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猫と少女

「そう言えば、あっちの方に『占い喫茶』みたいなのがあったっけ・・・」


 その場所なら竜斗も何となく知っている。下校後いったん帰宅し、制服から私服に着替えてからトオルと路上で落ち合う。徒歩数分ほどの道程は、武術の修行している彼らにとって苦にならない。早歩きで5分もすれば目的地付近に辿り着く。


 背中に触ったら勝ちというルールのゲームは継続中で、トオルは執拗に竜斗を付け狙っている。そもそもトオルが女子生徒のバイト先を訪ねようと提案したのは、ひょっとしたら竜斗が女子に気をとられてスキを見せないかという期待があったからである。


「あの喫茶店なら、このへんだったと思うんだが・・・」


 竜斗とトオルが目をやった先の路上に、一人の小柄な少女がしゃがみ込んでいる。白いワンピースを纏い、一匹の猫と向き合っている。ニャーニャーと鳴く白い猫に相槌をうつように、小声で何か呟く少女。どことなく見た感じが猫っぽい。

 猫の耳や尾を付けたら似合いそうだ。いや、実は元から生えている猫耳を髪の中に隠していても違和感がない。そして猫の尾も・・・妄想が膨らみそうになるのを押しとどめる竜斗。トオルも似たような妄想に取り憑かれている様子で少女に見蕩れ、竜斗のスキを窺うのも忘れている。


 少女は不意に二人のほうに顔を向ける。

「お兄ちゃん達、お姉ちゃん達に会いに来たのかニャ?」


 胸がキュンとなるとは、こういうのをいうのか?解ったような気がする・・などと思う竜斗。トオルは恐らく、もっと「萌え」を実感している。『ロリ上等』とか口走りかねない。


「あぁ、はい。高校の同級生で・・・」

「アトミ姉ちゃんも、ミサキ姉ちゃんも、お店だよ」

少女が指さす先に、店の看板が見えた。

「あ、ありがとう・・・」


(それにしても、俺達が通りすがりじゃないことに、どうやって気づいたんだろう?)

「ミーちゃんが教えてくれたの。誰かお姉ちゃん達に会いに来るって」

「あ、そうなんだ・・・」


(やっぱり猫と話ができるんだ、この娘は・・・)

 本人がそう言うんだからきっとそうなんだ。疑うことも怪しむことも忘れるほどに、猫っぽい少女に心を奪われている二人。少女の両方の瞳が猫の目に見えて仕方がない。錯覚だろうけれど・・・猫の瞳ではないことが錯覚なんじゃないかと思えてしまう。


 当の白猫ミーちゃんは、左右の色が違う虹彩異色(オッドアイ)の瞳を二人に向けたかと思うとすぐ目を細めて顔を洗う仕草をする。そもそも二人が双子姉妹に会いに来ることを猫が知っていて少女に教えたというのは本当なのか?と疑うことを竜斗達は忘れてしまっている。


「ミステリアス・ガール」と、トオルが呟いた。




 高校生になって間もない竜斗としては、同級生だけで喫茶店に来るのは初体験で、『占い喫茶 ウィッチハウス』の看板の前で少し躊躇(ためら)うが、トオルは構わずドアを開ける。カランコロンカランと響くベルの音。


「ぃらっしゃいませぇ・・・あら、トオル君?だっけ。」

 出迎えたのはアトミ。

「ハーイ、きょうわボクのイトコとキマシタ」

「リュウトくんね。空いてるぉ席へどうぞぉ」

 髪で顔半分を隠したまま微笑むアトミ。カウンターの奥にミサキの姿も見える。

「名前、覚えててくれてどうも。そっちは、アトミさんで、あっちがミサキさん?」

「リュウト君もよく知ってるのね。」

「さっき外で猫みたいな女の子が教えてくれたんだけど、妹さん?」

「うん、そう。ミクちゃんのことね。あれでも中学生なのよ」


 アトミは赤いシャツの上に黒っぽいエプロンを着けている。ミサキも同じエプロンでシャツの色は青だ。

 店内はカウンター席のほか、少し古ぼけた木製のテーブルが幾つか並んでいる。奥のほうのテーブルの席につくトオルと竜斗。

「メイドふくキナイですか」

「そういう店じゃないから」

「オー、ザンネン」


 メニューを見ると、コーヒー、紅茶、ハーブティーなど、無料オプションで占い付きとか書いてある。

 おしぼりと水を持って来るアトミ。言葉がタメ口から営業用の敬語に切り替わる。

「何になさいますか?」

「マジカル・ポーションとかナイのでスか?」

 トオルの冗談めいた問いに表情も崩さず答えるアトミ。

「生憎そういうお飲み物のご用意はございませんが、不思議な雰囲気を味わうのでしたら、ハーブ・ティーなどは如何でしょう?頭が冴えるタイプ、心穏やかになるタイプなどがございます」

「モエモエっとなるタイプわナイのでスか?」


(ふざけるのも好い加減にしないと、『安らかな眠りにつくタイプ』を飲まされるぞ)

 少し心配になる竜斗。営業スマイルを保ちつつ、クールな応対を見せるアトミだが、彼女の前髪に隠れた右目が冷たく光るように感じた龍斗は、冷や汗が出そうな面持ちで注文する。


「俺はコーヒー、アイスで。」

「ボクわ、このピンク・ブレンドのハーブティ」

「かしこまりましたぁ。しばらくぉ待ちくださぃ」


 アトミと入れ代わりに、ミサキがやって来る。すれ違うとき、互いに視線を交わす双子の姉妹。一瞬でテレパシーが成立しているに違いないと妄想する竜斗。

 トオルは姉妹の体格を見比べ、心の中で呟いている。

(やっぱりアトミちゃんわオシリ、ミサキちゃんわムネでスね!)

 視線を感じたアトミが振り返り、冷ややかな一瞥を投げかけるが、トオルは悪びれる様子も見せず笑顔である。ミサキは少し恥ずかしそうに視線を落とし、胸を隠すように両手で持っているトレーを抱え上げた。


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