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スキマ産業奮闘記―In The Cradle  作者: 狩山 宿
Ⅱ. 若木へと至る道
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Act 18


一方、エルダウッドをだらりと歩いてきたエトとスピネルは、丁度マップを見ながらメモを書き足していた。

「えー、中央に抜ける大通りが露店街で」

「西はどうもNPC系の店が揃ってるようだな。そこまで変化がない気はするが」

「うーん、武器、防具はそうですね。でも雑貨と薬はよかったですよ」

ほんのワングレードだけ上がってもな、やっぱりシバの調薬に頼ったほうがいいのか、とエトは悩み始める。

「確かにそうかも。難しいな」

スピネルも考え込んで、その旨を記す。

「東側は機関の施設とレンタル工房。あと、よくわからない役所みたいな場所がありましたね」

「ああ。あれはなんだろうな。‥‥‥って、僕にもくれよピンカ。一人で食うな」

「ええー」

「いいだろ、くれよ。うまそうなんだよ」

いつの間にか勝手にピンカを咀嚼していたスピネルであったが、エトがそれを見逃すわけがない。

しぶしぶ、と言った調子でスピネルがエトに新たなピンカを渡す。

「サンキュ。――そういえば、料理の熟練度上げてるやつもいるのかな」

「うーん、ログスポートで料理の鉄人を目指す類の人ならいるかもですが、攻略を重視している人には少ないかも」

そうか、残念、と心底惜しむように言い、エトもピンカを齧る。

「今度は謎のスターフルーツらしきものでも買ってみますか」

「挑戦してみてくれ」

娯楽と化した味覚ではあるが、娯楽も日々生活するうえでは重要な要素だ。

「ドリアン風のやつは最初にエトさんに差し上げますね」

「そこは購入者が最初の一口を食べる特典を享受すべきだ」

「意外とおいしいかもしれないのに」

そう言ったものまできっちり見てるんだな、とエトは若干苦笑する。

彼自身は現状何が役立つかを優先し、それしか見ていないので、その視点の違いにはちょっと感心する部分もある。

「さて、そろそろ一周しますね」

「そうだが、スッピー、一ヶ所忘れてるぞ?」

「お?」

そうでしたっけ?ときょとんとするスピネルに苦笑し、ほら、とエトは前方を指す。

「南門の横入ったところ。建物あるだろ。最初に後回しにしましょうって言ったのはそっちだろうが」

「ありゃ」

いつもの鳥頭ですね、勘弁してください、とスピネルは誤魔化すようにリズムよく数歩前に進んだ。

そんな様子を見て、仕方ねえな、誤魔化されてやろうかな、と心中でつぶやくエト。年上の余裕だ。

「じゃ、行きましょう!」

「はいよ」

ゆったりとしたペースでエトは先行するスピネルの後を追う。

「おお、‥‥‥牧場」

「ん。ああ、牧場だな」

まさにそれは牧場という言葉がぴったりだった。そこに居るのが馬や牛と言った見慣れた家畜ではない点を除けば。

鈍く光を反射する鱗を持つ二足歩行の生き物。竜とトカゲの間のような、妙に愛嬌のある顔をしたそれは、時折草を食んではクルクル、と喉を鳴らしていた。

前足は小さく、翼は退化してしまったのか、出っ張りとなって背に小さく残るばかりである。鱗の色は鮮やかな緑から濃い茶色、白まで個体差があるように見受けられた。

その中にも一部分に毛を生じさせた個体もあり、そちらの方はどちらかというと竜のような獣のような、ともいえる姿をしている。

「かわいいなあ!」

スピネルは勢いよく柵の傍まで駆け寄ってゆくと、夢中になってその生き物たちに見入っている。

どうやら爬虫類が苦手だとか、そう言った感情は特にないらしい。

いやむしろ全力で愛でる方向に気持ちが傾いているようだ。

「いいなあ、かわいいなあ。おいでー」

気付いているのだろうか。エトは笑いをこみ上げつつ思う。今、スピネルのもさもさの尻尾は全力でぶんぶんと振られている。無意識なのだろうが、余りにもその様がコミカルで笑いを誘う。

