明晰夢
竜斗は夢を見た。それが夢であることを自覚しつつ見る明晰夢というやつだ。
気が付けば荒野で武術の修行をしている。
目の前に一人の男が腕を組み、竜斗を見守っている。
祖父の辰造を父親の修太朗ぐらいの歳に若返らせた感じだ。
若い頃の祖父っちゃんが現れたのか?
心の中で呟くと、その男が答えた。
「儂は『押門流』の伝承者を教え導く守護神のような者じゃ。お前が儂のような存在を想い描くと、こういう姿になるということじゃ」
「その守護神様が、わざわざ夢に出て指導してくれるっていうのか?」
「まあそういうことじゃ。柔術と呪術が押門流の柱じゃが、呪術のほうは儂みたいなのが時々見てやらんと、魂が危険に晒されるのでな」
「魂が、どんなふうに危険なんだ?」
「身体から離れて、帰れなくなるとか」
「それって死ぬってことじゃん」
「ま、人間いつかはそうなるもんじゃが、お前は未だ少々若過ぎるからの・・・ただ死ぬだけなら良いが、魂が迷子になってしまったり、変な奴に捕まってしまったりすると厄介じゃから、儂が見張っておる」
「死ぬだけなら良い?魂が、迷子?変な奴?」
「いざとなったら儂が居るから迷子の心配はせんでええが、変な奴らは自分で始末できるように練習しておけ。せっかく押門流の継承者に選ばれとるんじゃからな」
「まだ聞いてないんだけど、やっぱり『継承者』なのか俺。親父は飛ばして・・・」
「お前が儂らと話できる時間は限られておる。今日は一つだけ技を授ける。竜斗、『結界』を張ってみろ」
自称守護神が片手を上に挙げた。
視界が暗転し、突風が吹き荒れる。
竜斗は慌てて身構える。
(結界の張り方・・・いつもの形練習のイメージで、天地四方に見えない壁を想い描くんだったよな)
竜斗がイメージすると、半透明の板が六枚、上下前後左右から、彼を箱状に囲むように浮かび上がる。
(おぉ、スゲー)
箱状の結界に守られ、風圧に耐える竜斗。
「基本はできとるようじゃな。次は『封印』をやってみるか」
自称守護神が挙げた手を握り、腰の高さまで下ろして広げると、何か黒っぽいモノが掌から飛び出した。形が良く見えないドブネズミのような大きさの何かが、地面の上を這いずり回っている。
「そいつを封印してみろ」
「やり方を教わってない」
「結界を反転させて、そいつを囲む!」
(反転させるって、こうか?)
何か昔の漫画のパクリのような気もするが、それは忘れたことにして・・・ドブネズミみたいなやつを囲い込むイメージか・・・
竜斗を囲んでいた6枚のうち、前の板はそのままにして上下左右のを前方に反転、後ろの板は頭上を半回転して標的の背後に回り込む。その背板を箒に、残りを箱状の塵取のようにして中に放り込み、背板で蓋をして…と、イメージした通り、標的を透明な箱に封じ込めることに成功した。
「まあ、そんなもんか。そのまま箱を小さくしろ」
言われるまま、反転した結界の箱が小さくなるようにイメージすると、その通りになる。
「そのまま止めずに、無くなるまで」
ドブネズミみたいなやつを閉じ込めたまま、透明な箱は小さくなり、遂には見えなくなった。
箱を縮めようとするとき、思わず両手で押さえ込むポーズを取ったが、押し潰したような手応えは無い。
「消滅させてはおらん。異次元へ押し込んだだけじゃ」
またどっかから復活したりするんだろうか?
「封印した者の意思が鍵になる。原則として、お前の意思が無ければ開封はされん」
何だか疲れた。
「よし、そろそろこれまでじゃ。後は自分で復習しておけ。生きた人間は封印するなよ…」
自称守護神が微笑んだかと思うと突然、夢から覚めた。胸の動悸が激しく、息苦しい。頭が逆上せる。そして、何故か勃っていた。エロい夢でもなかったのに。
トイレで放尿して身体を冷ました。
疲れる夢って、あるよね。




