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スキマ産業奮闘記―In The Cradle  作者: 狩山 宿
Ⅱ. 若木へと至る道
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Act 17


エルダウッドは、森に寄り添うように作られた町だ。森を超えた、という喜びをかみしめ歩くやいなや、すぐに門が現れ、五人は次の街へと足を踏み入れることが出来た。

一先ずは休息、という全員一致の方針で宿屋になだれ込んだ五人は各々の時間を過ごしたのち、これからの予定を話し合うために男性陣の部屋に集合した。

空腹感という明確な設定はないものの、街路で店売りしていた果物――いつの間にかスピネルがまとめ買いしていた――を食べつつ、それぞれが話をする。ちなみに五人とも食べているのは林檎に似たような小ぶりな果物で、ピンカと言う。

「で、これからだが、うん、うまいなこれ」

「でしょ!買って正解じゃないですか?」

しゃくしゃくした歯触りに桃に似た味わいということで、おおむね全員から高評価を叩きだしているピンカ。これからスピネルの買い食いに拍車がかかりそうだ。

「それはともかく、んぐ。これからだと真っ先にしにゃならんのは何だろうな」

「拠点登録ですね」

「ああそれだ」

セリディスタの言葉を受けてハルタチが頷く。

「宿屋でる時にでもやっとこうぜ」

拠点登録というのは、単純な話、もし仮に死んだ場合何処に戻るか、ということだ。

いちいちログスポートに戻されるのは考えるだに面倒な話だが、登録さえしておけば死に戻りの場所をエルダウッドに変更できる。

「だな。次、重要なことなんかあるか」

『武器と防具の強化、あとレベル上げ!』

「それはまあ、確かにそうだな」

一部グレードアップできるような装備も、素材さえ揃えればある。

「じゃあその前次点の話で、素材の採取系ツアーですか?」

「そうだなー」

「えっと、その前に魔符が心もとないので補充したいんですけど」

セリディスタのおどおどとした提案に、ああ、そうか、とハルタチは納得したように頷く。

「そういうのもあったか。シバ、薬の在庫もヤバいよな」

『危険域です、サー』

「優先事項は魔符と薬の素材集め、だな」

ふむふむ、とエトが頷く。が、当のエトはそのまま少し考え込んで、そっと口の端に言葉を乗せる。

「うん?何か、忘れてるな」

何だったか、と頭をひねるも、誰もそれに思い当たるようなことがないらしく、何だろうかと顔を見合わせる。

「あ、ひょっとして普通に町の散策じゃないですか?」

「そう言われればそうなんだけど、多分違うけど‥‥‥」

悩みながらも結局エトはぐしゃりと頭を掻き回し、ああもういいや、忘れる、と高らかに宣言した。

その上で、スピネルの言った言葉を改めて反芻する。

「うーん。店売りの物もログスポートとは違うだろうし、それは間違いない、と僕は思う」

『確かに。お金で解決できることはお金で解決しよう』

「労力は少ないに越したことはないんだぜ、だっけ。用途は違う気がするが」

ハルタチがシバの言葉を引き継ぐ。なお、これは上司から強制で課せられた自社製品の販売ノルマに際し、晴れ晴れとした表情で俗にいうところの自爆営業を即座に選択した共通の先輩の輝かしき名言である。

「もう使わないアイテムや、余剰分のドロップ品をうまく売れば、素材購入費には当てられそうですよ」

ざっくりとした計算でスピネルがそのような結論を導き出す。

「プレイヤーがいるなら露店もあるだろう。交渉は俺がすべきかな」

ハルタチが得心したように頷き、そうすべきだろうな、とエトも納得する。

「通常ルートとは外れているし、ここにいるのは攻略組とでも呼べそうな立場の人が多いに違いない。情報も転がっているはずだ」

『情報収集かー』

「それと、忘れちゃいけないことは同時にある程度自分たちの情報も小出しにすることだ」

おや、という表情でだれもが発言の主、エトを見る。

「セリ君がいい例だろ。噂ってのは怖い」

「あぁ」

視線が集中し、縮こまるセリディスタ。確かに、特筆した出来事があったわけではないものの、彼の名前と印象は先行してセルゼス入りを拒まれた。

「だから、だ。敢えて自分たちがどういう集団で、どういうプレイをしていて、こんな奴らがいる、ということを紹介して周るんだ、露店巡りのついでにな」

「なーるほどね」

じゃあどういう風にうまく紹介したもんかな、とハルタチは後頭部で手を組み、天井を見上げては思案する。

「そこはお前の腕の見せ所だな。任せた」

「おう」

いい笑顔でハルタチは答えてみせる。

「となると、俺以外にシバとセリ君の三人で回るのがベストじゃねえのか」

「その心は?」

「まず一つ、今回買い揃えたい素材を直接見るべきなのはその二人だ。次に、セリ君自身の人柄をそこでじかに見てもらえる。最後は、シバは女性だから、一人いるだけで柔らかい印象を相手に与えられる」

