Act 22
「よかったなあー、ちゃんと『先輩どもに恰好がついた』ぞ」
「シバさんー!黙っとくって言ったじゃないですかー!」
『ははは!私はメッセージを送っただけで一言も言葉を発してないぜー』
最悪だこの先輩ども最悪だ、とスピネルはへこむが、一方のエト、ハルタチ、シバは全開の笑顔である。
「‥‥‥ええと。仲いいんですか、皆さん」
「ああ、仲は良いぞー」
エトの言葉に一人、また棒読みだーと呟くセリディスタ。不思議な先輩と後輩の関係性である。
「で、今回出来たのは快癒丸と強壮丸に、状態異常の予防薬?だっけ。味は?」
「前者二つは柑橘系酸っぱい味で、後半は基本的にどれも甘い上に酸っぱくて舌に痺れが残る感じ」
「体に良さそうな味って奴か?」
早くどうにかして改良を頼むぜ、とハルタチが割と真剣にシバに言い募るが、頼んだところで出来ない物は仕方ない。
「セリ君の方はどうなった?」
「あ、はい。ペンの改良は終わりましたし、魔符の改良もできました」
最初にやっていたペンの改良の方は、軸の部分をセルゼスでシバが購入してきた鳥系MOBの羽によって強化したという内容らしい。何がどう変わったのかの詳細は実戦で見てみないことにはわからないが、セリディスタの満足気な顔から察するに思ったよりいい効果が得られたと見える。
「で、そんなお二方は何してきたんですか」
若干ぶっきらぼうに問いかけるスピネル。そう簡単に機嫌は治らないらしい。
が、エトはそんな様子を気にも留めずにさらりと返す。
「僕はスキル取得のためにちょっと特殊な戦い方をしてきた。もっぱら受け流しとか、防御重視の戦術の練習かな」
「で、その横で俺は接近戦の練習してたな。CQCだぜー」
「ほへっ?」
ハルタチの返答がちょっと予想外のことだったためだろう、気の抜けた返事をしてしまうスピネル。
「せっかく作ってもらったナイフ、いざという時に使えなきゃ意味ねーんでなあ。森の中みたいに魔法ぶっ放せないときでも役立つしな」
そうか、そういえばそんな物作ったっけ、などと製作者としてはあるまじきことをぼんやりとスピネルは考える。まあそんなことを考えていることがばれたら手痛いお仕置きを食らうだろうことはわかっているので、曖昧な笑みを浮かべてその場をやり過ごすのだが。
「結果としては予想通り、ヘイト上昇と防御力上昇効果があるスキルを得た。ただ、何故か前セリ君が言っていた『ハウリング』という名称ではなく『咆哮』になっていたが」
「あ、それ使用する武器によって若干名前変化するんですよ。基本は変わらないと」
「ふむ。格闘系は漢字名称スキルになるのかな。確かにそのほうが雰囲気としてはわかるけれども」
まあ戦力の充実という意味では期待してくれ、とエトは笑う。
「それにしても、俺の方は随分楽しませてもらったわ、スッピー。込める魔力の上限はあるって言っても、随分切れ味のいいナイフだぞ、あれ」
「本当ですか!よかったー」
「その気になれば岩が切れたりなんかしちゃったりしてな」
ひとまずこれで、ハルタチもいざという時には近接距離での戦闘をするということが可能であることは証明できた。これもまた戦力の充実足りえるだろう。
「で、だ。スッピー、今回のメインディッシュをくれ」
「えー‥‥‥後輩をからかう先輩にあげるのは正直気が進まないのですけどー」
と言いながらも、素直にスピネルはエトとハルタチにチューブを手渡していく。ちなみに、シバとセリディスタにはすでに手渡し済みだ。
今回渡されたチューブは、ダークブラウンの落ち着いた色調の木で作られており、中央部にはブルートパーズがきらめいている。それを包む部分と両端を覆うキャップのようになった場所は、きれいに加工された魔力銀がまろやかな光を反射していた。
「これらは『平原に棲む獣のチューブ』というアイテムです。今回はシバさんにお願いして光属性の捕獲紋を刻んでもらいました。一応Lvは5で、等級は8です」
結局それなりに奮闘した結果、等級は最高で8、若干集中が途切れたものは7、いくつかは6という結果になったようだった。今回は出来が良かったものだけを配った形になる。
「最初に作ったオーバースペックのチューブの出来が、いかにリアルラックに支えられた結果か、ということが分かりましたね」
