Act 19
お久しぶりです。更新が遅れて申し訳ございません。
そんなこんなで話を聞いているうちに、あっという間に約束の時間が近づき、エトとスピネルは挨拶も早々にあわててハルタチらが待っているであろう場所に向かうことになった。
「おーっす」
「すまんすまん」
ハルタチが手を上げている所に、エトが軽く頭を下げながら軽い駆け足で近寄っていく。
「どうだ、収穫は?」
「大成功だな。素材売却はできたし、人脈らしきものも作れた」
流石だな、とエトがさらりと誉める。
「それに、俺のことをきっかけに噂の信憑性の話が出来て、あと最近の噂話もちょっと仕入れられました」
セリディスタも明るい表情をしている。やはり理解されないという状況ばかりではなかったのだ、という状況に彼自身安堵したのだろう。
「うんうん、噂話かー。後で詳しくお願いしますね!」
スピネルもよかったねえ、と言わんばかりの調子でセリディスタに相槌を打つ。
『で、そっちは?』
シバが一方の二人組に話を促す。
「クエストが発生した」
「‥‥‥いきなりですね。何したんですか?」
セリディスタが目を眇めて問う。全くこの人たちはまた何をやらかしたのか、とでも言いたげだ。それを見てか、エトが大したことじゃない、となぜか弁解に走る。
「えーと、牧場に行って話を聞いてきただけだ。何も迷惑ごとは背負い込んでない」
「牧場?」
きょとん、としてセリディスタはあっけにとられたような顔をする。
「ええ、南側の奥まったところに建物があって、そこにちょっとした牧場が」
「牛乳飲めんのか?」
ハルタチがちょっと身を乗り出す。牧場から連想したしぼりたて牛乳というキーワードが彼の琴線に触れてしまったようだ。しかし残念なことに彼の求めるものはそこにはない。
「牛はいません」
「チッ」
「むしろ竜みたいな馬みたいなのが」
おや、とハルタチはそれで察したようだ。
「騎乗用の動物が仕入れられる場所って感じか」
「と、思ったんですが、買うより捕まえたほうがいいらしいですよ」
エトさん、とスピネルが促す。そうだな、と彼はウィンドウを開き、クエスト内容を皆に見せた。スピネルも続けて同じ操作を行う。
――クエスト『騎獣捕獲の心得・捜索と戦闘編』
・近隣の獣の中で捕獲可能なものを聞く:達成
・報酬アイテム:なし
自分のレベルから10レベル以上離れていない獣との戦闘を行いましょう。
残りHPを15%前後にしたところで捕獲することが出来ます。
→捕獲方法:何らかの手法をもってして身動きの取れない状態に持ち込みましょう。
――クエスト『騎獣捕獲の心得・チューブ編』
・捕獲契約具『チューブ』の素材と製造方法を聞く:達成
・報酬アイテム:なし
使用した材質と特性により契約しにくい獣、契約しやすい獣が発生します。
1人1つしか所有できないアイテムであり、ファーストアタックを与えた獣にしか使用することが出来ません。
『面白そうだけど、ちょっと難しいかもね。長い話が必要そうかな』
「ですねー」
確かにどれを狙うか、そのためにどのような系統のチューブを用意するか、その辺の事前の打ち合わせが必要そうだ。
「じゃ、次のタスク、素材回収でもしようか。その間にそれぞれちょっと相談するなりだべるなりしよう」
「だな。今回必要なのは薬草系統と、鉱石か」
『薬草は私が行かなきゃだし、鉱石はスッピーが行かなきゃよね』
「そこは確定として、人数配分だ」
エトは何気なく一人一人の顔を見、少し思案した後続けた。
「薬草採取の方は僕とハルタチのセットで同行するのはどうだろうか。主にメインの採取はシバで、開けたフィールドで僕らは敵の調査を兼ねる。ここ二人なら盾と魔法火力だし、僕は索敵できるしね」
なるほど、それならば十分に役割は果たせそうだ。いざとなればハルタチの本気でどうにかできる可能性もある。
「じゃあ採掘はあまりものを引いたということで、セリ君に同行お願いしていいかな」
「あ、はい。宜しくお願いします」
じゃあそれでいこう、と頷いた彼ら。
三人は平原の広がるフィールドの方へ、二人は山肌のほうへと繰り出していくのだった。