ほー、とセリディスタが感嘆したような声を上げてハルタチを見る。

ただの軽薄なだけの男ではなかったのだ、とこっそり思ったのに違いない。

「十分な理由ですね」

スピネルも賛同し、だろ?とハルタチは胸を張る。もっと褒めて、と続きかけたところだったが、シバがちょいと脇腹をつついてうっかり吹き出してしまったおかげでその言葉は発せられることはなかった。さすが、ハルタチの扱いを心得ているだけはある。

「じゃあ私とエトさんは別行動ですね。何しますか?」

「そうだな。ボチボチと考えるか」

その言葉を皮切りに五人は立ち上がる。

「最初に拠点登録、これはここから出て解散する前に。次、分散行動。待ち合わせ時間はいつにする?」

『一時間後でいいんじゃない?』

「じゃあそれだ。その他、何もないよな」

それぞれが頷き、じゃあ、とスピネルが扉を開ける。

階段を下りてカウンターのNPCに向かうと、可愛らしい女性がぺこりと会釈して用件を訊いてきた。

「どうも。ご用件は何でしょうか?」

「拠点登録をお願いしたいんだ、ここ五人分」

「はい、承りました。この宿帳に記録ください」

受付嬢はカウンターの下から藍色の装丁のしっかりした作りの宿帳と、これもしっかりした羽根ペンを取りだした。

「へえ、インクが要らないんだな」

エトが羽ペンを取り、そっと宿帳につけた瞬間、ぼうっとそれが発光して宿帳にエトの名が刻まれる。そのままエトはハルタチに渡し、同じことがまた繰り返された。

そのまま順繰りにそれぞれが羽ペンを宿帳に付け、記録は終わる。

「はい、これで冒険の際力尽きましても、エルダウッドが帰還地点となります。皆様、お気をつけて」

そして受付嬢は機械で作られたように美しいお辞儀をして、微笑む。

「ありがとう」

ハルタチもまたニコリと笑って軽く頭を下げた。続けて四人も軽く頭を下げ、外に出る。

「じゃあ、一時間後に」

「おう」

エトとスピネルの二人組と、ハルタチとシバとセリディスタの三人組となって、彼らは分かれていく。


まず三人が行ったのは不用品の選別だった。若干の余裕は残しつつも、明らかにいらないだろうと判断できる物は容赦なく売ってしまうつもりだった。

故に、最初に向かったのはこのログアウト不能という現状でも生産を重視している風情を感じるプレイヤーの露店だ。

「どーも。何売ってますか?」

ハルタチが如才なく笑って露店を覗き込む。だらりと座っているのはまだ若い、緑の髪をした青年だ。耳にピアスをいくつもつけ、ごつい首飾りを付けている辺り、現実の露天商とどこか雰囲気が被る。しかし頭には鉤裂きの出来た猫耳が二つ付いており、その部分だけが妙にファンタジーである。よく見ると腰のあたりには同色の長い尻尾が揺れていた。