セリディスタが神妙に言う。確かに成功したのみならず、等級2から3をうろうろしてもいいところ、いきなり4である。恐らく現状の上限の数字を叩きだしたのだろう。
「作りすぎた分はどうするんだ?」
エトが当然ともいえる疑問を口にする。
「まあ、一応持っておくつもりですが、何かの際には素材としてばらして再利用する形で行きますよ」
「ああ、なるほどね。何があるかはわからんもんな。そんじゃさっそく」
「待て」
逸って早速町の外へと繰り出そうとするハルタチを、襟首をつかむ形でエトが止める。ぐえ、という苦悶の呻きが上がるものの、エトはどこ吹く風だ。
「その前に提案が一つ」
「へ?何かありましたっけ?」
きょとんとしたスピネルに、エトはいたずらっぽく笑う。
「みんなで機関に行こう。すっかり忘れてたが、思い出した」
何のことだろう、とみんなが顔を見合わせるが、上機嫌にエトが歩き出すのにとりあえずついてゆくことにする。
ログスポートとそれほど変わらぬ内装のロビーを通り抜け、エトは皆を振り向きつつ、受付の前に立った。そして全員そろっていることを確認して、受付に話しかける。
「こんにちは。今日はどのような用件でしょうか?」
「チームの結成を依頼しに来ました」
あっ、と声を上げたのはスピネルだ。
そういえば何だかんだでチームを結成しよう、と言っていてずっと忘れていたのだった。何度かエトが思い出そうとしていたのに思い出せなかったこと、というのもきっとこれのことだったのだろう。
「俺もすっかり忘れてたな。カブと話してた時は覚えていたんだが」
ハルタチもしまったなと言いたげに頭を掻く。
「チームの新規結成ですね。わかりました、それではメンバーの皆さまはこの水銀球に触れてください」
受け付けが取りだしたのは銀色の曇り一つない綺麗な球体だった。大きさは両手に収まるほどである。
どうやら外側がガラスで覆われていて、中に液状で銀色の物体が入っているらしい。時々僅かに波紋が立つのはどういう仕組みの物なのだろうか、興味は尽きない。
「順番は関係ないのかな」
「ええ、関係ありません。全員が触れましたら回収しますので」
じゃ、と言ってまずエトが触れる。そして次々と残りの四人がおっかなびっくりに触れてゆき、再び水銀球は受付の手に戻る。
「はい、確認いたします。――5名の皆さまを新たに結成するチームのメンバーとして登録することになります。それでは、皆様の中でチームリーダーとチーム名をお決めになってください。お決まりになりましたらリーダーとなる方が再び水銀球に触れ、チーム名を宣言してくださいね」
にっこり、と受付が笑うが、そんなに即座にリーダーを決められるものではない。
どうする、と5人は顔を見合わせる。
「わ、私はエトさんがいいと思いますが」
スピネルがおずおずと口を開く。なるほど、確かにそれは一理あるな、とハルタチも頷く。
実際これまでも年長者ということもあり、なんだかんだでエトが5人を率いてきた。
その辺も鑑みての意見だ。
「僕はそう思わないけどね。結局僕はいざという時慎重論しか出ないし、冒険が出来ない。一番のデメリットは決断力がそこまでないということだ。それはこのCradleというゲーム世界では結構致命的だと思う」
『ふむ。それはそうかもですね』
シバも難しい顔ながら、エトの欠点を認める。
『エトさんはいざという時思考が止まる傾向はあります。どちらかというとサブリーダー向きです』
「なるほどねえ。そう言われるとそんな気もする。かといって俺はますますまずいし、ちびっこもどうだろうなあ」
まとめ役にゃあむかんよ俺は、もうわかってると思うけど、とハルタチが眉根を寄せる。
シバも首を横に振り、肩を竦める。
「ここでセリ君を出してくるわけにもいかん。というわけでどうだ、スッピー」
「へ?」
話がブーメランのように返ってきて、スピネルは思わず顎を落とす。
「僕はね、実のところ今回一番リーダー向きなのはスッピーだと思ってるんだ。多少直情径行なきらいがあるとはいえ、明るくて勢いがあり、とっさに体を動かして対処できるその資質は、ここで先頭に立っていく人間としてはぴったりだと思うんだが」
『だねえ。スッピーはアイデアマンだし。矢面に立つのがスッピーで、補佐がエトさんだと最高だな』
ああ、とセリディスタも声を上げる。
