バックス•アーティ
ミーレンス大陸 タナルバ地区
A.M.1.00
バックス•アーティは、川からくんできた水をタオルに染み込ませ、首筋に当てていた。痛みは多少和らいだものの、悪夢のせいで気分が悪い。あと数分で出かけなければ行けないというのに。
バックスはベッドから立ち上がり、寝室を出た。廊下を歩き、子供部屋のドアを開ける。中にはボロボロのフィギアやポスターが飾ってあり、部屋の端のベッドに、ライアンが寝ていた。なんとも可愛らしい寝顔だ。
世界から資源が消えたあの日、絶望と混乱のなか、バックスの妻は死んだ。夫と子供を残して。あの日から10年が立った。それまで警察官だったバックスも、息子のため、物資を奪いあい、人を殺した。だから生き残った。だが、時々ひどい罪悪感におそわれる。どんなに正当化しようとしても、罪の意識に耐えられなくなる。息子の顔を見るたびに。息子の幸せそうな顔を見るたびに、自分は人殺しだと感じてしまう。そして毎回こう思う。
だから生き残った。
そう。だから生き残ったのだ。
バックスは自分にそう言いきかせ、子供部屋をあとにした。リビングに行き、机に立て掛けてある刀を手にとる。そして、近くに置いてあるリュックサックを持った。
今から友人と一緒に、地下刑務所に向かう。物資の調達のためだ。
バックスは、玄関に行き、ドアを開け、危険な暗闇の世界に飛び出した。