「ん?見かけない顔だね、最近来た?」

「そうなんですよー。ほんのさっき、森越えで!」

「ははっ、無謀なことをしたもんだ」

けらけらとその露店の主も笑って三人を見やる。

「ここで扱ってるのは基本的に細工物だな。魔工関係のアクセサリだ」

「首飾りとか指輪系か」

「そゆこと。どうよ、買ってってよ」

『確かに、いいもの多いよ』

だな、とハルタチもセリディスタも頷く。

流石、エルダウッドを拠点にしているプレイヤーだ。スキルも十全にあげているし、素材もよいものを使っている。

「あれ、そこのお姉さんは喋らないロールプレイ?」

『というわけでもないんだけどー。諸事情あって喋れないってことで』

「そりゃ悪かった。不躾だったね」

やはり、初見の人間はどうあってもシバのことが気になってしまうものらしい。

「でも、ちょっと所持金が不安っすね」

セリディスタの声に誘われて確認したハルタチは、ありゃ、と素っ頓狂な声を上げて苦笑する。

「悪いね。これじゃー‥‥‥ん、待てよ。うん、ここでお兄さんに提案があります」

「ほう?」

興味深げに目を細める彼に、ハルタチが困ったように続ける。

「俺ら、森越えでドロップアイテム過多です。で、所持金が少なめです」

「なるほどね。よくある話だな」

うんうん、と頷き彼は納得したようだった。

「持ち込み作成か素材買取、だろ。ものによっては高く買う」

「話が早い!」

嬉々としてハルタチはアイテムの一覧を表示し、彼に提示する。

「うわあ、無茶苦茶じゃねえか、森越えなんてするもんじゃないだろー、あはは」

けらけら笑いながら彼はふと目を留めた。

「森素材ほんとに多いな。それに結晶針と結晶枝、輝棘が、こんなに‥‥‥」

「ああ、いいよ、山ほど出たみたいだし、少し売るよ」

「マジでか!ありえねえ!!ええと、こんなもんか、うん。これとこれとこれ、ええと数はー、うん。少ないかもしれんが、すまん、これが限界だ、こんだけ12,000Alcで買わせてくれ」

「いいぜー」

恩に着る、と彼は叫んでインベントリから通貨を取り出しトレードを行う。

「いやーびっくりした。欲しかったんだけど俺っちとフレンドじゃあの状態異常がめんどくさいわドロップ率が滅茶苦茶だわで投げたんだ」

「わかります。あんなものを力技で対処しようってんだからもう」

「あはは、君はそういうメンバーに苦労させられてんだ?ひょっとしてバッファー?」

はい、とセリディスタは頷く。

「だよね、バッファーってそんなもんさ。諦めなー」

うー、とセリディスタは項垂れる。

「あはは。君ら面白いね。なんてチームの人ら?レギオンクラスで森越えするほどファンキーな人らはあの辺にはいなかったよなー」

「あー。実は俺ら、チームじゃないんだ」

「えぇ?」

『そうなんだよ、なんだかんだでまだその辺しっかりしてないの』

何だそりゃ、と彼はまたしても笑い転げる。

「じゃあ、何だ、今後そっちでチームを組むときがあったらまたよろしく。俺っち、チーム『ゲイルコープス』のカブ。俺っち狩り好きじゃねーから、モンスター素材も面倒なのとかレアなの集まりにくいんよ。またなんかあったら売ってくれ!」

「おー。俺、まだ名無しの集団のハルタチ。うっかり無茶してよく怒られる。んで、横にいる静かだけど口数多いのがシバで、おとなしくてちょっとおどおどしてるのがセリディスタ」

べちん、とシバがハルタチを軽く叩く。セリディスタはあわあわとしているが、そのまま何も出来ないようだ。けらけらとカブはそれを見て笑うが、しかし先ほどと違って目が少し冷えた色を映している。

「セリディスタ君?‥‥‥ふーん」

「うん?なんか勘違いしてる?」

ハルタチが心底不思議そうに首を傾げ、微笑みを張り付ける。――ああ、こりゃ演技だな、とシバは思う。性質が悪い営業用笑顔だ。

「勘違い?」

「噂を鵜呑みにしてるってこと」

「ハ、ハルタチさん」

いーんだよー、とハルタチは笑い、セリディスタをなだめる。

「どんな内容の噂か知らないけど、こいつ、プレイヤースキルの高い優秀なバッファーだったよ。あと肝心なとこで臆病だな。最初に見たときコミュ障系ぼっちだったから、かわいそうになって拾った」

「ひどすぎる!」

せっかくかばってくれたかと思ったのに思いっきり突き落とされて、うっかり間髪入れずに突っ込むセリディスタ。

『あと泣き虫』

「追い打ち!?」

ついでにシバにも突き放されて、セリディスタのライフはもう危険域だ。

「だから、まあたった5人だったけど森越え出来たのもこいつがいたからではある」

「5人か!そりゃすごい。普通フルメンバー6人集めても結構難しいんじゃなかったか」

カブが目を見開き、驚愕を隠さず三人を見る。これまでの雰囲気からいって嘘を言っているようには見えないし、第一お荷物になるような人間を抱えて踏破できるほどアスルド深林は甘くない。パーティの限界人数で挑み、推奨レベルを超えていても性質の悪い敵と徘徊するボスを前に苦戦する、というのがこれまでのカブの知り得た範囲での常識だ。

