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笑われるのが私の仕事

「よっしゃー! みんな見て見て、藤咲ミソラのスーパーエアギター! ぎゅいーん、とぅるるるとぅるるる、ぎゃうぅぅーーんっ!!」


 教卓の上に飛び乗ってグルグルと腕を振り回し、私はホウキを掻き鳴らす真似をする。その動きの中で教卓を強く踏みつけ、元々バランスの悪い教卓をわざと揺すった。


「わっ、わっ……」


 どんがらがっしゃーん!


「いったーい! お尻打ったぁぁ~~!」


 私の大袈裟なパフォーマンスに、クラスのみんなは抱腹絶倒、大爆笑。よしよし、今日も絶好調だ!


「こらああーっ! 一体何を騒いでるの!? 職員室まで響いてるわよ!」

「ごーめんなさーい!」

「また藤咲さんなの? もう高校二年生なんだから、大人の自覚と落ち着きを持って行動しなさいっていつも言ってるでしょ!」

「ハンセーしてまーす!」


 明らかに反省の色がない私の態度に、クラス担任のケイコ先生は目頭を押さえて溜め息をつく。その後で何か言いたそうに目を向けて来たけど、結局そのまま無言で去っていった。

 大方、私を“バカな奴”とでも思ったんだろう。余計なお世話ですよー。


「ミソラ、これを使え!」


 そう言ってクラスメイトから渡された物を反射的に受け取り、


「おー! ……って何これ、ピコピコハンマー?」


 その物体を見てリアクションに困る。私にコレでどうしろと言うのだね?


「やられっぱなしで黙ってるお前じゃねーだろ? ケイコちゃんに仕返ししてやれ!」


 わ、私に先生を殴って来いとおっしゃいますかアナタ様は!? いくらピコピコハンマーでも、冗談じゃ済まされないのでは……。


「やーれ! やーれ! やーれ!」

「……う、ぅぅぅうううよっしゃああぁぁーーっ! 私にもしもの事があったら、お線香くらい上げてよね!」


 くそう、みんなの期待に応えるのも楽じゃないよ。こうなったらもうヤケクソだ! 私は廊下へと飛び出し、ケイコ先生を追いかけた。


「おりゃああーーっ! ケイコ先生がなんぼのもんじゃぁぁーーい!」

「ちょ、何!?」


 ピコハン片手に猛然とダッシュしてくる私に気付き、ケイコ先生は驚いて悲鳴を上げる。


瞬裏閃影流しゅんりせんえいりゅう・奥義──『絶刀三段斬り』!」


 すり減った上履きで廊下を滑り、目標との距離はゼロ。ケイコ先生の脳天目掛けて、ピコハンを振り下ろす。


「ひとつ!」


 ピコッ。


「ふたーつ!」


 ピコッ。


 その時私は、先生の顔が鬼のように変化していくのを見逃さなかった。


「みーっつ、あらっ!?」


 私は咄嗟にバランスを崩したフリをして、廊下の壁まで吹っ飛んで激突して見せた。それを背後から見ていたクラスメイト達から、一斉に笑い声が上がる。よし、ウケてる!


「えへへへ……ケイコ先生、ちっす!」

「アナタねぇ……放課後生徒指導室へ来なさい! これも没収!」


 ひえぇ大噴火だ。笑ってごまかす作戦は失敗。痛い思いをした甲斐がないよ、とほほ~……。


「勘弁して下さいよー。そのピコハン、私のじゃないんですから」

「じゃあ誰のなの!?」

「……え……えーと、嘘でした。私の私物に間違いないです、はい」


 ぬおお、クラスメイトを守るために余計な罪まで被ってしまった!


「ほら、お昼休みももうすぐ終わりよ。いつまでもバカな事やってないで五限目の用意をしなさい」

「サーイエッサー!」

「サーは男性に対して使うんだけど?」

「イエスマム!」


 無事(?)にケイコ先生から解放され、クラスメイトの元へ戻る。


「ごーめんよ。ピコハン取られちゃった」

「いいってそんなの! やっぱミソラってお笑いの素質あるよ」

「そーかい? えへへ、じゃあ明日は新作でも披露しようかね!」

「マジ!? 何やるんだよ!」

「そりゃー見てのお楽しみってヤツですよ。腹筋やばい事になると思うからバン○リン用意しといて!」

「サ○ンパスじゃダメ?」

「どっちでもよろしい!」


 そんなどうでもいいような会話をしていると、五時限目開始のチャイムが着席を急かすのだった。


 ──放課後。


「さてさて。新作やるって言っちゃったし、何か用意しておかないとね」


 口ではそんな事を言いながら、やる事はちゃんと決まっている。そう、エアドラムだ。


「エアギターもさすがにそろそろマンネリだし、いい機会だったかな」


 寂しく独り言を呟きながら向かった先は、音楽室。


「おっじゃまっしまーすっ!」


 音楽室では当然ながら、軽音部が活動中だ。


「あ、ソラちゃん先輩! どったの~?」


 この人懐こい笑顔で擦り寄って来る金髪碧眼の女の子は、軽音部ではベース担当の“リンカ”ちゃん。イギリス生まれの日本育ちで、英語は全く喋れない。ちなみに日本語も微妙。


「およ? リンカちゃん一人なの?」

「うん。ケーちゃん先生が来ないから、レム君とウタちゃん部長は探しに行っちゃった」


 リンカちゃんの言うケーちゃんとは、ケイコ先生の事。ケイコ先生は私のクラス担任であると同時に、軽音部の顧問でもあるのだ。今は生徒指導室で私が来るのを待ち構えているはずだから、ここには絶対にやって来ない。

 しかしレム君(リンカちゃんの双子の弟でドラム担当)とウタちゃん部長こと(ながれ)先輩(本名・流巡歌(ながれ・じゅんか)。軽音部部長でキーボード担当のセクシーお姉さん)が留守とは好都合。では、リンカちゃんにも消えてもらおうか。


「ケイコ先生なら生徒指導室に閉じ込められてるらしいよ。一体何をやらかしたのやら」

「ホント!? ケーちゃん先生ならいつかそうなるって思ってたけど、ついにその日が来ちゃったかぁ……じゃあアタチ、迎えに行って来るね!」

「ごゆっくりー」


 こうして私は、まんまと『音楽室で一人になる』というミッションを達成するのであった。

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