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スキマ産業奮闘記―In The Cradle  作者: 狩山 宿
Ⅱ. 若木へと至る道
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Act 13

短いですが上げさせていただきます。


セルゼスの門を離れ、街道脇に寄った一行は、ようやく後方を確認してふと足を止めた。

「よし、そろそろいいかな」

エトが周囲を伺い敵影がないのを確認して、集合、と皆を呼ぶ。

「そういうわけで作戦変更、な。僕たちは邪道を取るしか道がなくなりました。故に、その方針は今後の決定事項です」

「邪道」

セリディスタがおうむ返しに呟き、その意味に思い至ってさあっと顔を青くする。

「なんで!そんなことをっ‥‥‥!」

ハルタチが工房で言った言葉。王道か邪道か、王道がセルゼス、邪道が。

「だって、五人で行くなら森越えしかないでしょうー」

あっけらかんとスピネルが言い放つ。

そう、セルゼスではなく、アスルド深林を踏破してエルダウッドへ至る。

彼らは一度無謀と言って切り捨てたこの案を採択しようとしているのだ。

それもこれも、セリディスタとともにセルゼスに入ることが出来ないという、それだけの理由で。

「そんな、俺なんて、なんで、何でっ。見捨ててしまえばいいのに。仲間にするのに乗り気じゃないと最初も言ってたじゃないか。それなのになぜここまでするんだっ」

――乗り気でもなく加えたメンバーの来歴に問題があるなら、切り離してしまえばいいじゃないか。そんな風にされてまで、誰かの足枷になるために、パーティーに入りたかったわけじゃない。

セリディスタが今にもそう言いそうになった時、シバが手でそれを制した。

『寄生だけなら放っておいてうまい汁だけ吸えばいいと思う、それが当たり前でしょ。でも君は違った』

はっとしたようにセリディスタは目を見開いた。

「装備と戦法の問題を指摘し、でも自分の身支度は自分で整え、揃えてもらった装備に恐縮し、自分だけが街に入れないと知ったらこれまでの努力をなげうっても身を引こうとする。そんな人間が、単なる寄生野郎だとは思えない」

セリディスタは首を振る。そんなに買いかぶらないでほしい、違う、と思う。でもそれをうまく言語化できない。

「それに、一人は嫌だ。――セリ君、そう言ったでしょ」

「い、言って、ませんっ」

ふっ、ふっ、とセリディスタの吐く息が荒くなる。感情が高ぶっているのだ。

しかしそれを見てもスピネルは平然と、冷静沈着なままだ。

「いいえ、言いましたー。おねーさんの記憶力を舐めないで下さい」

えっへん、とおどけてスピネルは胸を張る。が、そのあと不意に柔らかい表情になって、今度はセリディスタに囁きかけるように言う。

慈愛を帯びたその顔は、普段おどけたような子供じみたふるまいをする彼女が、確かにセリディスタよりも年上だったのだということを思い出させる。

「一人が辛いと知っている人間は、優しいんですよ。でしょう?‥‥‥だから一人になってしまう」

うっ、とセリディスタは言葉を詰まらせる。不覚にもその一言は胸に来るものがあった。

「ま、最大の理由は門番を置いて素性を確かめて中に入れるかどうか決めるとか、その辺の基準がいまいちよくわからないとか、てかメールでやり取りするくらいならてめーが出向いてはっきり面と向かって理由を言いやがれとか、何とも俺自身が剣と杖っつーギルドのやり口にムカついたっつーのがあるのは否定しないけど」

ハルタチの軽口にうんうん、とそれぞれが力強く頷く。やはりあれには皆腹に据えかねるものがあったらしい。それでも離れるまで表に出さなかったのは流石というべきか。

「街を私物化っつーのがどういうことがわかってるのかっつうわけですよ。合理的だとかどうとか理屈はわかるけど、それを実践しちゃう辺り貴様らは人間かと問いたい、問い詰めたい。その上良く知りもしないでレッテルを張るとか、何様だ!」