これは意外と彼らは本当のことを言っているのかもしれないぞ、とカブはこれまでの知識に疑問符をさしはさむ。

「俺っちの知っているセリディスタという評判の悪いプレイヤーは、寄生してはドロップアイテムでごねる、と聞いた。それにたった一人で、どのプレイヤーともつるまない、と」

「つるめなかったって可能性もあるけどな」

『こら!』

ハルタチの茶々にシバが怒る。セリディスタは黙ってそれらを見ているだけだ。

「でも、5人で森越えするのに尽力したって言うし、見た感じアイテムの売却で口を挟もうともしない。まるで違うプレイヤーのことみたいだな。うーん、なんだこりゃ、だ。俺っち的には別にだからどうってこともないんだけど、そこまで違うとなんか変だよな」

「だよなー。何でそこまで話がおかしくなったんだろ」

噂って嫌だな、とカブは笑い、悪かったな、とセリディスタに頭を下げる。

「え、え、何で頭さげんの」

「や、最初ちょっと偏見があったから、その辺で。色眼鏡で見て悪かったかな、と」

大人だ、とセリディスタは嘆息した。最初にハルタチが踏み入った露店は、出会いという意味で大成功だったかもしれない。

「じゃ、今後ともよろしくーってことで。フレンド申請させてくれ」

「おう!」

そのままの流れでハルタチとカブはフレンド登録を交わす。

「じゃあ物は相談なんだが、あと俺らが持ってる素材で買ってくれそうな人知らないか?」

「おーおー。心当たりはなくもないな。いいぜ、俺っちも一緒に行こう。いくつか知り合い回ろうか」

「良いんですか?」

セリディスタの言葉に、いいってことよーとカブは手を振る。

「君らから買った素材で作りたいものが出来たし、今日はもう店じまいしてもいいさね。それに、俺っちも欲しいものあるしさ」

そういうとカブは手際よくアイテムを仕舞い込み、露店を片付けてしまう。

「ありがとうなー、カブさん」

「おう、カブと呼び捨てで頼むわ。俺っちも皆呼び捨てにするし」

「了解」

ぴょんと跳ねるようにして立ち上がったカブは立ち上がった耳を軽く撫で上げると、何気なく三人を見回す。

「よかった、流石にシバちゃんよりは大きいぞ」

『うっ‥‥‥で、でも私と似たような大きさの男の人は初めて見ましたよ』

そう、カブのサイズは座っていたときは目立たなかったものの、実にこじんまりとしたものだったのだ。セリディスタよりは小さいが、シバよりは大きい。その程度である。

「俺っちライカ・フェアルだし、もともと小さいからねえ。ああ、でも自分より小さいポジションがいてよかったよかった」

『‥‥‥なんか腹立ってきた』

行き場のない苛立ちを抱えたまま、シバはふくれっ面で己を見る。ノスタにでもなっておけばよかっただろうかと一瞬悩むが、そこはもう考えても仕方のないことだ。

悶々としているシバをさておき、じゃあまずはそうだな、とカブは奥まった一角を指す。

「あっちの露店は俺っちのチームのやつだわ。木材を欲しがってると思うから、行ってみよう」

そうしてカブはひょこひょこと歩き出す。

「うわー、ケットシーだ」

ぼそりとセリディスタが放ったセリフだったが、カブはちゃんと聞き取ったようだ。

「うは。それ正直ちょっと目指してたポジションだからうれしいかも」

「マジっすか!?」

そうだよ、王冠とか首輪とか作って見たいね、と笑うカブの笑顔があまりにもまぶしく、セリディスタはちょっと曖昧に微笑むことしかできなかった。

余りにハマりすぎだと思い、想像を打ち消すことがなかなかできなかったからである。



ちょこちょこと新キャラも増えていきます。

露天商、カブさん。緑色でちっちゃいのはホンダのスーパーなアレから名前を貰ったからです。

小さいけれどもハイスペック。大好きなものは生産素材。そんな人。

本当は関西弁にしたかったんだけど、生憎私は関西方面の言葉に造詣が深くなかったのでやめました。

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