そんなスピネルの呼びかけに釣られたか、白と茶色が混ざったブチ柄の生き物が近くまで寄ってくる。

「おお、おおおお」

そしてそいつはぺろりとスピネルの手をひと舐めし、頬ずりして見せた。高い知性を持っているようだ、とエトは冷静に観察するが、スピネルは感動のあまりそこまで気が回っていないらしい。

「――おう、お客さんかー」

「かわいいなあ、かわいいー」

「おい。おねーさん?聞こえてる?」

スピネル、無我の境地である。が、業を煮やしたか、声の主――NPCで牧場の主だろう、先ほどからそっと近寄ってきていたノスタ種の青年が、とんとん、と肩を叩く。

「スッピー。右」

「おお、おおぉぉ‥‥‥う?わぁっ」

そして振り向き、思いっきり飛び退くスピネル。驚いたのだろう、目を丸く見開いて硬直している。いつの間に、何処から来たのか、とでも言いたげだが、実はエトもさっきからその人物には気づいていたので特に何を言うこともない。というか最初から建物の傍にその人はいた。影が薄かったというのもあるし、スピネルが楽しんでいるのに水を差すのは無粋かと思い、声をかけるのを憚っていたためである。

「すまんすまん、声が聞こえたんでな。私は牧場主のエレクだ」

実直そうな青年、エレクはひらりと手を振って笑った。誠実そうな笑みが人柄をうかがわせる。

そしてさらにガチャリと音を立てて、建物から更なる人が出てくる。

「何ー?エレク、お客さん?」

鈴を振るような声を上げてちょこちょこと出てきたのもまた可愛らしいライカ種の女性だ。

コリー犬を彷彿とさせるその雰囲気に、見ているだけで癒されそうである。

「あらー。初めまして。私はスーリと申します。宜しくお願いしますね」

「あ、よろしくお願いしますー。ええと、私は、客、というよりは歩いててここに来ました」

スピネルが驚きの余韻を引きずりつつ、おっかなびっくり答える。

「そっかー。君はラグルのことを気にいってくれたんだね。ラグルも君のこと好きみたいよ」

「ラグル?この生き物はラグルと?」

エトの問いにそうよ、と彼女は頷く。

「力が強くて、荷運び運搬にも、騎乗にもいい。ただ気は弱いのが多いな」

エレクがそう説明する。なるほど確かによく見ればラグルは草食動物のようだ。気が弱いというのも野生の馬に共通する特徴である。戦場に駆り出す馬はしっかりとその辺りを調教しなければならないが、そうそう戦争が発生しているわけでもない場所ではそのような手間をかけることもないということか。

「見た感じ君ら、冒険者だろう。そうなるとラグルだと厳しい場所もあるかもしれないが、機動力は格段に高くなる。どうだい、この子たちを連れてってみるか?」

ふむ、と考え込んでエトはスピネルを見やる。

「どう思う?」

「かわいいです!」

おい、とエトはスピネルの頭を軽くはたく。

「‥‥‥ええと、機動力はおいしいですよね、冷静に考えて。今後遠方の狩り場に行って帰ってくることがある可能性を考えれば」

「だよな」

しかし、厳しい場所か。エトは唸る。せっかくの騎獣も使えない場所が多いならデメリットも考えなければならない。

「一応聞かせてもらってもいいかな?」

「何だろう?」

エレクが首を傾げてエトの言葉を待つ。

「初歩的なことだが、これまで宿屋でこのような騎獣を繋ぐ場所を見たことがない。また、町中でも連れ歩いている人はいなかったのだが、その辺はどうなっているんだろうか」

「ああ、それか。スーリ」

「はいはい」

そう言ってスーリは懐から小さな金属製の筒を取り出した。

「フィーノ。おいでー」

その声に反応して、先ほどの白茶ブチのラグルが近寄ってくる‥‥‥と思ったとたん、その姿はすうっと光となって小さな筒に吸い込まれた。

「えっ」

短く驚きの声を上げる二人に対し、エレクとスーリの両人はさも当たり前のように会話を続ける。

「この筒は『チューブ』という特殊な道具なの。持ち主によって登録した騎獣をこうして収納し、運搬するためのアイテムね」

「1つのチューブに登録できる騎獣は1体のみになっている。ちなみにこの筒の中にいるときは休眠状態になるようだ。それと、騎獣はチューブ登録したものしか販売を許可されていない。普段町中で見かけないというのは、つまり、購入者は皆チューブ内に騎獣を格納して歩いているから、ということだろうな」

