ビースト
ミーレンス大陸 トゥイナ街
A.M.1.20
ビーストは、薬の小瓶を布切れにかけ、首筋にあてた。痛みがすぐに和らいでいく。そして、小瓶をテーブルに置いた。部屋をでると、廊下に立っていたトムという名のビーストの部下が、彼に敬礼した。ビーストは、それには見向きもせずに歩き始める。トムは慌てて彼の後を追いかけた。
「ビースト司令官、聞きたいことがあるのですが」
ビースト。もちろんその名は本名ではない。本当の名前は、とうの昔に捨てた。今では、大陸を支配している独立組織アローのリーダー、ビーストと恐れられている。
「なんだ」ビーストは、振り向かずに答えた。
「今日の臨時集会では、なにを話すおつもりなんですか?」トムは早足で、ビーストについていく。
「なにも考えてないな」ビーストは、しばらく考えたあと、トムに言った。「お前が考えろ」
「私に?はっ。ふざけているのですか」トムは驚いてビーストを見つめた。
「誰もなにもふざけてなどいない。だいたい、今日の臨時集会は、お前がやれと言ったのだろう」
「確かに言いました。ですが、まさか今日やるなどとは思ってもなく...」
トムはこの後もどうでもいい言い訳をべらべらしゃべり続けたが、ビーストはなに一つ聞いていなかった。
いっそこいつの頭をかち割ってやろうか。
ビーストはそう思っていた。