Act 8
いつの間にか140,000pv、20,000ユニーク達成しておりました。
皆様のご愛顧に感謝、感謝です。
「まあこれなら多分Lvとしてもクリアしてるだろうし、見せてきますね」
ひらりと軽く身をひるがえしたスピネルは再び鍛冶屋に出来たての金槌を差し出す。
「いかがでしょーか」
「ふン。当たり前のことしてえばるな、魔力銀は一番作るのが簡単なんだ。小僧、いろんなところで掘って、いろいろ試せよ。特定の属性魔石としか反応しない鉱石だってあるんだぜ。あと普通に合金も試せ。武器作りもいいが、基本は合金作りからだ、いいな」
はいっ、と答えるスピネルの背筋が心持ち伸びる。まるで鬼コーチに指導を受ける学生のようだ。
「そんじゃ約束通り、いいものやるよ。ほれ」
ぱちん、という軽い音は金属の金具がはまる音だ。
鍛冶屋はまるで魔法のように鮮やかな手つきで、薄赤い金属の飾りを金槌の付け根にはめてゆく。
「それは?」
「お守りだ、というのは冗談だ。よく見ろ」
それに気付いたのはスピネルではなくハルタチの方だった。思わずあっ、と軽い声を上げたハルタチはそれを指し、皆に語る。
「これ、俺が魔法出すときに出る魔法陣のエフェクトと似てる」
「お、本当だ」
エトが感心したようにハルタチと金槌を交互に見る。ふむ、と鍛冶屋も軽く唸り、頷いた。
「魔法陣である、というのは正解だ。が、これは発動用の魔法陣ではなく、魔力の流れを導き出す補助魔法陣だ。つまりどういうことかっていうと、こいつがついていることで素材に含まれる魔力をまんべんなく整えてやることが初めてできるようになるんだ。――つまり、こいつがなきゃ魔器は作れんのだな」
そう言い切ってしたり顔で笑む鍛冶屋。
『キーアイテムじゃん』
シバの言葉に、スピネルも声もなく頷く。
「なお、このタグは別のハンマーに付け替えてもきちんと効果を発揮する。道具を変える時は付け替えるのを忘れてないか気を付けるようにすることだ。あと無くしたり壊したりしたときは‥‥‥そうだな、その時になったら、また来い」
――ポーン。
――クエスト 魔器についての調査 Clear!
→魔力伝導率の高い素材と、核となり得る素材を調べよ
報酬:魔器作成特殊工程用アイテム:導魔の薄片
ぴく、と軽く四人の体が跳ねる。みな同じ音を耳にしたのだろう、これで無事にクエストをクリアしたことになるようだ。
「俺が教えるのはここまでだ。あとは実際にやってみるこった。分からないことがあれば、気が向いた時だけ答えてやる」
ひらりと手を振り、さあもう行け、と鍛冶屋は顎をしゃくった。
「よーしっ、じゃあ作りますかっ」
指定された通りの材料を取り出すスピネル。
弦の材料と弓の材料をまとめたものに、そっとゴーレムの双眼をどこか恭しいともいえる手つきで添える。
あとは仕上げの一打ちだけ。ふっと息を吐いたスピネルは、金槌につけられたタグを親指の腹で軽く撫でた。うまくいきますように、なんて思いながら。
そして加工メニューからウィンドウを確認、そこに魔器の項目があるのをスピネルは見る。
分類:魔器
種別:コンポジットボウ 装備Lv2~
材料:木材、獣の皮、魔道核
⇒現在のアイテムで作成可能 成功率100%
どうやら本当に適正レベルは低めに設定されていると見える。
恐ろしく素材集めは面倒で、しかし救済と言わんばかりのこの平易な難易度とのギャップには思わず苦笑する。
「どうせなら、プラスがつくといいな」
一人ごちて振り下ろす。コォンッ、という木材のぶつかり合う音が響き、素材が輝いて形を変える。
出来上がった複合弓は、艶やかに光を反射して、作業台に静かに鎮座していた。
魔弓 アロウズレイン=無色 Lv4 Atk 65~130
素材:食人樹、獣の皮、魔核
特殊効果:Atk-Int依存、Dex+7 連射可能
それはまさに上質な木工細工を思わせた。握りより少し上の部分には核がはまり、白い光を柔らかく放っている。プラスは付かなかったものの、十分な出来だ。これならば今後の戦闘にも第一線の武器として活躍できるだろう。
「よかった‥‥‥」
ふーっと長い息を吐き、ぺたんとスピネルがその場に座り込む。思っていたことがようやく形になった。一歩踏み出せた。そう思ったら気が抜けてしまったのだろう。
『えっと、触っても?』
おずおずとシバがそう書き、三人を見回す。何も言わず頷く彼らに、シバはぐっと何かをこらえるような表情をした。魔弓を手に取り、軽く弦をはじく。弓を撫でると、囁くような微かな音を立てて魔核の光が増した。
シバは口を開きかけ、閉じた。言いたいことがちっとも言葉にならないんだ、困っちゃう、と言わんばかりの様々な感情がない交ぜになったような表情で、チャットウィンドウではなく口の動きだけで彼女は返事をした。
――ありがとう、みんな。
「うへへ、照れるなあ」
頭を掻くハルタチに、お前は何をしたんだよ、とエトが小突く。
二人とも照れ隠しなのだろう、それはあまりにも可愛らしく映る。
「魔核に相当する素材によって威力が変わるんでしょうかね。また調べたいですけど、大きい武器を作るとなると素材集めが大変ですねえ」
ふむー、とスピネルは一人今後の武器作成の予定を組み始める。
「接近戦用にナイフ型の魔器をハルタチさん用に一本作るのはいい考えかもしれません」
