Act 11
数刻後、いくつものの新装備の並ぶ作業台を見て、実に満たされた表情をするのは一人の職人、もといスピネルである。
「うむ、我ながらいい出来である!よって、今回の仕事は大成功したといえるっ、ってとこですかねっ」
「グッジョブだな」
『えー、私を忘れないでよー。加護付けたじゃーん』
「へいへい」
ぶーっと口を尖らしたシバを見て、ハルタチはぞんざいな勢いでぺしりと彼女の背を叩く。
「よく出来ましたー」
『子ども扱いするなああ』
ぐへえ、という声は脇腹に拳をめり込ませたハルタチの発したものである。その辺りのやり取りを気にもしないふうにエトは一人マイペースに自分の武器の付け心地を確認していた。
「これ、腕のあたりまでカバーするから重いだろうとは思ってたけどさ、かなり予想以上の重さなんだけど」
「ええ、一応盾代わりにそれで攻撃を受け流せるようにして見ました」
受け流しか、とエトは眉根を寄せ、出来るだけ急いで慣れるようにしようと内心でつぶやいた。
「私も両手鎚だし、受け流しと武器受け慣れとかないとなあ」
スピネルも自分の武器を持ったり軽く振ったりして具合を確認している。
「えっと、俺までこんなによくしてもらってよかったんですか?」
おずおずと顔色を伺うようにして言うのはセリディスタだ。彼もまた新たな装備に身を包み、使う道具すら一新されていた。主にスピネルとシバのおまけという名の妙に力の入った心づかいである。
「うん?いいんじゃないかな?だってこれからしばらくは一緒に動くわけだし、明らかに2ランク下の装備だと気になるし、材料は余ってたし。君の手持ちにあったものも使ったからそれほど気にしなくても」
すんません、ありがたくいただきます、と身を縮めてセリディスタは頷いた。
「それじゃあ、とりあえず今後の方針を決める前に恒例のミーティングをするかね。ざっと話すだけになるとは思うけど他の利用者の邪魔になると悪いし、隅の方行こうか」
そうだな、とエトはハルタチの言葉に同意し、両手で全員を工房の一角に誘導する。
全員が落ち着いてひょいと円を組んで座ったのを見計らったエトは、一気に事務的な口調になった。
「各人全員に見えるようにして自分のステータスを提示してくれ」
エト、ハルタチ、スピネル、シバがそれぞれさっさと目の前にステータスを提示していくのをセリディスタが圧倒されたように見ている。
「どうした?」
ハルタチが怪訝そうにセリディスタを覗き込むと、あわてて彼もステータスを提示した。
「‥‥‥うわあ、何だよこれ、怖えよぉ」
小さく呟いたのは幸いにして誰にも聞こえなかったようではあるが、その統制された動きにセリディスタが引き気味なのには何となく皆気付いて苦笑していた。
名称:スピネル・ヤーディク
種族:ライカ・ヒュー(獣人)
Level:24
HP:1,217
MP:236
Str 79
Dex 65
Int 20
Vit 51
Agi 52
Luc 45
装備:ヴェスティアグローブ、テッラ=バンデッドメイル(加護)、ヴェスティアブーツ
武器:ヘッドブレイカー
補助装備:バッシュピック+、ラウンドシールド、真銀の金槌
戦闘スキル:ストライク、フルスイング、ツインブレイク、スタンプ、
インパクトバッシュ、ラッシュ
補助スキル:ステップ、獣の直観、中級武器・鎧鑑定師、鍛冶師、魔器技師、
パワーファイター
名称:ハルタチ・ノーム
種族:ノスタ・フェアル(鬼精)
Level:25
HP:720
MP:1,080
Str 23
Dex 50
Int 81
Vit 40
Agi 47
Luc 65
装備:ヴェスティアグローブ、アーシーズローブ(加護)、ヴェスティアブーツ
補助装備:マギ・フェアルリング+(無属性)、ペリドットのピアス
戦闘スキル:ファイア中級、ウォート中級、グラン中級、ウィンデ中級
補助スキル:マギ・エクスプロード、悪運の所作、鬼精魔導、ハイテンション、蒼の魔眼
名称:シバ・ロキノ
