城家は代々、母から娘へと魔術を伝えてきた『魔女』の家系であり、祖母は『魔界』との契約により女児を授かったのだと言う。


 女児とは母ミヤ、そして母の双子の妹、未由(ミユ)だ。未由は夫の身代りに自らを犠牲にして娘を生み、この世を去ったが、彼女の魂は白猫に宿り、娘の未来(ミク)を見守り続けている。アトミは、その猫から、未由が聞いた『闇の声』の記憶を読み取った。


 魔界との契約とは魔神を召喚して生贄を捧げる儀式であり、犠牲を求めた『闇の声』の主も『魔神』に該当するらしい。元秘書の説明は、アトミの推理が概ね間違っていないことを裏付けるものだった。


 いつの間にか祖母は謎の団体『闇聲會』の会長になっていた。『闇の声』に従う者を増やしたいらしい。アトミ達は情報収集の目的で入会に同意したのだが…。




 閉店間際、ドアベルが鳴り響いた。

「ぃらっ…しゃいませ…」

 この店でゴスロリ老眼鏡メイドを見るのは2度目だった。


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