Act 10
想像もしていなかった方面からの一言である。まさに寝耳に水、といったところか。
「装備見てると何となくどういうパーティーか予想できるんですけどねえ。ちょっと最初は俺、頭抱えようかと思いました、今だから言いますが。だから初見で効率ガン無視だ、と分かったほどで」
「そう言われると自信がないな。誰にも相談せずに僕たちはここまで来ている。その、効率的、とか言う王道の構成を教えてもらって参考にするのもいいかもしれん」
なるほど、と一人ごちてセリディスタは考え込む。四人をかわるがわる見て僅かに眉をしかめ、幾許かの時間が経ってからようやく口火を切った。
「まずエトさんは防御盾か回避盾か、どちらですか?」
「え、そんな違いが?」
そこからか、とセリディスタは小さく零した。何と説明したものか困惑しているようにも見受けられるその様子に、スピネルが助け舟を出す。
「エトさんはMMOになじみがないと思います。多分この中でなんとなくわかるのは私とハルタチさんくらいじゃないですかね」
「えぇ」
それでこの最新鋭のゲームに応募してきたのかあ、しかも当選しちゃうのかあ、と落ち込むセリディスタ。心中複雑そうだが、今はそこには触れてやらないほうがよさそうだ。
「確かにエトさんは見たとおり格闘ですし火力重視です。これまでは回避盾スタイルでしたね。多分本来サブ盾のする役割かな、と私は個人的に思ってます」
「そうなのか」
そうなんですよー、とスピネルはエトに答える。確かにそれでこれまでやってこれたのだから、改めて指摘することもなかったのだろう。
「これだと『ハウリング』の取得条件が、いや待て、ひょっとして火力と手数のごり押しでヘイトを取ってきたのか。うわあ、滅茶苦茶だなあ。――あれ、でも鎧はVit重視になってるけど」
「さっき新調したんだ」
その一言で幾分精神的なHPを削られたようで、セリディスタの頭ががくりと揺らいだが、どうにかこうにか納得することができたようだった。
恐らく本当は方向性を考えた装備変更を心掛けろ!と言いたかったに違いない。
「――ではエトさんの場合は、今後その火力を維持しつつ、それほど回避に依らない盾を目指すってことで、戦法を変えるだけでいいかと思います。回避盾はリスクが高すぎますから」
「それでいいのか?」
「今更シールドを使った慣れない戦闘をするより、自力で避けつつある程度の攻撃を耐える盾になったほうが現実的な気がしました。回避盾だと回復役の層が薄い現状、不安で仕方ありません」
それって色々諦めたってことかなっ、とシバがニヤニヤ笑いながらダメ押しのように確認してくる。
「そうともいいます。で、スピネルさんは‥‥‥火力ですか」
頷くスピネルに言葉を選びつつ、セリディスタは返答する。
「でしたら片手鎚は向きませんよ。ライカ・ヒューは意外とAgiも高いので、両手鎚の方が結果的に火力が高くなります。現実とは違うのでStrがあれば取り回しには意外と苦労しませんし。でも狭いフィールドのことも考えて片手鎚と小型の円形盾なんて組み合わせを予備で持っておくのもいいかもしれませんね」
「あー。そっか。そうだねえ‥‥‥生産の補正と熟練度の上がりが早いんで片手鎚だったんだけど、戦闘をこれから重視していくならそのほうがいいのかな」
でしょうね、とセリディスタも同意する。生産の方向に打ち込んでいた故にこのログアウト出来なくなったゲームの中で一人になってしまったのだ、戦闘面に目を向けたほうがいいというその意見には説得力があった。
「言われりゃそうだなあ。いかに俺たちが深く考えてなかったかがわかる」
「というあなたは、えっと、ハルタチさんですか。どう見ても魔法アタッカー装備なんですが」
「それで間違ってないぜ」
かくん、とセリディスタの顎が下がった。
「その反応は何だよ?」
「ええと、いや、落ち着くんで待ってくださいね」
数度深呼吸をしたセリディスタは、それでもやはり信じられないなあ、などと零し、その理由を話す。
「ノスタ・フェアルで純粋な魔法アタッカーって初めて見ました。差支えなければスキルを見たいんですけど」
「ああ、いいけど」