種族:フェアル・ヒュー(半妖精)
Level:24
HP:830
MP:640
Str 35
Dex 61
Int 63
Vit 41
Agi 61
Luc 48
装備:ヴェスティアグローブ、マギシアクロス(加護)、ヴェスティアブーツ
武器:アロウズレイン=無色
戦闘スキル:ウォート中級、ウィンデ中級、治癒魔術初級
補助スキル:中級鑑定士、森の声、薬師、魔工師、無詠唱の心得、妖精の舞踊
補助装備:光魔のペンダント
名称:エト・ラビットハート
種族:ノスタ・ライカ(獣鬼)
Level:25
HP:1,610
MP:130
Str 61
Dex 52
Int 15
Vit 83
Agi 43
Luc 42
装備:ヴェスティアグローブ、テッラ=ゴライアスメイル (加護)、ヴェスティアブーツ
武器:ヴァイスファウスト
補助装備:深緑の証
戦闘スキル:受け身、迫撃、回し蹴り、電光石火、鉄鋼拳、臨界
補助スキル:気功術、狂獣化、獣の直観、致死回避、かばう、明鏡止水
名称:セリディスタ・フォルク
種族:混在人
Level:18
HP:820
MP:398
Str 44
Dex 55
Int 38
Vit 40
Agi 38
Luc 27
装備:ヴェスティアグローブ、マギシアクロス(加護)、ヴェスティアブーツ
武器:穿針のペン
補助装備:無色魔符(残量:284枚)
戦闘スキル:補助魔術初級、グラン系初級、集中、パリィ、スラッシュ
補助スキル:混在の才、魔工師、雑貨職人、速記、広域視野
久々に情報を共有したこともあって、以前それぞれが見ていた情報とは大いに違う部分も相当数見受けられる。
ほうほう、だの、なんだこれ、だのてんで好き勝手に覗き込んでは笑い含みに感想を落としあう。
今回の装備更新ではワークシリーズの手足のランクを上げ、補正の付いたヴェスティアシリーズに変えてみた、というのが大きな変化の一つだ。
素材は当然、インベントリを圧迫していたルインラクナル素材が中心となっている。
中に仕込んだ金属は鉛となり破壊力が増しているが、セリディスタが仕込む前の鉛に風のルーンを刻んだおかげで装着者の感じる重量はこれまでと変わっていないという面白い仕様だ。
ちなみにセリディスタもPTに参加したというのを良いことに、強制的にグローブとブーツが渡された。これまではシティーブーツという軽い靴を履いていたので最初は違和感があるようだったが、意外と履き心地が良いのか、気に入ったらしくその辺を飛び跳ねていた。
スピネルとエトの鎧はテライオン素材を使った軽鎧と重鎧になり、シバとセリディスタの服は魔石を織り込んだものとなった。ハルタチのローブはというと、実はシバの遊び心でスピネルの作ったローブにシバがテライオン素材の端材を合成したらこうなった、という代物である。名の通り、大地系統の術に補正がかかるようだ。
スピネルは新たに両手鎚と片手鎚装備用に腕にはめる小型のラウンドシールドを、ハルタチは魔力増幅用のピアスを身につけている。
エトの武器は結局かなり重量を大きくした、腕までを覆うナックルとなった。装備にはHP補正がついているため、かなり頼りがいのある数字が叩き出されている。
ちなみにセリディスタの持つペンは、彼曰く実は魔具の役目を果たしているのだという。
魔符作成時に使う用途だけではなく、なんだかんだで細く魔力を通せる特性故に戦闘時に使いやすいのだとか。
それを聞いた女二人が惜しげもなくウッディブラウニーの余ったレア素材――結晶針でペンを作り直したのだが、セリディスタはその様子を見てひええ、と慄いていた。
シバの言によれば、『何の因果でか材料が集まってから二個も落ちやがって腹が立つ』だったそうなので気にすることもないのだろうが、それでもプレッシャーを感じるものらしい。
「こうして見ると、何かいろいろおかしいっすよね。どんだけ無茶してきたんですか」
「えっと、何処から無茶に該当するんだろうね?」
