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目撃

オンライン小説としては処女作です。 (2014.10.1 改稿)

 某私立高校の放課後。野球部員達が練習試合をしているグラウンドと校舎との間の通路を移動する生徒達の中に一人の男子、押門竜斗(おしかどりゅうと)がいる。家が空手道場で、最近は武道家の祖父から古武術を習っている彼は、意外なものを目撃する。


 突然、斜め後ろ上方からの物音に気付く竜斗。音がした方から彼の頭上を通過し、飛来する球状の物体・・・恐らく野球のボールが落下する先に、竜斗の少し前を歩いていた一人の女子生徒。

(ぁ・・・)

 彼が声をかけても間に合いそうもない、飛来した球体が彼女を直撃するかと思われた瞬間、上体を捻りながら後方に反らす女生徒。・・・文字どおり間一髪で、球体は彼女の顔と胸をかすめるようにして落下。


 路上を弾んで行った球体は、やはり硬式野球のボール。硬球が何処をどうバウンドして女生徒を背後から襲ったのか?ということより、咄嗟にかわした彼女の動きに唖然となる竜斗。


 あの角度から来られて、あの方向へは動かないだろ普通・・・そもそも斜め上後方という死角から襲われる状況に反応できる女子なんて・・・さっきのは気がつく前に当たってるだろ。気がついても固まって動けないだろ。しゃがみこもうとするのがせいぜいで、動けたとしても本能的に前に逃げようとするのが普通だろ。それが飛んで来る球と対向する最小限の動きで・・・あの場合それが最適解なんだが・・・俺がいま稽古してる武術で言えば『後ろ向きの入り身』なんて、超絶技巧すぎる!


 球を()けた彼女は何事もなかったかのように、そのまま歩いて行こうとするが、咄嗟に学生鞄を手放していたことに気づいて振り返り、しゃがんで鞄を拾い、立ち直ったときに竜斗と目が合う。さっきの動作で少し乱れた前髪の隙間から覗く彼女の片方の目。その瞳に引き込まれるような、何か異様なものを感じる竜斗。


 彼の脳内では彼女の動きがプレイバックされている。映画『○トリックス』の1シーンか、フィギュアスケートの『イナバウアー』を思い出させるような上体反らしで球を避けていたときも、彼女の瞳には片方だけ異様な輝きがあった。アニメなら光りながら回転する小さな魔方陣を重ねたいところだ。そうだ、あれは『魔眼』・・・


 竜斗の妄想は、『ゃば・・』と呟く彼女の唇の動きで中断され、止まっていた時間が動き出す。彼女の顔半分は前髪に隠されたが、何処か恥じらいと哀しみが入り雑じったような表情が漂っていた。そんな印象を残して立ち去る彼女を目で追う、竜斗の脳内リプレイが止まらない。あの動き、あの娘の仰け反り、けっこう胸がありそう・・・などという雑念が全く無いと言えば嘘になる、高1の春。


「スキアリッ、アチャァッ」


 竜斗の背後から声がして、一人の男子がジャンプし、キックを当てようとするが、体を半回転させて難なくかわし、すれ違い様そいつの背中を軽く蹴る竜斗。


「相変わらず動きに無駄が多いぞ、トオル」

「ヨクゾかわした。オレのヒッサツわざ」


 飛び蹴りに失敗し、しゃがみこむように着地、片手をつき辛うじて尻餅を免れたのは、トオル・カーチス。日米のハーフで、竜斗の父の妹の息子つまり従弟になる。留学生として同じ高校に通うクラスメートでもある。格闘技オタクで、カンフーの技を試そうと、ときどき竜斗に挑みかかって来る。


 竜斗は自身の武道修行の足しになればと、『隙があったら何時でもかかって来い』とトオルに言い渡し、挑戦を受け続けている。『先に背中に触れたら勝ち』というルールで、未だ一度も負けていない。


 実は『死角からの攻撃を見切る』というのが正に今の竜斗の課題だ。それだけに、さっきの女子、あの体捌きが気になってしょうがない。

 女生徒が去って行ったほうを眺めている彼にトオルが、

「リュウト、あのジョシのオシリ、キになりまスか?」

「尻?・・・じゃない。」 

「オシリよりムネですか、やっぱりミサキちゃんわ」

「え?、さっきの女子のこと知ってんの?」

「オフコース!、おなじクラスにフタゴのオネエサンいまース。オネエサンのほうスコシだけオシリおおきくて、ミサキちゃんのほうスコシだけムネおおきい。だから、あのオシリ、ミサキちゃん」


 双子姉妹の尻を見分けるって、どんだけ・・・と、呆れる竜斗に、トオルが語り続ける。

「リュウト、ジョシにカンシンあるメズラシイ。あいにいきまスか?」

「え?」

「かのじょバイトしてるオミセしってる、ボクもミサキちゃんトモダチなりたい、オッパイわセイギだ」


 トオルの「正義」は意味不明だが、彼女のことは気になる、胸のことではなくて。武道の心得でもあるのか、きいて確めたい。竜斗は躊躇(ためら)いながらも、トオルに誘われるまま、彼女のバイト先だという喫茶店を訪ねることにした。


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