夢
私はそこにいた。
淡い光に包まれているその部屋に、私は立っていた。
そこには光しか無かった。
ふと見ると、部屋の一角の壁に、黒い染みがあった。立たずんでそれを見ていると、その黒い染みは、やがて広がっていき、闇にかわり、闇は人の形になり、壁の中から姿を現した。人は、足元に暗い霧を放ちながら、ゆっくりと近づいてくる。私はなぜか、恐怖というものを感じなかった。ただ流れに身を任せ、ゆっくりと伸びてくる手に、抵抗さえしなかった。人は私を締め上げ、息の根を止めようとした。
だが、そこで突然痛みを感じ、人の手が、私の首を締めあげているのに気がついた。初めて恐怖を感じた。必死に抵抗した。だが、だんだんと意識が遠のいていった。
その時、私は右手の中にナイフが現れるのを感じた。私はためらいもなくそのナイフを人の腹に突き刺し、腹を引き裂いた。どす黒い液体が腹から流れ、首を締めあげる手が離れた。人はよろめきながら、後ずさりし、憎しみの目でこちらを見てきた。
「きっと後悔するぞ」人はノイズ音のような声で俺に話しかけてきた。
どす黒い液体は蒸発し、その煙で、人の顔が一瞬隠れた。人の目は憎しみと哀れみに溢れていた。
「お前は何なんだ」私はやっと声を発した。
人は壁に染み込み、闇になり、闇は黒い染みになり、部屋の中から消えた。結局、その問いに、人は答えなかった。
私はただ右手にナイフを手にしたまま、その光景を見ていた。
その後、何が起きたかは覚えていなかった。