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父帰る

18話を改稿、追加し再投稿です。

 竜斗の耳に『・・・汗かいてフェロモンムンムンのミサキをよろしく・・・』というアトミの囁きが残っている。昨日ミサキの胸で顔を塞がれた感覚が蘇り、上気してしまう。また鼻血が出ていないか心配になり、口元に手をやる竜斗。


 (ちょっと頭を冷やしに教室の外に出よう)

 短い休憩時間を利用し、トイレへ向かう竜斗。



 そう言えば爺っちゃんが言ってたっけ。


「良いか竜斗。これから御前が見えない気配に敏感になってくると、霊のようなモノのほかにも、感じ易くなってくる。何じゃと思う?」

(?)

「女じゃ。生身の女が、前よりも気になってくる。すると不思議なもので、女の方からも寄ってくるのが増える」

(え?マジで?)

「じゃが勘違いして色恋沙汰に溺れると、修太朗みたいなことになる」

(親父が・・・)

 竜斗の脳裏に蘇る、忘れたい悪夢・・・格闘技界のヒーローだった父の頭に女性用下着・・・。

「あんなふうになりたくなかったら、用心することじゃ。場合によっては、女も悪霊と見做して祓ってしまうぐらいのつもりでおったら良い」

(そんな・・・女子に向かって悪魔祓いの儀式をしていたら、イタい中二病じゃないか?)



 祖父の言葉を思い出しながら、トイレで用を足して(のぼ)せた頭が少し冷えた。


(あ、またあの気配だ)

 廊下の窓から見える中庭に植えられた木の枝に、昨日と同じような「邪気」を漂わせた鳩が停まっている。


 黙って九字の呪文を唱えながら両手の指に気を込める竜斗。

 昨日のような『カ×ハ×波』もどきではなく、祖父のように剣を振る動作でもなく、今日は両手で持った銃で狙って撃つような格好のヴァージョンになった。


(!)


 今日は昨日より手応えを感じた。

 何かソレっぽい技の名前でも付けたいところだが、中2過ぎる・・・。


 キョロキョロしていた鳩は、竜斗の見えない一撃を食らって気絶。

 ぽとりと枝から落ちかけたかと思うと羽ばたいて逃げて行った。


 占い喫茶の二階で窓際に座っていた倉城ミヤは今日も椅子から転げ落ちそうになった。

「ッポゥ、尿漏れ対策しといて良かった」



 教室に戻り、自分の席に座る竜斗。その背中を眺めるアトミ。

 彼女にとって、今さっきの短い休憩時間の短期記憶を読み取るのは比較的容易い。


 なるほど。竜斗くんは父親の女性関係でトラウマがあって、無意識的に女子に対しては引いてしまうところがあるわけね。

 逃げ腰でも嫌われてるとは限らないんだわ。頑張れミサキ。

 それにしても、お母さんたら、懲りもせずに今日も飛んできたみたいね。娘達の学校生活を覗き見し過ぎなんだわ。邪霊扱いされて可哀想だけど、自業自得みたいな気もする。



 その頃、竜斗の家に向かって歩いて来る一人の男の影があった。

 空手道場の看板が見えたところで立ち止まる。

 無精髭を生やし、髪も伸びてボサボサ頭。挙動不審なところがあれば通報されて警官に職務質問されかねないような出で立ち。

 押門修太朗。竜斗の父の現在の姿であった。


 道場と繋がった家屋から人の気配。妻の安三(あみ)かと思い、妹の衣理(エリ)であることに気付かない修太朗。


 窓から門扉の格子越しに、目が会う。衣理も直ぐには兄と気づかない。

 お互い固まったまま数秒間の沈黙。


「兄貴か?」

「衣理?」


 衣理が飛び出してきた。そのまま飛び蹴りでも出そうな勢いで。

 蹴りは出なかったが、(こぶし)を握りしめ、兄の顔面に正拳突き。

 兄が半歩引いて妹の拳は寸止めとなる。


「今は素面(しらふ)みたいね」

「お前、何してんだ?」

「それはこっちの台詞」


 兄の髭面を睨む妹だが。


「まあ入りなさいよ。自分の家なんだから」

「お、おう。安三は居ないのか」

「・・・留守」

「親父は?」

「整体とか頼まれて何とかいう施設に行ってるわ」


 妹に促され、家に入る修太朗。

 酒に酔って妻に暴力を振るっていた記憶が無く罪悪感の希薄な兄に呆れる衣理。

 国際結婚して渡米後、フィットネスのインストラクターとなって現在は息子のトオルを連れて帰国していること、安三に代わって押門家の家事を引き受けていること等を話す。


「臭いから風呂でも入ってくれば?」

「おぅ、すまん。。。」


 浴室で洗髪し、髭を剃る修太朗。

 妹に出してきたもらった衣服に着替え、リビングに入ってくる。


「それで?どうする?どうしたいの?」

「アミに謝る」

「別れたいって言われたら?」

「別れたがってるのか?」

「訊いてみれば?」


 携帯電話を手にする衣理。


「・・・もしもしアミちゃん?・・・うん、エリ・・・あのさ、アミちゃんと話したいって奴が来てんだけど、誰だと思う?」

(・・・修太朗さん?)

「そう、兄貴。どうする?」

(飲んでない?)

「今んとこ素面みたいだけど」


 横から修太朗が割りこむように、

「酒は止めた。本当だ」


「・・・って言ってるけど、何時から?」

「ぃ何時から止めたか覚えてないぐらい前から止めた」


 首を傾げながら衣里が修太朗を睨みつける。



 果たして竜斗の両親の関係は修復されるのか。


今後、水曜と土曜に更新していくつもりです。

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