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放課後、勝負。

 武道の授業が終わり、生徒らは制服に着替え、それぞれのホームルームへ戻る。


 竜斗がトオルと共に柔道場から戻った教室に、剣道の授業を終えた伊部舞が入ってくる。ミサキと別れたアトミは未だ来ない。


「あの、伊部さん」

「はい?」

(オシカド君だっけ?話しかけてくるのは珍しい)


「伊部さんって、剣道部だったっけ?」

「そうだけど?」

「ちょっと訊きたいんだけど・・・今の1年に剣道が上手そうな女子はいない?」

(え?その質問は・・・)


「さぁ、大したのは見当たらないんだけど・・・」

「うちのクラスの倉城さん、双子の妹がいるのは知ってるよね。彼女は・・・」

「ちょ、待って。それと同じようなこと、矢的(やまと)先輩から訊かれたんだけど・・・え?、もしかして、先輩の『知り合い』って、押門君?先輩と、どういう関係?」

 舞が血相を変えて(まく)し立てる。

「あ、ノブならガキの頃のケンカ友達みたいな」

「ノ、ノブ?…忍撫様のこと?…い、いわゆる幼馴染?」

「まぁ、そういうことになるかな」

「ま、まさか付き合ってたりとか」

「ないない。それより、倉城妹の剣…」

「ん〜、普通の初心者にしか見えないんだけど…どうして倉城さんを先輩と勝負させたいわけ?」

「あ、そんな話を今朝したっけ…えーっと、」


 トオルが話に割り込む。

「イェース、シノブちゃん、ミサキちゃんとショウブ、かったほうがリュウトをムコにするイッてまシた」

「む、ムコ?」

 舞が絶叫する。


「話ややこしくするなよトオル〜」

「む婿って何よ、どゆ意味?」

「いやノブが勝手に言っただけで俺は知らん」

「そのノブって言い方やめて欲しいんですけど…」


 ちょうどアトミが教室に入って来る。同時に6限目開始のチャイム。


「続きは後で聞かせて」

 そう言い残し、落ち着かない様子で自分の席につく舞。


 興奮している舞の横顔と困惑する竜斗の背中から経緯を読み取るアトミ。

 さっきまでミサキに向けられていた敵意の矛先が竜斗に振り向けられている。

 アトミ自身を巻き込む三角関係に悩む前に、別の三角関係が浮上しつつあるようだ。

 舞から竜斗に向けられた、憧れの先輩を奪うかもしれないという疑惑。異性への嫉妬とは話がややこしい。

 その先輩が竜斗に本気なら妹のライバル出現。また別の三角関係なわけだけど、こっちの方が分かりやすいか。アトミのライバルにもなりうるのだけれど、今は妹をサポートしよう。



 竜斗は戸惑う。自分が口にした言葉が切欠で波紋が広がってるみたいだが。ここは自分が出て事態を収めるべきか。考えあぐねているうちに、6限終了のチャイム。



「で、先輩と押門君の関係は?」

 再び返答を迫る舞に竜斗が応じる。

「ま、ただの幼馴染だ。それ以外の関係は無いんだが、本人がどういうつもりなのか、訊いてみてくれ。俺も少し話があるから、今から会いに行く。ノブじゃない、矢的さんは部活?」

「そうよ」

「よし。じゃ、女子剣道部まで案内してくれ」

「分かった」 



 剣道場の女子更衣室前で、矢的忍撫に山岡花が報告している。花の同級生であるミサキについて、剣道は初心者レベルで、実力を隠していないとは言い切れないけれど、先輩とは雲泥の差であると。

 そこへ伊部舞が竜斗を連れて来る。トオルもついて来ている。


 竜斗を見て忍撫が瞳を輝かせる。

「おぉ、竜斗。オレに会いに来たのか!」

 あい変わらず一人称がオレの女子である。

「うちのクラスの伊部さんが矢的さんに訊きたいことがあるそうだ」

「何だ」


 忍撫に向かって舞が口を開く。

「あの、先輩と押門君は、どういう関係なんですか?」

「竜斗は幼馴染で、オレの婿になる男だ」

 唖然となる舞に竜斗が、

「…だそうだ。俺は未だ同意していないが」


 竜斗が割り込む。

「その、婿入りの話は、いつ何処から出た?」

「けさオレが決めた」

「勝手に決めるな。付き合ってもいないのに」


 忍撫が竜斗に問いかける。

「オレじゃ嫌なのか?知らぬ仲でもなかろう」

「だから、ガキの頃の付き合いは違うだろう」

 苦笑する竜斗。


「あのミサキとかいう女の方が良いのか?」

「倉城さんは関係無い!俺は武道を修行する者として、彼女の身のこなしに興味を持っただけだ」

「それでオレの剣を(かわ)せるかもとか言ったのか?」

「そうだが、武道の心得がどの程度かは何となく判った。だから、もう倉城さんと勝負なんかしなくて良い!」

(本当は未だ忍撫とミサキの対戦に興味があるのだが・・・話がややこしくなりそうなので諦めよう)


「何か釈然とせんなぁ・・・」

 竜斗がミサキとかいう女子を庇っているみたいな気がして心穏やかになれない忍撫。


 このとき竜斗は自分でも思いがけないことを口にしてしまう。

「ノブ、いま思いついてしまったんだが、代わりに俺と勝負しないか?」

「どんな勝負だ?」

「その木刀が俺に触る前に、此方(こっち)は素手で御前に触る。先に触った方が勝ちだ。そっちは本気で斬っても突いても良い。此方が剣を掴んでも負けで良い」

「竜斗は素手で木剣をかわすのか?面白いが、舐め過ぎではないか?」

「勝算の無い挑戦はしない。俺が勝ったら『誰々が誰々を婿にする』とか言うのを止めてもらおう。負けたら何を言ってもよい。どうだ?」

「・・・オレは構わない。竜斗と勝負できるなら望むところだ」

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