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魔女達の食卓

 倉城家・・・母親のミヤ、双子姉妹と、その妹ミク。

 彼女達全員で食卓を囲むことは少ない。


 朝、以前にも増して母は起きて来なくなった。娘達も早起きは得意なほうではないが、アトミとミサキが交代で弁当を作り、食材の残りを摘んだりミルクを飲んだりして朝食をすませてしまう。

 夕方以降、中学生のミク以外は誰かが店に出ており、仕事の合間に交代で夕食を取る。


 娘達は父親を知らず、母親も母子家庭で育った。幼い頃は何とも思わなかったが、他人と比べることを覚えてから少しづつ、父親が居ないことを意識するようになった。異性を意識する年齢になってから、もしかしたら『結婚とは縁遠い家系』なのだろうかと考えるようになったアトミである。


 姉妹の父親とは娘達が生まれる前に死別したと母から聞かされた。すなわち「妹」のミクとは父親が異なるということだが、アトミは知っている。ミクと自分達姉妹とは母親も違う。


 アトミのように、ミヤにも双子の妹がいた。名は未由(みゆ)、ミクの実母だ。ミクを生んで間もなく、この世を去った。ミヤに託されたミクはアトミ達の従姉妹に当たるが、ミヤと未由が一卵性双生児ならば遺伝学的に異父姉妹と同等ということになる。

 未由はミクの父親について何も語らなかった。今となっては消息すら不明である。


 いずれにせよ、母も娘達も皆、父親と縁遠い宿命の下に生まれたことに変わりはない。アトミは、自分達も『夫』とは縁が薄いのだろうかと考えてしまう。


 まるで何か呪いでも受けたかのように父親がいない。それが何故かを知るときが来る予感がするとミサキは言う。

 もしかしたら、自分の能力で探り当てられるかも知れないと思うアトミだが、なぜか今まで思いもしなかった。

 自分達の宿命を知ることを無意識に恐れていたのだろうか。

 知っても知らなくても同じと決めつけ諦めていたのだろうか。

 知って後悔するのかも知れないが、知らなければ後悔しないのだろうか?

 知らなかったことを後悔することはないのだろうか?


 少しづつ盗むように記憶を読み取ってきたので、もう母から教わることは殆ど無いはずだ。



 ミヤの記憶。


 幼い頃から父親(つまりアトミ達の祖父)は死んだと母親から聞かされていたが、実は未だ生きているとミヤが中学校を卒業する頃に知らされた。向こうはミヤ達のことを知らないし、精神を患っていて薬が切れると錯乱状態、薬が効いているときは廃人同様、最期のときが来れば病院か施設から連絡が入ることになっているだけで、戸籍上は他人なのだと。

 そんな男の子供をどうして身籠ったのか、あるいは身籠ってから男が発狂したのか、語られることは無かった。


 ミヤには鳥を、妹の未由は猫を操る能力があった。今のアトミとミサキのように互いに意識を共有するよりも、ミヤは鳥と、未由は猫と同調することが多かった。

 異性を意識する年齢になったミヤは発情期の野鳥と同調することもあった。「恋愛なんて発情と同じ」という考え方をするようになり、どうせ未由も発情した猫を通じて似たようなことを感じているに違いないと決めつけていた。

 やがて母は妊娠し、アトミとミサキを生んだ。

 ミヤの出産後まもなく未由が妊娠した。父親のことは何も言わない美由は何か思いつめた表情で『もし自分に何かあったら赤ちゃんのことを御願い』と姉に懇願した。そして『赤ちゃんの名はミク(未来)』が遺言となった。


 自分達が生まれたのは「発情」の結果に過ぎないのかと思うと何だか寂しい気分になるアトミだが、若くして世を去った未由はミヤとは少し違う価値観を持っていたような気がする。

 アトミの中でミヤと未由、仮想的(ヴァーチャル)な二人の人格が論争をはじめる。

「恋愛から発情を抜いて何が残るのよ」

「夢とか希望とか何かあるはずよ」

「それこそ幻、無いのと同じだわ」

「夢や幻を追いかけて何が悪いの」


 未由は何処かに生きている。ミクを身篭った時から今に至るまで、本能と運命に流されるミヤのような生き方を拒み、呪いのような宿命に抗い続けている。そんな気がしてならないアトミである。


 この家の『呪い』は何処から来たのか・・・それを知るためには『魔女』と呼ばれた祖母に問うべきなのだが・・・ここで何時もアトミの思考は止まってしまう。それこそ呪いのように、過去を覗き見ることも忘れている。


 それでも、真実を知る時が近いことをミサキは予感していた。


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