「お?」
突然話を振られてハルタチはきょとんとする。うん、とそんなスピネルの言葉に頷きを返したのはエトの方だった。
「確かにハルタチは懐に入られるとあまりにも無防備だ。自分も巻き込む魔法を唱えるわけにもいかない」
「ええ、ですからハルタチさんのそういう護身用武器を一つ作ろうかと。Strがなくてもナイフ程度なら扱えるでしょうし、何より素材が少量で済む」
なるほど、とハルタチも頷いた。言われてみればそうである。通常の戦闘なら頼れる前衛がいるけれども、先日のようなPKにはハルタチは今のところ対処法を何も持ち合わせていないのだ。
「分かった。でも魔核になる素材って見つかるのか?」
スピネルがそうですね、と少し考え、頷く。
「要は魔力を蓄積出来る素材ならいいわけですよね。シバさん、何かありましたっけ?」
『魔力を蓄積って‥‥‥そのまんま、宝石の特性だけど』
あー、とどこか気の抜けたような声を上げてスピネルは破顔した。あまりにも身近なところに答えがあったのが予想外でもあり、うれしくもあったのだろう。
「へえ。じゃあゴーレムの双眼も宝石扱いだったのか」
エトがしみじみと言う。今更ではあるが、これはそれなりに良い発見だ。
『しまった!それなら普通に宝石を材料にしてもらえばよかったんだ!』
「いいんじゃねーの。お前の生命線だろ。いい武器になったんだし、それでいいってことにしようぜ」
申し訳ないなあ、とでも言いたそうな顔だが、シバは何もウィンドウには出さずにハルタチを見る。
「木の端材まだあるよな。じゃあそれと銀と宝石で、いっちょ頼もうかな?」
「良いですねそれ。じゃあシバさんに宝石の加工はお願いしますが‥‥‥何がおすすめで?」
『とれたのはトパーズ、ペリドット、キャッツアイ、ジャスパー。ジャスパーは魔石の原料になるから、多分蓄積より放出に特化してる。多分トパーズかなあ、レアリティ的に』
じゃあそれで行きましょう、とスピネルが言ったのを見て、シバもこくりと首肯した。
『原石だし、加工するよ』
作業台の上に出てきたのは、青味のある透き通った石だ。細かなそれが作業台に山になる。
『現実でも細かなものから一つの塊に出来たら、大儲けなのにねえ』
そんなことをウィンドウに残し、シバは苦笑しながら手を原石の上にかざし、そっと触れる。
シバに触れられた場所からは柔らかい光が全体を包み、それが晴れた時には傷一つない球体の青い宝石が作業台の上に転がっていた。
「あれ、杖を使わなくて出来るようになったのか?」
ハルタチが首を傾げるのに、ああ、と改めて気づいたかのようにシバは首からぶら下がる革ひもを引っ張って見せた。先端に下がっているのは、魔杖についていた光の魔石だ。
いつの間に作ったのだろうか、そういえば魔杖がなくなっていた。
『いやあ、邪魔だったしね、これのほうがいいかと思って』
「なるほどー」
ふむふむ、とスピネルは頷き、磨かれた宝石を手に取った。
宝石 ブルートパーズ
残念ながら魔力をどれだけ溜められるか、といった素材のポテンシャルを確認することはできないが、簡単な魔器の作成には十分使えそうに見える。
『あとは、ほい、さっき練習で作ったLv3魔石』
「練習であっさりと作れるようになったんですねえ」
若干呆れたような、尊敬したような目でシバを眺めるスピネル。本当に彼女は努力家だ。
それに応えないわけにはいかない。
「それじゃあさっそく作らせてもらいますね」
シバと入れ替わりでスピネルが作業台の前に立つ。ウッディブラウニーの端材はまだまだある。このためのことを考えたわけでもなかったのに、何処で何が役に立つのかというのは、本当にわからないものだ。面倒くさがりながらも集めていてよかった。
グリップ部分は一応使用者が男性ということで少し太めに。ルインラクナルの皮で滑り止めを施す。
魔石と銀とグリップを並べ、ブルートパーズを設置。
ちなみに銀は今回の作成で見事に在庫が尽きた。また採取してこなければならない。
それ以外の素材もあらかた尽きたか、今のレベルではもう役に立たなくなっている。
本格的な収集ツアーをしたいな、とぼんやりスピネルは思った。
「何考え事してんだよスッピー、頼むぞー」
「おっと、失礼しました」
へへっ、と照れ隠しの苦笑を零し、金槌と素材が打ち合わされる。
魔刃 マギ・リッパー Lv4 Atk 20~118
素材:食人樹、獣の皮、魔核、魔力銀
特殊効果:Atk-Int依存、Luc+6 切れ味補正
曇りなく輝く銀の刃の付け根には、随分と凝縮された親指大のブルートパーズが輝いている。淡く薄い青色だったのが、心なしか濃さを増したようだ。
スピネルがさらに革で誂えた鞘に収め、ハルタチに渡す。
「まさに守り刀だな。ありがたく受け取っとくよ」
ニコリとハルタチが笑む。はい、大事にしてくださいね、とにこやかにスピネルも応じた。
その時だった。唐突にこれまでの流れを断ち切るような、聞き覚えのない声が響いたのは。
新展開を前に、一挙2話投稿です。
私はキャラのネーミングって割といつも考え込んでしまうタチです。
思いつかないので実は結構実際に存在する知り合いの名前も借りています。ゲーム内のキャラネームとかは特にそうですね。