ひょいとハルタチが見せたスキル欄の幾つかを目で追い、えぇ、と言いながらもセリディスタは納得したようだった。
「鬼精魔導ってISですね、これ」
「だな」
「普通のノスタ・フェアルのプレイヤーにはそんなものありません。ノスタ・フェアルは自己強化魔法とデバフを駆使する近接アタッカー兼デバッファーのはずです。どうしてこうなった」
うへぇ、とハルタチは己を顧みる。自分がそんなイレギュラーだとは思ってもみなかったと言いたげな顔だ。
『でも全部ノスタ・フェアルがそれだったら選んだ人全員ハマりだもの、イレギュラーでよかったよ』
「その通りです」
セリディスタが重々しく頷いた。確かに出す魔法全てが無差別殲滅魔法になってしまうキャラばかりだったら、ゲームバランスどころの騒ぎではない。
「じゃあもう、ハルタチさんは長所を伸ばしていけばいいんじゃないでしょうか」
「投げられた!」
騒ぐハルタチをさらりとスルーして、最後にセリディスタはシバを見る。
「シバさんはこれまで魔法アタッカー兼ヒーラーでしたが、その魔弓は魔法攻撃として判定されるんでしょうか」
『うん、魔法扱いだね』
「回復系魔術を魔弓から放つことは可能ですか」
えっ、という表情でシバは固まり、考え込んだ。そしてしばらくなにがしかのウィンドウを操作し、首を振る。
『今は無理そうだなあ』
「なるほど、回復は望めないならシバさんは完全に魔法アタッカーですよねえ」
それは仕方ないか、と腕を組み、しばしセリディスタは考え込む。
「それなら普通に弓使い系統のキャラと同じように考えますかね。装備も特に方向性としては変更しなくてよさそうだし、後は慣れだけになります」
『うぐー、がんばるー』
難しい顔をしてこくりと頷くシバを見て、ようやく言うべきことは言ったとばかりに満足げな表情をするセリディスタ。どうにか最後まで精神的なHPは持ちこたえたらしかった。
やり遂げた、とでも言いたそうな顔はどこか輝いているようにも見える。
「セリ君は随分とMMOに慣れているんだな」
「まあ、それなりに色々やってはきましたから。スキル制からレベル制から2Dに3D、FPSまで」
ゲームオタクって奴っすかね、と照れくさそうに笑うその様はあどけない少年のようにも見えた。
「うへえ、若いなぁ」
ひょいとスピネルは肩を竦める。それほど多くの物に食指を伸ばす余力が残ってない己と引き比べ、そう思ったのだろう。
「あ、実際俺今どきの若者ってやつな気がしますよ。多分皆さん社会人でしょ?俺まだ学生ですし、今年21になるんで」
「‥‥‥マジかー」
ハルタチが言葉をなくして肩を落とす。何歳差かということを考えるつもりもなかったのに考えてしまったのに違いなかった。
「おい、お前が落ち込むな、僕の立つ瀬がない」
エトも軽く消沈した声でハルタチをたしなめる。
『むー、でもセリ君のおかげで助かったな。スッピーも装備作りやすくなったし』
「そうですね、本格的に装備作り直す前でよかったな」
シバが話を戻したのにスピネルも応じる。今にして思えば装備を更新する途中だったのだ。方向性が随分変わったおかげで計画は練り直しだが、より効率のいい装備を作れそうだ。
「えっ、装備更新直前だったんですか。我ながらいいタイミングだったなあ」
にやりとセリディスタが笑む。うんうんとスピネルも笑って応えた。
と、全く脈絡もなく突然何かに気付いたとでも言うようにシバがふとウィンドウを探る動作をする。その表情も不可解な、と言わんばかりだ。
妙に唐突な動きに、スピネルもきょとんとしてシバに問いかけた。
「どうしました?」
『インフォボードのアラートが鳴ったの』
そういえばシバは重要な情報を知らせるように設定したのだったか。スピネルをはじめとして、それを聞いた残り四人も普段ほとんど見ることのないインフォボードを見る。
「うへ、本当に出来るものなんだ‥‥‥」
それを言ったのは誰だったか、しかしその言葉は全員の意思を代弁していた。
――『ギルド:剣と杖(ギルドマスター:シエルティ)が結成されました』
――『対抗勢力不在のため、セルゼスはギルド「剣と杖」の勢力範囲に置かれます』
なるほどとうとうギルドが立ち上がったか、という思いと、一体何がどうなろうというのか、という疑問がない交ぜになる。