スピネルも憤って拳を握る。

『ねー!あんな奴らに頭下げてmで入りたyくないっつーの!』

普段よりも随分早くポップしたウィンドウにはシバの感情の高ぶりが現れているようで、珍しく乱れた文字のままの表示で立ち上がる。

「そういうことだ。これは私怨のようなものだとでも思ってくれ」

「そうそう。俺が腹が立ったのをセリ君の窮状にかこつけた、ってことで」

「うー‥‥‥」

エトがさらりと言ってのけ、ハルタチもそれに便乗して頷くのに、とうとうセリディスタも黙り込む。

これ以上何を言っても、彼らは彼らの理屈できちんとセリディスタを説得にかかるだろう、というのはもうわかった。

そうやって、困ったまま固まっているセリディスタ。

彼の顔を覗き込み、シバは優しく微笑む。

『ようしセリ君、泣きたいならばおねーさんの胸に飛び込んで来い』

そう、辛いときは男だろうが女だろうが関係ない、一度泣いた方がすっきりする。

彼女はそういうつもりで言ったのだが。

「洗濯板にか」

『うん分かったお前表に出ろ』

ハルタチの空気の読めない一言がすべてを凍らせた。

無言でシバはぐるりと首を動かし、妙に据わった眼でハルタチを見やる。足元は不穏気に地面の砂を蹴っていた。

「ちょ、シバさんストップ!ストップー!洒落になんないから!」

今、彼女の一撃は、地をも砕く。スピネルの内心にそのような言葉がよぎる。

慌てて背から回り込んでシバを羽交い絞めにしようとするが。

『止めてくれるなー!』

「ひあー!Str私の方が圧倒的に高いはずなのに!なんで振りほどく勢い!?」

じたばたともみ合う二人を見て、当事者のハルタチはなぜか馬鹿笑いだ。

「あは、お前ら、馬鹿じゃねーの!」

『どっちがだー!』

とうとう謎の力でスピネルの懇願を振り切ったシバのドロップキックが、中空に美しい軌跡を描いた。

「のおおおぉぉ!」

「あーあ‥‥‥」

一部始終を悟りきった目つきで見つめていたエトが、疲れ切った溜息をもらす。

「プッ‥‥‥」

何故だろう。その時セリディスタは笑いがこみあげてくる自分に気付いた。

「あはっ、ははは、何してんですかー」

「痛い痛い、止めてほんと冗談じゃなくて!シバさんお願い!」

『すべては貴様のせいだー!』

突き動かされる衝動のまま笑い続けたセリディスタの目には涙がにじむ。しかしそれは苦悩や無力感といったようなネガティブな感情によってもたらされたものではなく、単純に生理的な反応によるものだ。

自分の中をぐしゃぐしゃと回転する思いも、これからのことを考えると重くなる肚の中も、何もかも吹き飛ばすように笑う。

それが心地良い、とセリディスタは感じた。

「ああもう駄目だ、魔獣は解き放たれた」

「あれぞまさしく封印の魔獣だな」

諦めたように首を振るスピネルとしたり顔で頷くエトこそ、見た目としては完全に獣の側に寄っていると思われるのだが、その辺りは棚に上げるらしい。

そのあともしばらくじゃれ合いというには過度なスキンシップが続き、結果として精根尽きてしまった様子のハルタチの体力が回復するまで待機というおまけがついてくるのだが、再出発しようかという頃には、もうセリディスタの心は晴れわたっていた。

深く考えるのはよそう。

今、出来る時に出来ることをしよう。彼らが何気なくやったことを、何気なく返せる日まで。

「よし、行こうか」

エトがハルタチをちらりと確認する。

気まずそうに笑うハルタチをシバがジト目で見ている。

そんな様子を気にも留めず、がんばるぞーと両手鎚を振り上げ、スピネルが歩き出す。

「森越えかー、ドキドキだー」

「シバ、この辺の敵何が出る?」

『うーん、森だし植物系が多いんじゃない?』

そうして四人が歩き出した後ろで。

「‥‥‥ありがとう」

呟いて、セリディスタは小走りで彼らの後を追う。

聞かせるつもりもないし、聞こえなくてもいい。ただ、今この言葉を言っておきたいと思った。

――それでも、本当に自分が感じたものは、いつか行動で返したい。

そんな決意は己の胸にこっそりしまい、声音を変えてセリディスタは、あ、そうだ、などと明るく呼びかける。

「アスルド深林では一部火属性魔法を使っても延焼しない場所があるって聞いたことありますよ!」

「マジで!?」

ハルタチが喜色満面、という具合にぱっと振り向く。

「マップにマーカーつけといてくれよ、頼むよー」

「はい、敵が出ない時にやっときますね」

「今いな‥‥‥ぐあ、何処から沸いた!?」

腐葉土の山がもぞもぞと動き、そこから醜悪な草が蔦を伸ばしてくるのを見て、誰もが思わず後ずさる。

「うーん。敵がいないときがあるといいんすけどね‥‥‥」

途方に暮れたように呟くセリディスタの不吉な宣言が、この森越えの始まりとなった。



活動報告にも書きましたが、諸事情ありまして。

スローペースですが更新は続けたいと思っています。

またよろしくお願いします。

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