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幼馴染が勝負

ようやくR-15の面目躍如?

 アトミと入れ替わりにミサキが忍撫の前に出る。


「倉城ミサキです。よろしく」

「矢的忍撫だ。負けぬぞ」

「勝った方が先に彼と食事よ」

「もし断わられたら?」

「二人とも彼との食事はお預けね」

「デートは食事(メシ)抜きか?」

「そういうことね」


 忍撫は大きな目を更に見開き、ミサキは前髪越しに片方の目を光らせる。


「ワァオゥ、コレが『シュラバ』でスか?」

 トオルは盛り上がっているが、竜斗は否定する。

「って、俺は未だ二人とも付き合ってないって」


 しかし、忍撫は真剣勝負のノリで、


「ジャンケン、ポォーンンッ!」


 剣道の試合並みのテンションに観戦者ドン引き寸前。


 忍撫は相手の動きや心の揺らぎを瞬時に読み、僅かな癖も見逃すまいとする。

 ミサキは何も考えずにグー、チョキ、パーを順に出し、連敗したら本気になる。


 ジャンケンの勝率を上げる方法は幾つか知られている。

 一般的にグーが多く、不器用な人はチョキが少ないので、とりあえずパーで負けは少ない。

 暗示に弱い者は勢いで釣ってパーを出させチョキで迎撃とか。

 グーを出すキャラを演じてパーを誘導するとか。

 いずれもミサキには無効であり、ミサキ自身にとっても無用である。


 一瞬先が見えてしまうミサキにとって、実は負ける方が難しい。

 但し、連続して予知能力を使うと意識が飛んでしまうので、偶然に任せた連勝を待つ。

 怪しまれない程度に(もつ)れ、連敗のあと連勝したところで宣言する。


「部活もあることでしょうから、そろそろ終わらせましょうか」


 そう言って拳を振り下ろす瞬間、ミサキの左眼が鈍く輝くのを竜斗は見逃さない。


 ミサキ二連敗後に三連勝で決着。

 全力で落胆する忍撫。ざわつくギャラリー。


 ミサキに代わってアトミが勝利を宣言する。

「これで竜斗君との食事はミサキが先よ」

「分かった。竜斗、そいつと、さっさと食いに行け!オレは構わんから」

「だから、未だ二人とも付き合ってないんだけど・・・」


 そういう竜斗の身体から忍撫と接触した余韻をアトミは読み取っている。

「でもね、竜斗君。このまま帰ると今夜ヤバイんじゃない?」

「へっ?」

 首を傾げる竜斗だが・・・


身体的接触(フィジカルコンタクト)でミサキは遅れをとったから、」

 アトミはミサキに視線を向ける。

「竜斗君の夢の中で今夜、矢的さんに先を越されるわ!」


 ミサキは黙って頷くと背中を向ける。

 逃げるように離れて行った・・・かと思うと振り返る。


 アトミが叫ぶ。

「竜斗君、ミサキをお願い!」

「へ?」

「ミサキを受けとめてあげて!」


 一瞬、ミサキの左眼が光ったかと思う間もなく、

 助走をつけてホップ、ステップ、ジャンプ・・・竜斗に向かって三段跳!

 そのまま目を瞑って捨て身のダイビング・アタック!

(何じゃそりゃ?)

 絵に描いたドジっ娘のように顔面を地面にぶつける勢い。

 竜斗が逃げれば彼女が怪我しそうなので思わず抱き止める。

 膝を使って衝撃を和らげ後方にステップし、辛うじて転倒を免れる。


 中腰で踏ん張る竜斗を両太腿で挟み込むように抱きつくミサキ。

 彼の首に両腕でしがみつき、彼の顔に自分の胸を押し付ける。

(い息ができないっ)

「ありがとう!私を受け止めてくれて」

(って、そっちから飛び込んで来・・・い息がっ)

 天国と地獄。


「ストーップ!」

 いつの間にか『風紀委員』の腕章を巻いた舞と花が駆け寄る。

「ピピピッ、イエローカード!」


 先輩が惚れ込んだ幼馴染を奪われかねない状況。

 後輩達はサポートする側につくことを選んだ。

 剣道部員に囲まれたミサキはアウェイだった。

 

 ミサキが離れ、息継ぎする竜斗。

「・・・プハァッ」

(何だったんだ、今のは?)


 呆然となっている竜斗にアトミが低い声で囁く。

「これで今夜のオカズが一品増えたでしょ」

「な何言ってんですか倉城さんっ」

 竜斗は赤面する。


「これでどうにか矢的さんに追い付いたかな。ミサキも頑張ったね」

「うん、私頑張ったよ」

 ミサキも赤面している。


「竜斗君、夢や妄想でも、ミサキのことをよろしくね」

「い意味が分かりませんっ」

 惚ける竜斗だが、ミサキに抱きつかれた余韻は残っている。


「何の話かよく分からんが、オレのことも忘れるなよ」

 落胆から立ち直った忍撫が口を挟んだ。

「忘れないと思います」

(高反発素材の感触とか・・・)


 忍撫が竜斗の異変に気付く。

「竜斗、鼻・・・」

「え?・・・あ!」

 自身の鼻の下を伝う感触。手に触れて確かめる。

(なんじゃこりゃぁ・・・って何十年前のネタだよ)


 鼻血だけでは終わらないかも知れない、高1男子の(みなぎ)る血潮。



 一部始終を興味深げに見守っていたトオルが伊部舞に尋ねる。

「エー、こおゆうのお、ドタバタ・ラブコメ、いいまスか?」

「知りませんよ」



 鼻血を垂らす竜斗にアトミが謝っている。

「今日は突然こんなことになっちゃって御免なさい」

「ぃゃ、まあ、そもそも俺が思いつきでノブと勝負したせい・・・なのかな」

「そうね。矢的さんに先を越されたくなかったから・・・」

 竜斗は丸めたティッシュで鼻を押さえている。

「そういうミサキの気持ちを、竜斗くんは体ごと受け止めてくれたわね」

「ぁ、あれは強引だったが・・・ふんがっふ」

「食事の件は、また明日、相談させてね」

「ぉ、おぅ」

「もう『お食事』の段階は飛び越しちゃった気もするけど」

(こちそうさまでしたっ・・じゃなくて、ふがふが)



 忍撫を含め剣道部員らは部活へ、倉城姉妹はバイトがあると言って帰宅。

 竜斗とトオルも家路についた。



 二人の女子と接触した体験の余韻を持ち帰ることになった竜斗。

 今夜、叔母の衣里(エリ)に見られてはいけない、(ほとばし)る青春。


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