そう言われてセリディスタもうっ、と言葉に詰まる。スピネルの純粋な瞳は真剣に疑問を宿して答えを求めていた。
が、セリディスタの考えの範囲で何を言ってもそれ全然無茶じゃないよー、と言われそうな気がする。
「効率重視の人らの方がもっとレベル上なんじゃない?」
「うーん、それはそうでしょうけどね、多分今トップは30レベルオーバーでしょう。俺が弾かれたのがログアウト出来なくなってすぐで、そこから俺一切レベル上げ出来てませんし」
工房に一人引きこもるか孤独に素材集めでした、と自嘲気味に笑ってみせる。
「一方私らはウッディブラウニーの乱獲、ってねえ。あれは確かに経験値的にはおいしかったというかおいしすぎたというか、でも強かった」
「フォーマンセルとは思えない大胆さですよね、ほんと。常識が覆される」
「実質三人だったけどな。ま、慣れろ」
ぽすんと肩を叩くハルタチに、力無くはい、とセリディスタは答えた。
『そんじゃ質問タイムね。ハルタチおにーさんのハイテンションと蒼の魔眼ってどんな効果?』
「あー、ハイテンションは気分が盛り上がってくると魔法の威力が高くなるけど、命中が下がるってやつだな」
「――おい、またかっ。似たようなスキルばっかりとりやがって‥‥‥」
エトが脊髄反射で吠えた。これ以上誤射が増えられては心労がマックスになりかねない己を思ってだろう。唸りながら頭を抱えている。
が、そんなエトをスルーしてハルタチは蒼の魔眼の説明を続けていく。
「蒼の魔眼は普通にMPとINTのブースト効果だよ、命中は下がらない」
「これ以上命中率が下がられては私も死にます。ハイテンションは森で取得してましたね?」
スピネルは思い当たる節があるのだろう、確認を取るように問う。
「だな」
「やっぱりそうでしたか、そんな気はしてたんですよね、命中率的な意味で。鬼精魔導は命中の成長マイナス補正ないって言ってましたしね」
疑問が解決しましたよ、と言いながらもスピネルはいまいち元気がない。
「じゃ、次。個人的にはセリ君のスキルが気になる。以前は前衛?」
うんうん、とセリディスタ以外がそれぞれ頷く。スラッシュとパリィがある点が全員気になっていたのだろう。その様子を見て、ああ、とセリディスタも頷いた。
「最初はソードマンだったんですが、どうにもスキル取得ペースがすこぶる悪くて、このスタイルになりました」
なるほど、確かにこの二つはソード系スキルでありそうだ。
「なるほど、その名残ね、了解。あと、混在の才ってISかな。どんなやつ?」
「あー、っと。治癒か補助か冥術の内から一つと、属性魔法を一つ使えるって奴です。治癒と水、補助と大地、冥術と火って組み合わせになります。俺は二番目ですね」
「ほー、ユニークだな。ところで冥術ってなんだ?」
「俺もよくわかりません。使ってる人も見たことないです。奪うことに特化した魔術、という説明はあるんですけど」
ふむふむ、とエトは頷き、他に質問ある人は、と話を振る。
「獣の直観って」
セリディスタの声にぴたっとエトとスピネルが硬直する。
「ライカ系のISですよね、珍しい。気配察知の上位互換なんて初めて見ましたが取得条件‥‥‥は‥‥‥」
「悪いことは言わないから、あんまり詳細は知らないほうがいい」
貼り付けた笑顔でエトが、な?という。追い打ちをかけるようにスピネルもかくかくと首を縦に振る。
「被害者は私たちだけでいいんです」
「え、ええー」
目線をやると露骨に逸らすハルタチ。それでセリディスタも察したようだ、洩らし損ねたうわぁ、という声が小さく落ちた。
「ISなのに、努力、なのですね」
「君が明晰で助かるよ」
こればかりは間違いなく、他で見たことのない理由が何よりも納得できるセリディスタなのだった。
「じゃあ質問はこの辺で、今後の方針について。意見や希望がある人、いるか?」
『一応希望かな。別の街に行きたいです』
シバの言葉にふむ、とエトは考える。