『うむむー、これは、すごいねえ。確かにあの時すでに結構な人数集まってたけど』
難しい顔をしてシバは考え込む。
「勢力範囲ってなんだよ」
ハルタチが言いながら他にめぼしい情報はないか改めてインフォボードを繰る。
「気になる言葉だな。お、あったぞ。――ああ、そういうことか」
エトがヘルプで該当する項目を見つけたようだ。
「ログスポート以外の街では露店が開けるんだが、その時の土地使用料だな、それをみかじめ料として取れるようになってるんだと。一応一つのギルドにつき一つの街を勢力範囲に出来るようになってるみたいだ。ログスポートで募集してたのに、主力はいつの間にかセルゼスに移動してたんだなあ」
「となると、勢力範囲というのは大体のMMOにあるシステムと同じですね」
セリディスタがほっと息をつく。もっと物騒な状況を想像していたのかもしれない。
「このシエルティってのがまとめ役か。ふむ、察するに脱出を目指すギルドっていうのがこれだろうから、間違いなく攻略系、と言って良いな」
そうですね、とスピネルも同意を示す。真っ先に出来た攻略系ギルドだ、その実力のほどは測れずとも、どのような集団なのかという想像はつく。
「資金集めがうまく、武闘派と生産者を囲い込んだ集団‥‥‥敵に回したくないですね」
「全くだ」
ハルタチも肩を竦めた。
「あの、」
おずおずと、どこか遠慮がちにセリディスタが何か言いかけるが、言葉を探してか黙り込む。
『どうしたの?』
シバが心配するようにセリディスタの顔を伺う。困ったようにセリディスタは視線を泳がせていたが、意を決したように彼は続けた。
「ええと‥‥‥その、今、インフォボードの剣と杖の名前をつついたら詳細情報が見えたんですが、サブマスターも見れるようになってるんですよ。で、そのメンバーが」
「ん?」
特に見覚えのない名前が二人ほど並んでいるが、それが一体どうしたのか。エトが頭上に疑問符を浮かべてセリディスタの発言の意図を考える。
が、その辺りをあっさりと無視してハルタチが妙に鋭い目でセリディスタに問いかけた。
「なるほどね、セリ君がよく知ってる人間なわけか」
はっとしたようにスピネル、シバ、エトがセリディスタを見る。
セリディスタもどこか観念したような寂しげな笑みを浮かべた。
「ですね。そうです。俺がいなくなったから、だろうな。彼らには足手まといだって言われてたんで」
気まずい雰囲気が周囲を包む。
「そうか。で、セリ君的にはどうだ、その辺禍根があるのか」
「いいえ、特には。結局俺が悪いんで」
パーティーが求めるキャラクタースペックを満たすことが出来なかった、つまりはそういうことですから、とセリディスタは残念そうに笑った。
「なら、いい。特に密接なつながりを持とうとしなければ毒にも薬にもならない、ってことだ」
それじゃ、ギルドの話はこれでしまいだ、とハルタチはからりとした笑みを浮かべて手を叩いた。
「ふむむう、そんじゃあ、気を取り直して装備の話に戻りますよー」
ことさらのんびりとした口調でスピネルが手を上げて発言する。
「とかく、新装備はセリ君の言うとおりにやってみますかねっ。どうでしょ?」
そんな勢いのある言葉に、お、おー?とセリディスタが一歩引いた声を上げた。そこまで信頼されることに若干のプレッシャーを感じたのかもしれない。
「いいんすか?」
「いいっすよー」
セリディスタの若者言葉を引き取って言ったスピネルが、腰のハンマーをひょいと空中に放り投げる。
「私に出来ないことはないんだぜー」
そしてくるくると回転しながら落ちてきたハンマーを掴もうとして、しかしそれをスピネルは掴み損ねる。
「あう」
『締まらないねー』
からからと転がるハンマーを見て、ほほえましく呟くシバの言葉に皆たまらず吹き出した。相も変わらず、この緩い雰囲気だけは変わらない。
*
今更装備がおかしいんじゃねーの、というツッコミが入りました。
正解も不正解もありませんが、王道はありますよね。
個人的には盾とヒーラーがしっかりしてれば、火力がヘボでもどうにかできる、という思いがあるんですけど、このPTはヒーラーという意味で徹底的に不安になります。




