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おにぎりメイカー

「ギルティ!」


 近所のローソンを出た途端、店の外に立っていた女子高生が叫んだ。完全に俺を睨んでいた。怖い。無視して通り過ぎ、自分の車に乗り込もうとしたら、女子高生が凄い速さで追いかけてきて、もう一度叫んだ。


「ギルティ!」

「え、なんなんすか。」

「あんた、今コンビニでおにぎりを三個買ったよね。」

「え、はい。」

「見せて。」


 意味が分からない。目つきがめっちゃ悪いし半ギレだし、なんで女子高生にキレられてんだろう。女子高生にキレられるなんてご褒美だな、みたいにインターネットに書いてあったけど、現実に起こるとご褒美でもなんでもない。理不尽だし、なんとなく命の危機を感じる。なんか殺されるような予感がする。完全に怯えた子羊となった俺は、コンビニ袋の中のおにぎりを見せる。キチガイに逆らってはいけない。袋の中には、鮭、いくら、明太子。


「なんでこの組み合わせなん?」

「え、いや…。好きな味なんで…。」

「一応訊くけど、どういう順番で食べるん?」

「え、えっと…。いくら、明太子、鮭、です…。」

「ギルティ!」


 こいつがギルティ!って叫ぶたびに、体がビクッてなる。怖いから、そんな赤い顔で大きな声を出さないでほしい。誰か助けてほしい。通報してほしい。


「おにぎりが泣いている。海苔が泣いている。いくらと明太子と鮭も泣いている。彼らの泣き声で、あたしの胸は張り裂けそうだわ。こんなに悲しく、怒り狂うのは久しぶりだわ。」

「え?」

「そんな食べ方じゃ、おにぎりに失礼なんですよ。海の幸、海の幸、海の幸。そんな組み合わせじゃ、3つの味がお互いを殺しあうじゃないですか。この個性の時代に、個性を失わせる選択じゃ駄目なんですよ。味だって、しょっぱい、しょっぱい、しょっぱい、って同じ方向だし。色だって、赤、赤、赤じゃないですか。全員同じ色に染まれ、決して目立ってはいけない、そんな抑圧から現代に蔓延る病が生まれてきているのは、あなたもご存知ですよね?」

「…」

「この3つの味の中で、一番好きなのはどれなん?」

「え…っと…。鮭、です。」

「うん、一番好きな味を一番最後に持ってくるのは正解です。この最後の味を、一番引き立てることをしないのがあなたのミスなんです。この鮭おにぎりを、最高に美味しく食べるための努力が、あなたには足りなかったんです。三流もいいところ。この店のおにぎりメイカーの中では、あなたは最下位です。0点です。」


 目の焦点が微妙に合っていない状態で、まくしたてる女子高生。


「まず、サード(3個目)の鮭に繋ぐための、最高のパスを出せる、そんなセカンド(2個目)について考えてみましょう。鮭のしょっぱさを楽しむために、口の中をさっぱりさせるならば、梅が良いでしょうね。また、鮭の味で爆発するために、できるだけ薄味で主張の弱い味を選ぶならば、プレーン(具なしの塩むすび)もアリでしょう。あなたは初心者のようだから、わかりやすくプレーンが良いでしょうね。」


「そして、セカンド(2個目)のプレーンに繋ぐための、ファースト(1個目)を考えましょう。ファーストはその日のおにぎりタイムの方向を決める重要なひと味です。一発かましたい気持ちはわかりますが、ここで気を付けなければいけないのは、サードよりも目立ってはいけない、ということです。全体のバランスを考えると、高菜がベストでしょうね。高菜、プレーン、鮭。草タイプ、ノーマルタイプ、水タイプとバランスが非常に良いです。ただ、これは凡プレイとも言えます。魅せ方が足りない。おにぎりメイカーとしては優秀で負けないタイプですが、つまらないですし、小さくまとまりすぎている。人の心を掴むまではいかないでしょうね。」


「さて、ここで振り返って考え直すと、サードの鮭で爆発するためのセカンドプレーンだった訳ですから、ファーストでもその考えを踏襲する、というのはどうでしょうか。即ち、ファーストでもプレーンを選ぶのです。立ち上がりは弱く、スロースターターですが、その分、最後の爆発は並大抵のものではないでしょう。まさに大爆発、大噴火です。名付けて…」



紅鮭大噴火べにじゃけボルケーノ!」



「…」

「どう?」

「…。あ、えっと…、良いと思います…。」

「よし、じゃあコンビニに戻って、いくらと明太子をプレーン×2と交換してきなよ。」

「あ、はい…。」


 えー?俺、いくらと明太子も結構好きなんだけど。プレーンなんかよりもずっと好きだし、これを食べたいと思ったから今買ったばっかなのに。プレーンとかそんな美味くないだろうがよ。しかもなんで2個も買わなきゃいけないんだよ。と思いましたが、怖いので言われた通り店内に戻る。レジのおっさんにレシートを渡し、交換したいんです、すいません、みたいな感じでいくらと明太子を戻した。そしてプレーン×2を購入。怪訝な目で俺とプレーンを見るおっさん。急ににやりと笑い、親指を立てて叫んだ。


「ノットギルティ!」

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