「確かにこれからのことを考えた場合、レベルも上げたいし、素材関係もステップアップしていきたいところではあるな」
「それなら選択肢は一応二つあるぜ」
ハルタチがマップを出現させて言う。
「ログスポート北の街道の先にあるセルゼス、ここが順当な次の拠点だ。が、邪道を行くなら森越えでエルダウッドってやり方もある」
王道か邪道か、それが問題だ、とハルタチは肩を竦めて周囲の反応を伺う。
『それぞれの問題点は?』
「えっと、間違いなく森越えはきつすぎませんか」
スピネルの確認に、だろうなあ、とエトも苦い顔で頷いた。
「雑魚であれだったしな。しかも地図で見る限りアスルド深林の範囲はかなりでかい。あのペースでこの距離を行ける自信はないな」
アスルド深林深部は狩りだけを目的とすれば滞在できないわけでもないが、踏破となると心構えも必要とされるレベルも一気に変化する。
主に回復の面で十全な準備が必要になることは間違いないし、長い道のりなだけに集中力すら切れがちになるだろう。
そういうことまで視野に入れたなら、適性と思われるレベルより少なくとも2,3は上にしておかなければ、とてもじゃないが安心できない。
「ふらつくレアMOBに殺されるのも癪ですよね」
確かに、とスピネルの言にそれぞれが同意を示す中、同じように頷くセリディスタはふと何の気なしに呟いた。
「そういえばアスルド深林、ボスMOBいますね」
「嘘だろ!?そりゃ無理だわ」
完全に邪道が絶たれた瞬間だった。
『そうなると選択肢はあって無きが如しだねえ』
「だな」
ここか、とハルタチの指がリズド街道をなぞり、その上のセルゼスに到達する。
「ルートはリズド街道を北上していく、それだけだな。敵のレベルもそんなに高くないみたいだし、余裕だろ」
「いやいや、油断は禁物ですよ。準備だけはしっかりしましょう。道中何が起こるかわかりませんし」
『買い出しかあ。必要なものは何かな』
ポーション、ピッケル、じゃあ斧も、などと五人は盛んに情報を交し合う。
明らかに採取しながら行くこと前提の会話だ。
「オッケー、薬屋と道具屋行って、それから出発な」
よいしょ、と軽く声を上げてエトが立ち上がるのに皆も追従する。
「ん、今回はばらけるのは避けようか?」
軽く膝についた砂埃を払いつつ、ハルタチが言う。
「ですねー。なんとなくまだ個人で動くのは不安だな」
スピネルも難しそうな顔をして唸っているのに、そうだなあ、とセリディスタも納得した。
強盗じみたプレイヤーキラーの噂を彼も聞いたことがあったのだ。
ひょっとしたらシバもそういう手合いと何かあったのか、と邪推もするが、その辺はそうそう口にしないほうがいいのだろう。考えを巡らせた結果、言葉を飲み込む。
そのまま工房を出た五人はだらだらと他愛のない会話をしながらテンポよく買い物を済ませてゆく。
採取道具は主にスピネルが、ポーション類は各自割り振り、予備のMPポーションだけはハルタチが持つ。ドロップアイテムなどはシバとエトで回収する手はずだ。
ゆっくりと歩を進めていくと北門が見えてきた。開始直後は門周辺は溢れんばかりの人でごった返していたものだが、今やその辺りで戦闘をしている人は、僅かに素材回収を目的としている人ばかりだ。
時間の経過とともに狩り場もだんだん北上していったのだとしたら、これから向かう場所には以前の北門を彷彿とさせるような人だらけの場所もあるかもしれない。
とりあえず、ログスポートとはしばらくお別れだ。
門を抜けて整備された街道をゆっくりと歩み出す五人は気持ちも新たにセルゼスを目指す。
*
きりのいいところで切ってみました。とうとう次の街を目指します。
まだ初期マップを出ていないわけで、どういうことだと私も思いました。
どうにかこうにか一生懸命踏ん張って書きます。宜しくお願いします。
ところで装備とかスキルのネーミングを考えるのにはいつも一苦労です。
皆さんどういう風に考えているんでしょうか。
ちなみに私はGoogle翻訳とにらめっこ、の日々です。