しばしフィールドを歩き、山の斜面でも岩盤が露わになっている場所を見つけた二人は、当面の採掘ポイントにその場を定めたようだ。
多少離れたところにも何名か採掘に来ている人たちが見られるので、ここはそれなりに使い勝手のいいポイントなのだろう。
まあこの辺でいっちょやってみましょうか、とスピネルは腕をまくってセリディスタを振り返る。
「採掘、したことあるよね?」
「ええ。ちょっとずつ色んな物作ってましたから」
言いつつ振り上げたつるはしを、勢いよくガツンと振り下ろすセリディスタ。
「魔符を書くのに、鉱石、使いますからね」
「へえー。インク的な?」
「そんな感じです」
続いてスピネルも作業に加わる。深く食い込んだつるはしが、セリディスタの一振りよりも多くの土埃を生み出していく。
やはりというべきだろうか、どうしたってスピネルの作業速度はセリディスタよりも早いようだ。見る見るうちにつみあがる山に、セリディスタはため息をついて額を拭った。
そのまましばしスピネルを見つめる。
「いやー、採掘経験とか置いといて、これだけスピネルさんが掘れてしまうとなると‥‥‥俺、後ろで鉱石の仕分けしてた方がいいのかな?」
その言葉を受け、ふむ、と呟いてスピネルはふと自らを省みる。
まき散らされた砂利、飛び散った石礫、積みあがるがまま放置され山となった金属。
開始してからまだ幾許も経っていない。スピネル自身も疲れを感じていない。
確かにその状況はスピネル自身にとっても若干の驚きをもって迎えられた。
以前よりも作業スピードが速くなっているかな、などと彼女は呑気に考える。
しかし、一方の相方はというと、これまでの彼の常識から言ってありえないような、驚異的な採掘スピードとでもいうべきものに、いっそ驚きを通り越してあきれるしかない、と言った様子で肩を竦めているのだった。
「確かにひどいね、この散らかりっぷり。なんでだろ」
「多分前衛で、鎚を使ってて、IS持ちだからでしょう。――よし、俺の仕事はやはり片付けと分類のようだ」
答えを聞かないまま、セリディスタはその場につるはしを置いて出来上がった鉱石の山の分類に取り掛かり始めた。
やはり自分が参加するよりも分業したほうがいいと結論付けたようだ。
「あはははー、ごめんねえ、掘るの楽しいんだよー」
しょんぼりしてしまった様子のセリディスタを見て誤魔化すようにスピネルは笑うが。
「見てて楽しそうだなあとは思います。でもあとで分類手伝ってください‥‥‥」
真面目にそう返されてしまって、ごめんね、自重する、と少しだけ小さく肩を竦めて彼女は頷いたのだった。でもそのあとのモーションが思いっきり採掘だったので、反省はしていないと見える。
「しかしまあ、パワーファイターでしたっけ。なんでそんな力仕事系のIS取得しちゃうんですか。俺が聞いた話では結構リアルで土方してる人とかはそういうの多かったですけど」
「んー、業種が特殊でさー。何でも屋さんなのよ」
「はあ」
気が抜けたように声を上げ、セリディスタは首をひねる。あまり想像が出来ないようだ。
「私さー、経理さんなのよ。でも職場内のちょっとしたチラシとか小物とか作らされるし、イベントの応援頼まれるし、要請入れば現場にも連れて行かれるし」
「めっちゃオールマイティーじゃないっすか」
器用貧乏よ実情は、とスピネルは苦笑する。岩盤からごろりと転がり出た金属塊をぽいと後ろに放り投げ、そのまま何気なく彼女は続けた。
「それで、そんじょそこらの女の子よりは力持ちなの。自慢出来やしないけどたくましいよ割と。色々あって給油所経験もある」
「もはや経理じゃないと思いますけどそれ」
「残念なことに経理なんだな。決算の時とか超忙しい」
からりと笑うスピネルを横目で見て、ますます一般的な社会というものに懐疑的な念を抱くセリディスタ。いや、そもそも彼女を見て一般的と思ってはいけないのか。
「まあみんなそれなりに私と似たようなもので、ニッチなスキマ産業よー」
「へー‥‥‥皆?皆さん社会人だったんですよね、やっぱり」
「そうだよー。私より年上ばっかりさ」
まいっちゃうぜ、と言いつつもちっとも参ってない様子で、スピネルは力強くつるはしを岩盤にぶち当てる。