ふうむ、とエトは考え、なるほどと呟く。

「所有権をはっきりさせ、トラブルを防ぎ、町中の混雑を減らす、か。そりゃ必須なわけだ」

「しかしまあ、不思議で便利な道具ですね。四次元につながるポケットから出てきそう」

「この状況も大概だけどな」

あ、そうか、とスピネルは得心したように手を叩く。バーチャルリアリティー世界の中に閉じ込められる、というのもよく考えれば突拍子もない事態だが、そういうことはついつい忘れがちだ。

「さて、他に何か聞きたいことはあるかい?」

「うーん。私はお値段が気になりますが」

あー、とスーリが少し考え、続ける。

「そうねぇ。実を言うと、お値段が張るのはラグルの方じゃなくてチューブの方なのよね。だから正直なことを言うと自力で作るか職人につてがあるならそっちを当たってみるのは手だと思うの。チューブ込みでだと1体10,000Alc、チューブ持込みなら4,500Alcになるわ」

「とはいえ、チューブを自作できるほどの冒険者なら、ここのラグルではなく野生のやつを捕獲したほうが戦力に出来ると思う」

捕獲、という言葉にエトもスピネルも反応する。そのような選択肢も存在していたか、といわんばかりだ。

「この辺に野性のラグルがいるんですか?」

「ああ、いるとも。でも野生のは雑食だし大きいし気性は荒いな。捕獲には冒険者の力量が問われる。野生のラグルは強いぞ、並大抵のやつなら振り回されて終わりだし、おすすめはしない」

「まあ、野生のラグルじゃなくても、調教できる獣なら何だって騎獣にしていいのよー」

「へえ!」

この辺のフィールドにどんな敵がいるのかをまずは調べる必要があるな、とエトは頭の中で優先順位を書き加える。

この調子なら間違いなく野生のものを捕獲するのがいいということは間違いないのだし、その為なら手間をかける価値はある。

「素材収集の時にでも、フィールドをよく見たほうがいいですね」

「だな。どれが捕獲可能なMOBか、どれを騎獣として捕えるのか、あたりをつけておかないと」

そのような二人の会話を聞いて、エレクが提案する。

「ふむ、この辺に出てくるものならざっくりとなら説明できるが、聞くか?あと捕獲方法についてとか」

「それは是非とも」

エトがエレクの方に向き直り、メモを取り出す。

一方スーリはスピネルの方に向き直り、笑顔で問う。

「ところであなた、鎚を持っているってことは鍛冶師さんかしら?」

「はい、そうですが」

「知り合いに魔工師さんがいるなら仕上げだけお願いすればいい感じかしらね。一応私、チューブの素材と基本の製法なら教えてあげられるわー」

またしても願ったり叶ったりな言葉だ。スピネルも破顔して頷いた。

「おお!助かります!」

「ええとね、まずは筒部分だけど、使用出来る素材は金属と木材と二種類あって、使うものによって契約できる騎獣の質が変わるのよー」

「なんとまあ‥‥‥」


ポーン。

――クエスト『騎獣捕獲の心得・チューブ編』が発生しました。

パーティーなどを組んでいる場合、一部メンバーの受注によってメンバー全員に条件が適応されます。


おお、クエストだクエストだ、と内心の興奮を覚えつつも、その間もスーリの説明は当然留まるところを知らない。

そうして次々と繰り出される重要な情報に、とうとうスピネルもエトと同じくメモを取り出す羽目になるのだった。





チューブはあれです。某ゲームを元にした漫画の最序盤で出てくる、魔物を呪文ひとつでしまっておけるアイテムが元になっています。


というわけで騎獣捕獲編みたいなものが始まっていきます(予定)。


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