表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グリーンスカイ  作者: KOBO
プロローグ
8/19

電話の相手

デスミオス島 アミルヤ地区

A.M.1.40


ダイアーはベッドに腰かけ、まだ動揺しているベンに話かけていた。

「この不死身の薬をラットに投与したところ、8体のラットの内、全てのラットに細胞の変化がみられました。8体の内、5体は自己再生能力をつけ、今も正常な状態を保っています。残りの3体は、他の5体と同様、自己再生能力をつけましたが、数時間以内に精神が異様に錯乱したんです。そして、消滅しました」

椅子に座り、下を向いていたベンが、驚いて顔を上げた。

「消滅?」

「ええ。その3体のラットなんですが、薬の投与後、10分以内に、ある精神的な刺激を与えてみたんです。目の前で死を見させたり、猫に襲わせたりね。すると、3体とも実験後、異様な痙攣が起きました。それも長時間。ですが、やがてその痙攣はおさまり、正常な心拍数に戻りましたが、一週間後・・・。これは、口で説明するより、自分の目で見た方がいいですね」

そういうとダイアーは立ち上がり、ベッドの枕もとにある小型空間映写機を起動させた。空間に映しだされた画面の中から、お目当てのファイルを見つけ、そのファイルにあった定点カメラの映像を再生した。

定点カメラが、3体のラットを映しだしている。最初ラットは、ただケースの中を動き回るだけだった。だが数分後、1体が突然激しく痙攣し始めた。映像を見ているベンも、驚いて空間の画面に食い入った。ラットは数十秒痙攣を続けた。ケースがカタカタと音を鳴らすほどだ。そしてなんの前触れもなく、それは起きた。

 突然ラットの目の光が消えると、一瞬ケースが内側に凝縮し、次の瞬間、爆音とともに粉々に吹き飛んだのだ。煙が辺りを覆い、何も見えなくなった。ダイアーは、そこで映像を切った。

ベンは口をあんぐりと開けていた。

「こういうことだ。薬を投与後、少なくとも10分間は、なんの刺激も与えてはいけないんだ。私にもね」

ベンが再び口を開きかけた時、携帯電話が鳴り響いた。ベンは口をつぐみ、ちょっと待っててくれと言って家の外に出た。

     ♢ ♢ ♢ ♢

まだ暗い外に出たベンは、すぐに携帯電話の向こうの相手と会話を始めた。

「お前か。こんな時間になんの様だ」

(ベン、計画はちゃんと進んでいるのか?)

「もちろんだ。それがどうした」

(いや、何か進展があったら、すぐに伝えろと忠告したはずなんだが、貴様は何も言ってこないんでな。)

「仕方ないだろ。あまりにも衝撃的なものを...。え、まさかお前、監視しているのか⁉」

(映像だけな。音声は聞こえない。だが、映像だけでも、貴様の蒼白な顔を見れば、誰だって何かあったと思うだろ?)

「分かった。言う。あんたの言うとおりだった。ダイアーは、不死身の薬を開発していた」

(やはりな。)

「目の前で映像を見させられた。どうやら、あの薬は副作用があるらしい。薬を投与後、10分以内に被検体に刺激を与えると、被検体が死亡するらしい」

(死亡って、どんな風に?)

「痙攣が続き、一週間後に、跡形もなく蒸発する。爆発してな」

(…原因は?)

「分からない。俺が薬について知ってるのはこれぐらいだ。詳しいことは後で話す」

(ああ、わかった)

「それで、どうする。薬は今奪うのか?」

(いや、まだだ。まだやるべきじゃない。計画通りに、決められた時間で奴を襲うんだ。いいか、絶対に時間外に計画を実行してはならない。わかったな)

「...本当にやるんだな?」

(当たり前だ。娘がどうなってもいいのか?)

「私の、娘に、手を出すな」

(大丈夫だ。お前が計画に失敗せずに、薬を持ってここに戻ってくれば、娘は返してやる)

「娘にかすり傷一つでもつけてみろ。その時は、お前らを殺してやる」

(楽しみに待ってるさ。…だが貴様が計画に失敗した場合、娘の命はないと思え)

通話はそこで切れた。ベンは、壁に寄りかかり、携帯電話を顔に押し付け、怒りと悲しみで顔を歪めた。青白く輝く月が、彼の顔を照らし、亡霊のように浮かびあがらせていた。

   ♢ ♢ ♢ ♢

ベンが玄関から戻ってきた時、ダイアーは薬をスーツケースにしまっているところだった。スーツケースには薬が他に二つあり、どれも同じラベルが貼ってあった。

「大丈夫か?」ダイアーは、ベンの表情が、明らかにさっきと変わっていることに気づき、心配気に話しかけた。「何かあったのか」

ベンは、平凡を装い、作り笑いを浮かべてこう言った。「いや、なんでもないよ」

ダイアーは、ベンの様子がおかしいことに気づいたが、あえてこれ以上何も言わなかった。

「なあ、ダイアー」ベンは深刻の面持ちで言った。

 ダイアーはスーツケースを閉じながら答えた。「ん?」

「なんで私を、この極秘実験に呼んだんだ?首の傷が痛むなんて嘘までついて」

 ダイアーは、とっくに自分の嘘が見破られていたことに恥ずかしさを覚えたが、顔を上げて笑って言った。「あなたを信頼しているからさ」

 ベンは迷っていた。信頼してくれている人を裏切ろうとしている自分が情けなかった。だがそこで、娘の顔が浮かんだ。まだ幼い娘が、奴らの人質になっている。見捨てるわけにはいかない。たとえ何が起ころうと、娘を救い出してみせる。

 ベンは決心したように心の中で頷くと、椅子に座って言った。「さ、実験のことについて、もっと聞かせてくれ」

 それからダイアーとベンは、今朝の人体実験について、詳しく話し合った。不死身の薬のことや、待ち合わせの場所などを伝えた。

それから数十分後、ベンはダイアーの家を出ていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