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帰り道で告白

 カラオケボックスから歩いて十分ほどのところに、倉城姉妹の住む喫茶店がある。竜斗の家も方向は同じだ。

 トオルだけ自転車で来ていたが、あとの3人は歩いて帰ることになった。

 ミサキを真ん中にしてアトミと竜斗が両側からサポートする形。

 トオルはアニソンを口ずさみながら後ろからついて来る。竜斗の背中を狙うのは一時休止してもらった。


 アトミが竜斗に今日の計画を打ち明ける。

「本当はミサキと二人きりで帰ってもらうつもりだったんだけど、今日はミサキの体調がこんなで、気を遣わせちゃって御免なさい」

「いや、気にしないでくれ」

 竜斗も下心が無かったわけではないので。


「色々と迷惑かけたお詫びに、竜斗君の知りたいこと教えるわね」

「俺の知りたいこと?」

「竜斗君、たぶん気付いていると思うけど、私達のこと」

「その目のこととか?」

「そう。私達、生まれたときオデコがくっついてたそうなの。髪で隠してるけど、手術で切り離した痕、今でも残ってるわ。医者の話では、脳にも少しだけ傷が残って、後遺症があるかも知れないって」

「さっきの発作とか?」

「医者の説明ではそうなるみたい。でも、意識が飛んじゃうだけじゃなく、普通じゃ見えないものが見えるの、私達」

「霊とか?」

「みたいなのが見えることもあるけど、私は霊と言うより誰かの記憶。ミサキは未来が見えるの」

「マジで?」

「医者は幻覚症状って言うでしょうけどね」

 ミサキが口を開いた。

「未来と言っても、見えるのは少しだけ。0点何秒か先なら割と簡単だけど」

「竜斗君が関心あったの、それでしょ」

「なるほど、そういうことか」

 それでボール避けられたのか。

「それでジャンケンも強いの。これ秘密よ」

 チートなスキルだ。 

「でも、連続して予知し続けるとか無理。たまに遠い未来が見えちゃうこともあるんだけど、そんなときは、あんなことになっちゃって、」

 あの発作か。

「あんまり先のことは覚えてないの」

 面白い日本語だな。


「私が見える誰かの記憶も、その人が今さっき思ってたことだけ。古い過去の記憶とかは断片的で良く解らないわ」

 アトミが言った。

「それでも凄いな」

「竜斗君だって、凄い技もってんじゃん。さっきみたいに、何か邪魔なモノを吹き飛ばす?」

「あれは爺っちゃんに教わったんだけどね・・・って、アトミさんにも見えたの?アレ」

「私が見たのはミサキの記憶。言葉が出なくても忘れる前なら読み取れるから」

 二人いれば、そんなこともできるんだ。

「頭に憑いた何かを竜斗君が払ってくれて、私達にとって重大な問題が解ったの。これなら何時もより遠くまで読めるかもって直感して『私にも…』って、お願いしたの」


 俺がやったのはリミッター解除みたいなもんか。

「無理すると、ミサキとは少し違う発作が起きそうになるんだけどね」

 あ、あのキャラ変わるみたいな?

「そう、記憶主の人格が憑依するの。無理に古い記憶を探ろうとしたときなんかもね」


 竜斗には、声に出さなくてもアトミに通じているのが解る。

 古武術の稽古で培った感覚だろうか、言語を介さない意思伝達に抵抗が無い。


「信じてもらえる人に巡り会えて嬉しいわ」

「竜斗君は私達にとって掛け替えの無い人だったんだわ」


 もはや肉食系女子が獲物を狙う緊張感(テンション)は失せているが、ミサキの竜斗への眼差しは真剣だ。

 ミサキが不意に竜斗の手を握る。

「このくらいなら大丈夫」

 そのまま竜斗の顔に唇を近づけ、彼の頬に押し付けた。

(!)

「今日これ以上は無理みたい・・・でも諦めない。いつかもっと熱い・・・」

 ぁ熱い何ですか?

