Act 7
一方、ハルタチとシバはというと、やはりスピネルと同じように外に出る前に一ヶ所寄り道をしていた。
ヘルプによると魔法の発動方法はどうやら個人個人によって大きな差が出る部分だという。
詠唱だけでできる人もいれば、武器を必要とするタイプもいる。
それの確認のため、二人はとりあえず魔道師のNPCにタイプを見立ててもらったのだった。
「ふむ、二人とも詠唱で発現できるお人のようだね、それだけの魔力と適正はある。
よりどころとする自分に合った魔具を見つければまた変わりはするだろうが」
「そっか。まぁそれはおいおい詰めていけばいいかなー」
とりあえず納得するシバであった。ハルタチも特に気にしない方向で行くようだ。
次に二人は得意属性を見てもらった。
「お姉ちゃんのほうは風と水だね。もうわかりやすいほど秀でとるよ。二つの属性は親和性が高いから、極めればかなりいいところまで行くだろう。光の魔法も使えそうだ。あと、大地と火は今は無理だが、魔具があれば少しは扱えるようになるかもしれんね」
「わおー。なにそれ嬉しい。ハルタチさん私できる子!できる子!」
「へーへーようござんすね。じゃ俺は?」
軽く鼻を鳴らしたハルタチを見て、その資質を『診た』魔道師は一瞬ぎょっとしたように硬直した。
「そうか、なるほど鬼精か‥‥‥あんた適正という意味で言えば、全部の属性と適正があるよ。でもおそらく使えるのは攻撃系だけだろうね」
「は?」
「は?」
見事にシバとハルタチの声がハモった。
「そんなことってあるのかよ。俺すげえ」
半ばやけのように笑うハルタチに、シバは無言で蹴りを入れた。
「痛ぇ!地味に痛ぇぞこのちびっこが」
「なんか腹立ったから仕方ない」
「‥‥‥いいかね」
咳払いをして魔道師が二人の掛け合いを切った。
「なんというか、ノスタ・フェアル(鬼精)は大体二つに分かれるのよ。馬鹿みたいに体内にある魔力を肉体強化につぎ込むか、驚異的なほど魔法に親和性を持つ体質か。後者は滅多に現れんのでそうそう見る機会はないのだよ」
一体何がどうなってこうなるのかは知らんが、まあ魔法使いを目指すんなら何よりだ、と魔道師は締めた。
「とりあえず見た感じだと大体は気合いで使えるじゃろうが、一番苦労せんのは炎系統だろ。それにしとけ」
「ほいよー」
むぅむぅと唸るシバ。そんなシバを見てハルタチがやはりにやにや笑う。
「エリートはつらいな?」
「はらたつー」
*
「でも私のほうが熟練度の上がりが早いとか。なんてかわいそうなエリート」
「‥‥‥むかつくー」
フェアル系統は伊達ではなかったらしく、シバは街道筋で見かけたプチニュートと呼ばれる小さなトカゲをあっさりと魔法で倒していた。
とりあえずは水魔法を中心に使用し、『ウォート』という基礎魔法を狙い澄まして敵に飛ばす、という戦法である。要は水鉄砲を凶悪にしたものを当てている、ということである。
「当たらないんだもん仕方ないよね?」
とぶりっこするシバに軽く苛立ちのこもった視線を向けながら、ハルタチは己の熟練度が上がりにくい原因について考えていた。
「ファイアバルッ!ぐっ。また当たらん‥‥‥」
考える間もなく結論は出た。ずばりそれは命中精度の低さであった。
それは魔力コントロールに依存するところであり、ハルタチは魔力があっても魔力コントロールの適性があまりある方ではなかったのである。
ちなみに『ファイアバル』は火を弾丸に圧縮して放つ初級魔法の一つである。
初級とはいえ基礎魔法であるファイアよりは当然難易度は高い。
「コンパクトで扱いきれる力って重要よね‥‥‥ウォート!」
まさにそのシバの言葉がすべてを表していた。
そういっている間にシバはまた相手にしていたプチニュートに見事魔法を決める。
トカゲの鱗が裂かれ、光子となって空中に拡散していった。
「あ。私クエスト終わりみたい。新魔法獲得ー。試してみよーっと」
軽く駆け込んで行ったシバがヘビーリズというオオトカゲに右手を向け、意識を集中させる。
「ウォートブロウ!」
今度は勢いのある水の塊が発射された。まさに拳骨のようなそれは綺麗にヘビーリズの側頭部に決まり、一瞬でヘビーリズはスタン状態に陥った。
「うひょー。いい感じ」
シバは新魔法に思わずはしゃぐ。が。
「ぬあー!」
ハルタチはとうとう堪忍袋の緒が切れたらしく、唐突に叫んだ。
「なんかもう俺むかついた!ちまちまするのってマジで嫌なんだよな!――」
――スキル『マギ・エクスプロード』を使用しますか?
「え」
一瞬ハルタチは何かに中てられたように動きを止めた。が、そのまま目つきを鋭くさせ、渾身の力で叫んだ。
脳内に浮かぶこのフレーズは。
「フレアブレス!」
刹那、あたりの空気が焼けた。
シバは一瞬本当にそう思った。それぐらい一時に周囲の温度が上がったのだ、と分かったのは数秒後。
高温の炎がひと時辺りを埋め、小さなトカゲを、大きなトカゲを、それ以外のものを焼いた。
そして暴虐は幻と見まごううちに消え去った。辺りに残る痕跡は、場違いに散らばるモンスタードロップ程度のものだ。
「あれ」
そしてハルタチは膝をついた。
「気持ち悪い‥‥‥」
どうやら魔力切れを起こしたようだ。こうなるとしばらく休まなければならない。
シバがおろおろとしてハルタチに駆け寄る。
「ちょ、大丈夫?ってか今の何?」
「えー?なんかムカついてたらさー。スキルを使用しますか?ってウィンドウが出た。そしたら知らなかったはずの魔法使えた。俺もびっくり」
確かに驚くべき内容であるが、スキルというなら納得できた。
「なんか爆発型の火山ね?」
「みたいね、じゃないのかよ」
苦笑するハルタチ。
「とりあえずドロップ拾うわ。治ったら機関行こう」
「まかせたー」
あ、そういえば今のでチュートリアル終わったんだ。とハルタチはぼんやり思った。新しく覚えた魔法を確認するより、体内魔力がなくなったことによる嘔吐感に耐えることで今は精いっぱいだった。
MP0になると魔力枯渇、という状態異常に陥ります。
MPの自然回復が非常に緩やかになり、脱力して動けなくなります。
戦闘中は気を付けないと足を引っ張りかねないので大変です。