と、それをきっかけにゴロゴロ、ガラガラ、という音が響いて岩盤にひびが入り、空洞が露わになる。さらにはその奥の空洞から大量の鉱石が転がり落ちてくるのを見て、スピネルはくるりと目を丸くした。
「おや。ジャックポットだねえ」
じゃあとりあえず一旦分類しようか、とスピネルもセリディスタの横に座り、鉱石を手に取り始めた。
「で、どんなの出てる感じ?」
「えーっと、見たところだと、普通に鉄と銅と錫も出ますが、銀の割合が増えました。珍しいところだと、軽銀、流水石、八角晶、アクアマリン、琥珀、黒鉄、あと変なのが一つ、堅鋼亀‥‥‥ですね。はい」
「一新されてるねえさすがに。って、なにその堅鋼亀って」
「たまに掘り返した石のそばで、鉱石に擬態して歩いてます」
「えええ、それアイテム扱いなの‥‥‥」
一つマップをすっ飛ばしてきているのだから、確かに大幅に取れるものが変わるのも頷ける。どのような効果をもたらすのか、どの装備に向いているのかなども検証したいところだ。
「軽銀っていうと、ミスリル?」
「ではないですね。普通に銀の上位互換かな」
そううまくはいかないか、とスピネルは少し笑う。
「レアリティ的にもそこまで大幅に変わって無いねえ。これは装備一新より強化を選んだ方がコスト的には賢明かなあ」
「うーん。やっぱり装備を変えるときは、ボス素材を中心にしたいなあってのは本音ですけど、レアMOB素材も捨てがたい」
「ああ、あの猫の素材もあったっけ、どうしようかなあ。悩むねえ」
「うーん」
二人して唸りながら、ゆっくりと目の前の石礫の山を素材と捨石に分けてゆく。
土埃を払い、アイテム名を確認しての作業となるのでやはり微妙に時間がかかる。
しかしそのうちに、おや、とセリディスタが声を上げた。
「スピネルさん、俺新しいスキル取ってたみたいです」
「え、何?」
「初級鑑定士ですね。うーむ、これってひょっとして個人がアイテムを視認して取得した個数が関係してるのかな」
そういえばシバは中級鑑定士持ちだったか。彼女の場合は散々森でアイテムを拾ってもらっていたから、その仮説はあながち間違いではないだろう。
「ふむー。だけど、システム周りはわかんないな。それならこうやって同じように仕分けしてる私も取得してよさそうだもの」
「あ、そっか」
ぐむむ、と考えに入り込むセリディスタ。彼はこういうものをついつい気にしてしまう性格なんだろうなあ、とスピネルはぼんやり思う。こう、行き当たりばったりで結局突き進んでしまう自分の周りの人間と比べて、データをもとに慎重に考えを構築していく彼の性格は貴重だ。彼のような人間がいてくれるおかげで世の中の情報は広がってくれるのだと思うと、ますますありがたみも沸く。
「ともかく、装備に関してはちょっと前に変えたばっかりだし、もう少しこのままで行けるんじゃないかなあと私は思うけどー」
「ああー。うーん、この辺の敵とやりあって無いからなあ、それで行き詰まりを感じたら強化なり何なりしましょうか?」
「そうだねえ」
よいしょ、と軽い声を上げて立ち上がるスピネル。ざっと残されたボタ山を眺めて、よし、と満足げに頷いた。
「セリ君、インベントリはどんな感じ?」
「まだ余裕はありますけど」
「うむ。じゃあもう少し分類をお願いしたいかなっ。まだまだいくぜー」
「うげっ」
止める間もなくスピネルは再び作業を始める。ふんふんと鼻歌を歌って、何処までも上機嫌だ。
「採掘も鍛冶も熟練度上げたいんだよね、この際。というわけで、もうちょっとだけ続くんじゃよー」
がっつんがっつん派手な音を立てて、つるはしは反復運動を続ける。
何処までも躍動感にあふれ、生き生きとした彼女に、現実ではどこまでもインドア派のセリディスタはため息をついた。
「元気だなあ‥‥‥」
どちらが年上なのか、全く分かったものじゃない。
色々あって、書き溜めていたのにアップロード忘れていました。
忘れるって……自分でもちょっと呆れる次第です。
さて、私の時間に余裕が生まれる冬がやってきました。
人事異動がなければ、今から2か月はがっつり更新したいと思います。