「熱いチューができる日が来るのを待ってるって言いたいのよね」

 アトミの言葉に、ミサキも竜斗も赤面するが、ちゃっかり手をつないだままだ。

「でも、いま深い関係になっちゃうと、お互い残念なことになるみたい…っていうのが、ミサキの予知ね」

 竜斗は即座に、父親の情けない姿を思い浮かべた。

「そのイメージ、当たらずとも遠からずって処かしら。もっと酷いのかも知れないけど」

 何となく納得してしまう竜斗だった。


 竜斗が父のようになることを嫌うように、ミサキは母のようになることを拒んだので、望まぬ未来へ向かうことを踏み留まった。目の前の悦楽に無関心ではいられないのだが。



 気がつくと、もう倉城姉妹の店の近くまで来ていた。


「今日は本当に御免なさい。そして有難う」


 アトミが頭を下げ、ミサキは名残惜しそうに竜斗から離れた。

 姉妹を見送る竜斗。


 リアルに唾つけられた俺。嫌じゃないけど。

 誘惑されたり逃げられたりで、今日も翻弄された。

 それでも、お土産にもらった唇の感触は大事に持ち帰る。

『このくらいなら大丈夫』って、男子を甘く見過ぎです、ミサキさん。

 このくらいでも十分にヤバいです、青春が迸りそうです今夜。


「リュウト、ナマゴロシ、でスか?」

 お前、日本語のボキャ偏ってるよ…って、いたのかよトオル!

「もう、セナカたたけまスか?」

「オッケー、カモン!」

 走りだす竜斗。自転車で追うトオル。



「コーヒーぐらい飲んでいってもらいたかったんだけどね」

「店にゃおカァさんが出てるから」

 竜斗なら、あの妖しい烏や鳩の『中の人』に気付くだろう。

 彼が冷静だったら店の外からでも母の妖しい気配を感じたかもしれないけれど、ミサキにキスされて逆上せてた御蔭で判らなかったみたいだ。


 竜斗が自分の父親を恥じるように、姉妹は母親を家の恥だと思っている。彼女の秘密まで明かすのは未だ躊躇(ためら)う。


 姉妹達自身、秘密の全てを理解したわけではない。今日アトミが悟ったのは秘密の一部だ。

 たぶん母は、父となるべき男を見殺しにして自分達を生んだ。そして祖母も恐らく、祖父を犠牲にして母を生んだ。自分達と関係を持った男も犠牲になるかも…なんて話まで彼に聞かせるのはあんまりだ。

 そして、どうしてこんなことになったのかは謎のままだ。


 諦めないわ。残りの謎を解き明かすのが先。

 私知ってるんだから。謎を解く鍵を持った人は近くにいる。

 アトミは喫茶店の隣、4階建て施設の最上階を睨んだ。



 倉城家の住居を兼ねた『占い喫茶・ウィッチハウス』。

 店のドア近くの路上、しゃがんでいたミクが立ち上がって姉達を迎えた。

「お帰りニャさい」

 アトミが答える。

「ただいまぁ。今日もミーちゃんとお話してたの?」

「うん」

 いつもの白い猫が去るのを見送った後だったようだ。


 ミクが『ミーちゃん』と呼ぶ猫は、アトミ達から逃げ隠れするように消えてしまう。

 あの猫は本当に自分達を避けているのではないのか?アトミはふと思った。

 ミクの特殊能力は猫との会話。ミクにしか懐かない猫がいても不思議は無いのだが、今まで何か見落としていた気がする。

 ミクの実母はミヤの妹の未由(ミユ)だ。ミヤが鳥を操るように、未由は猫と同調する能力があった。

 まさか…未由は、この世を去っても猫を通して娘と会っている?もしもそうなら切ない物語だが。


 ミク自身は未だ実母のことを知らないはずだ。彼女にとって猫は家族に等しいが、実母の魂が宿っているなどとは思ってもみないことだろうから、ミクを通じて確かめるのは難しい。

 いつも正体を隠すかのように?逃げられているが、あの猫を直に見れば、もしかしたら、家の謎が解けるかもしれない。



 カランコロンカラン…と店のドアを開け、姉妹が入ると、母がカウンターにいた。客はいない。

「ぉくゎぇり。早かったね。オトコは捕まったのくゎい?」

 ミサキは恥ずかしそうに視線を落とす。

「まぁね。唾つけとくぐらいのことはできたんじゃないの」

 アトミが顔半分ひきつるような笑顔で答えた。

「ほぅ・・・」

 母は最近、フクロウとか夜行性の鳥と同調しているんだろう。以前にも増して朝起きが悪い。


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