Act 2
ところが、そんなエトの予想に反して今回の場合はハルタチが正しかったようだ。なぜか他のMOBと距離を置いている3頭だけの群れを、シバがあっさり発見したのである。
『なんてお誂え向きなんだろうか』
いやもおうもない。すぐさまスピネルとエトは武器を構え、戦闘準備に入る。
シバも弓を取り出し、セリディスタも魔符とペンを構えて準備は万端だ。
「よし、みんないい感じだな。頑張れよー」
そう言ってハルタチは、偽善者のような薄っぺらい笑みを張り付けてにやにやと四人を見る。それはまさにほとんどの人が見た瞬間に苛立ちを覚えるような様な表情だ。
その意図にそぐわずエトは舌打ちをし、あいつはまったく、とこぼす。
だがそこでバッサリと切って捨てるのがシバだ。
『へえ。いいけど別に。今回はハルタチさんの範囲攻撃邪魔なだけだし』
「ちょ、待って待って、いや俺もそうだろうなと半分くらい分かったうえでああいったんだけどね!?」
『かわいげがないこと言うからですよ、ああスッピーもう走っちゃったし』
ええっ、と言ったのはハルタチだけではなかった。若干置いて行かれたエトも、心構えが出来ていなかったセリディスタも異口同音に驚きの声を発したのである。
「待て。スッピー、こら!どれ狙うか打合せしてないぞ!」
「ちょ、嘘でしょ、バフかけさせてくださいよー!」
おっと、と急ブレーキをかけるスピネル。
慌てて戻ってくるなりぎゃんぎゃんと男性二人に怒られ、うへぇすみません、と頭を下げる。心なしか尻尾もしぼんでいるようだ。
「まったく。よく確認してから走れ」
「本当です。俺にも準備ってもんがあるんですから」
ひとまずエトはクリムディアホルンを狙うということにし、スピネルはその横にいる大柄なクリムディアに狙いを定めたようだった。
それを聞いてセリディスタも二人に前衛用バフである猛撃功、疾風功、包守陣をかけ始める。
「出来ましたよ」
「ありがとー。じゃあ行きますか、エトさん」
ああ、と頷いたのを見て、どちらともなく走り出す。
やれやれ、とシバは肩を竦めて二人の一撃目がそれぞれの目標に決まったのを確認すると、獰猛な笑みを浮かべて光の矢をつがえた。
「うお、すげえ」
ヒュウッ、と風を切り飛んでくる魔力の矢。だがそれは矢と呼んでもいいものだったのだろうか。
半ば杭のような太さになった矢がエトをターゲッティングしていたクリムディアホルンの喉笛に突き刺さり、ズドッという矢ではありえないような重い音を立てたのだ。
『あ、駄目だこれ疲れるわ。もうしない』
「ええええ」
折角いい見せ場だったというのに、そんなことを言われては力も抜けようというものだ。
「ナイス!って言おうと思ったんだが」
呆れたようにしながらもきれいな回し蹴りを放ってクリムディアホルンに追い打ちをかけるエト。スピネルもラッシュによる疾走と跳躍からの一撃を加え、クリムディアホルンに何もさせまいと絶え間ない攻撃を続ける。
だがそれも長くは続かない。まだ倒し切っていないクリムディアとあぶれたもう一頭の攻撃が迫り、スピネルはしぶしぶ距離を取り、二頭を相手取った。
「臨界、燕蹴脚!」
臨界は次の一撃の威力をブーストする技だ。クールタイムが長く、中々使いどころが難しい。エトはどうやらこの一撃にかけたらしく、新スキルである燕蹴脚を凄まじい勢いでクリムディアホルンに繰り出した。
赤茶色の弾丸は一瞬空中へと飛び上がり、全身を仄かに発光させながら見事な飛び蹴りを決める。
当たった際に漏れた、グィフ、と言うクリムディアホルンの鳴き声もどこかくぐもっているようだ。そろそろ捕獲時だろう。
「捕獲するぞ!」
宣言してエトはチューブをクリムディアホルンに向ける。
後方からセリディスタの麻痺符、昏睡符が矢継ぎ早に飛んできて、とうとう5つほど符が重なったところでクリムディアホルンは膝を折った。
それを確認したエトがふたを開けるなり、クリムディアホルンを光の網がつつんでいく。
8割方体を包み切ったころ、よし、とエトが一人そっと呟いた時。ぶちん、という音がして網がバラバラに散じた。
「うおっ、失敗か!?」
どうやらそのようであった。手に持っていたチューブのアイテム名が『チューブの残骸』に変わっていたのである。
「エトさん、予備渡します!」
スピネルも状況に気付き、さっと走り寄る。シバとセリディスタとスピネルの三人で二頭を何とか抑えている状況のため、特に選んでいる余裕もない。手近なところのチューブを等級も数も気にせず渡し、再びスピネルは戦闘へと戻ってゆく。
「助かる!」
そして再チャレンジ。失敗。もう一度。失敗。
「いい加減、僕に、捕まっておけ!」
掲げる。光の網がまたしてもクリムディアホルンに絡みつく。
「今の発言犯罪っぽくね?」
『わお』
けらけら笑うハルタチとシバ。そっと吹き出すのをこらえるセリディスタ。
女の人にもそんな風に肉食になっていれば今の状況も変わっただろうになあ、とさりげなく一番失礼なことを考えるスピネル。
そんな四人を置いておいて、鬼気迫る表情でエトは光の先を見つめる。
収束する網がチューブに引き寄せられ、今度こそ成功か、というその時、動き出してしまったクリムディアホルンによってちぎれるようにエフェクトが消えてゆく。
「くそっ」
手際よく持ち替えて三度目の挑戦。追加でかかるデバフに再び悔しそうな声を上げてクリムディアホルンが横倒しになる。さあ捕獲だ、と構えたその時。
「エトさんリポップだ!逃げてください!」」
切り裂くように差し込まれるセリディスタの叫び。
はっとしてエトが振り向いた所には、忽然と現れ、雷光のようにこちらに向かって走り出す一頭のMOBがいた。
いつ現れた?くそ、こんな時になんてタイミングの悪い。
直撃を覚悟し、エトはぐっと衝撃に備えて歯を食いしばった。だが、次の瞬間凄まじい勢いでその二者の間に何かが割り込む。
「ラッシュ!!」
考えている暇はなかった。ただ、その時すでに体が動いていた。心のままにスピネルは声を張り上げる。
「私が相手だああああぁぁ!」
振り抜いた両手鎚の手ごたえが、目論見通りに相手の注意をこちらに逸らすことが出来るほどの威力であったことを伝える。
だが、その相手の殺気に満ちた視線を浴びて、スピネルは、ちょっとこれはひょっとすると、早まったかもしれないぞ、とも思った。
ちょっと短めですが。
シバ姉さん、完全にアタッカーです。ますます火力偏重。
そういえば、Twitterを始めてみました。
時々設定とか展開についてとか近況報告とかを垂れ流す予定。
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