「確かにそれはベストな布陣です」
「と、同様の意見が多数を占めてきたな。どうだ。ちなみに俺もスッピーがリーダーに立つのは割と賛成」
ええー、と力なくスピネルが声を上げる。しかし、周囲から向けられるのは期待の込められた温かいまなざし。
拒否権無し、とそこには立派な墨書体で書いてあるかのようだった。
「細かいことは気にすんな。名前だけだ。いつもの、プロジェクトの臨時リーダーとそう変わらん」
ハルタチが言う。スピネルが困ったように見つめ返しても視線はぶれる気配がない。
よりによってここで、という言葉が頭をよぎるが、まあこれまでもいくつかのプロジェクトで臨時リーダーという肩書は全員が一度は経験してきたことだ。
それはスピネルも例外ではない。ただかなりイレギュラーな場に放り込まれるということで、今回若干の委縮があるのは否めないが。
「しかたない、です。お受けします‥‥‥」
すごすごとスピネルは覚悟を決めて輪を抜け出すと、受付の前に立つ。
そっと出された水銀球に触れ、そこでスピネルははっとしたように振り返った。
「チーム名はっ」
決めてないじゃないですか。そう言おうとしたが、残されたうちの三名がニヤニヤと笑っている。
「いいだろ。大体この面子なら決まったも同然だ」
「えええー」
で、残されたセリディスタを見るとなんのことだかわからずにきょろきょろとしている。
‥‥‥ごめんねセリ君、でももう決まりみたいだ。
はー、と力なくため息をつき、仕方なく、と言わんばかりの調子でスピネルは宣言した。
「新規に結成するチーム名は――『スキマ産業Aチーム』です」
ぶふっ、とセリディスタが噴き出す。げらげらと笑っているのはハルタチだろう。エトが笑いをこらえているのは想像がつくし、シバだってニヤニヤと人の悪い笑顔を浮かべているのに違いなかった。
振り向かず、ぷるぷると背中を震わせながらスピネルは受付の話を聞き続ける。
だがその耳と尻尾までも頼りなげに揺れていて、ますます背後の四人の笑いを誘発する。
「はい、承りました。チーム名、スキマ産業Aチーム。チームリーダーはスピネルさん。メンバー数は5名です。以上、間違いがなければ承諾をお願いします」
「はい」
スピネルが答えた瞬間、ざわざわと派手に水銀球の中身が波打ち、ポーン、と音がしてその動きが止まる。
そしてぬるり、と擬音が付きそうな様子で液状の銀がにゅうっと球体から突き出て、薄い長方形の形をとって次々と吐きだされた。その数五枚。
「こちら完成しましたチームタグになります。こちらを所持することでチームボックスと呼ばれるチーム共有のインベントリが使用可能になります。今回は初回登録のようですので、特典としてチームボックス内に支援アイテムを入れておきました。ご確認ください。また、チームの皆さまはこれよりチーム専用クエストが解放されます。詳しくはクエスト窓口の方へお尋ねくださいね」
スピネルはチームタグを手に取ってしげしげと眺める。記載内容は先ほど言われた内容に加えて、文様のような文字が幾つも刻まれていた。特に意味はなさそうなので、スピネルは気にせず4人にタグを配る。
「スキマ産業って。どこから来たんですかそのネーミング」
「セリ君ごめん。逆らえなかった‥‥‥」
セリディスタの予想通りのツッコミに、がくりとスピネルは項垂れる。
「本当に、大人には色々あるんだよー」
「大人になんてなりたくなくなる一言ですよねそれ」
しかし、困ったことに先輩どもはよくやったと言わんばかりにスピネルの背をばしばしと叩く。
「じゃ、スキマ産業Aチーム、頑張ろうな」
「まずは騎獣の捕獲から!」
エトとハルタチが口々に言うのに、とうとうスピネルはやけになって頷いた。
「ええい、やっちまったものはしかたない!今日もニッチに、頑張りましょうっ!」
そして自重しないハルタチの爆笑が続き、珍しくも真っ赤になってしまったスピネルがうっかり本気の蹴りを放つことになるのは、それから20秒後のことである。
* * * *
これで第二章を一度区切らせていただきます。
一年以上のブランクのため、色々と思い出せないことが多く、現在呪文、ステータス、データなどをまとめています。
意外としっかり考えているようで抜けが多くて、どうしたもんかなぁ。




