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スキマ産業奮闘記―In The Cradle  作者: 狩山 宿
Ⅱ. 若木へと至る道
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Act 2

そうこうしているうちに、シバが四苦八苦してメニューからチャットウィンドウをどうにか開くことに成功したようだ。

『ハルタチさんなにこれすごい。3種類も機能ある』

目を輝かせながらシバは自分の右上に出現させたチャットウィンドウを必死に指さし、その機能の充実ぶりを全力で示しにかかっているようだ。

まず、シバが懸命に説明したところによると、『Ⅰ』というキーを使用者が選択すると、その周囲にいる人間が無差別に閲覧可能な言葉を発信できるという。これは通常の音声による会話と同じとみていいだろう。

次に、『Ⅱ』というキーを選択して文字を書くと、近隣にいる同じパーティーの仲間にのみ視覚可能になる。仲間限定の内緒の会話には便利かもしれない。

そして、最も面白いのが、『Ⅲ』のキーである。

これを選択して文字を書き込むと、同じパーティー内の人間全員に、強制的に内容を知らせることが出来るのだ。

仕組みとしては内輪に向けてのシステムメッセージと似たような形である。突然電子音とともに脳内に文章が想起されるようになっており、緊急時の連絡や、遠方にいる相手への連絡手段としてはメールよりもよほど手軽である。

『エトさんには悪いけど 会話とメモ分けられるの、かなり楽だわ。すごいね!』

うんうん、とシバは一人でご満悦のようだ。喋るよりも口数が少なくなっているのは如何ともし難いとはいえ、話したいこと全てを紙に書いていたころより余程のびのびとしている。

そうして充実した機能に納得した辺りで、そうだ、とシバは本来の目的を思い出した。

『そうだ。魔器ってどうやったら手に入るんですか?』

ウィンドウを魔道師に向けて翳すと、今度はふむふむ、と納得したように魔道師は深く頷いた。

「それは儂には難しい問いだの。鍛冶屋か武器屋に聞いてきなされ」

だが、求める答えは得られない。仕方ない、あとでそちらにも行くしかないようだ。

「続けようかね。そのほかにも、魔力塊があるかの。魔力塊はそもそも一つの魔法が込められた不思議なアイテムじゃ。特に魔力を持たない者でも扱えるという点では、最も利便性に優れるものだろうよ。とはいえ、欠点はあまりに大きい。魔力塊は使い手を選ぶのだよ。しかもそれそのものが貴重品だでな、あまり現実的ではない」

「じゃあそれは除外だなあ」

うんうん、とシバもうなずき、書きかけた項目にかぶせるように打ち消し線を引いた。

「最後に。これはかなり条件が厳しいのだが、一応聞いていきなされ。そこの御仁は無理でも、お姉ちゃんには使える技なんだがの」

はっとしたようにシバは身を乗り出す。『どういうことですか』、と言わんばかりに興奮して続きを待つ。

「薬草魔術、というものだの。ある程度薬草を扱い、その知識を極めたものが、薬草の秘める魔素を取り出し、増幅して魔法に応用する、と言うものだ。それ以上詳しいことは知らんが、フェアルでありヒューの器用さを併せ持つ者がその境地に至ることもあるというのう」

ほへー、と言わんばかりの表情で、一応シバはそれをメモした。

今はまだ使えなくとも、いつかこれが扱えるようになれるかもしれない。

どんなスキルなのだろうか。わくわくする。

「まあ、こんなところだろう。役に立ったなら、重畳だの」

「そうかー。んー、攻撃系に偏った説明なわけだね。ばあさん、一個いいかい?」

「どうしたね」

シバ、お前が聞けよ、とハルタチがシバを軽く小突く。

あれ?といったように、シバがかわいく小首をかしげるのを見て、ハルタチはぴくり、と頬をひくつかせた。

「まさかとは思うが、お前っ、主目的、忘れたのかよー?」

ハルタチは言うなりシバの頭に手をやり、ぎゅうぎゅうと地面に向かって押し始める。

ばたばたとシバがハルタチの右腕の下で懸命に暴れ出したのは、縮む!縮む!という全身でのアピールに違いないだろう。

「はー‥‥‥えっとな、こいつが喋れなくなったからステラが使えなくなったのよ。それをどうやって解決したらいいか、って相談事をしようかとね」

器用にも一方的に片腕でシバを押さえつけながらそのようなことを事もなげに言い放つハルタチ。

そしてNPCだけに当然二人の特異なコミュニケーションには一切頓着せず、魔道師は淡々と答えを導き出す。

「そういうことかい?なら、もうお姉ちゃんの実力なら詠唱はいらんだろう。練習は必要だろうから、根気強くやってみな」

へ、とシバは目を丸くした。無詠唱で行けるの?とウィンドウに記し、ハルタチを不安そうに見上げる。ハルタチもこればかりは何ともなあ、という表情で軽くかぶりを振った。

「魔具は持っているだろう。その御仁の指輪のようなもんだ、お姉ちゃんなら順当に言えば杖かのう。それなら、ステラを詠唱した時より多少精度は下がるが、できないわけではない。魔具を対象となる素材に触れさせ、頭の中で呪を紡ぐが良い」

ふむふむ、と一応シバはメモを取った。帰って実践すること、と書き加えているので、一応のやる気はあると見える。

確かに、シバの回復薬は四人の生命線なのは間違いない。

「そっかそっか。サンキューな、魔道師のばあさん。助かったわ。またなんかあったら来るなー」

ほいよ、と魔道師のNPCはこくりと頷き、お定まりとなった魔道師の祈りの文句を唱えた。

「世を巡る魔道の使徒よ、道行きに祝福を」

シバが軽く手を振り、ハルタチとともに歩き出す。

「うし、調薬関連は解決、と。あとは戦闘だな。それじゃあ、武器屋か鍛冶屋か?魔器が今んところ一番現実的な気がするが」

うんうん、とシバもうなずく。

『鍛冶屋ってレンタル工房にいるんだよね。じゃあまず武器屋回って、帰りしなに聞く方向で』

道の端に寄って立ち止まったシバがウィンドウにそう書いたのを見て、なるほどな、とハルタチも頷いた。

「そうすっか。そのほうが時間の無駄も少ないな」

そう言ってハルタチは町のマップを見て、自分の現在位置と武器屋の所在を確認する。

意外と近かったらしく、何だ、すぐそこじゃん、などとハルタチは小さく呟いた。

大通りをもう少し歩き、右手に曲がるとそこには確かに武器屋があった。

無愛想な店主が店の前で武器の手入れをしている。おっかなびっくりハルタチが近づいていくと、ふと店主は顔を上げてまじまじとその二人連れを見た。

「なんだ、鬼精に半妖精じゃねえか。お前ら此処に来たって見るもんないだろ」

ふるふる、とシバがかぶりを振る。

『魔器関連で、聞きたいことがあって』

「あー、なるほどなあ。嬢ちゃんのか」

魔器、という言葉から一瞬でそう判断した店主がしたり顔で頷いた。さすが武器屋である。

「当たり前だけど、俺の店じゃ扱ってねえぞ。ここはあくまで中継都市で、駆け出しのための道具しか揃えちゃいねぇから」

やはりそうか。がくりとシバが項垂れる。

「でもまあ、武器職人かなんか、そういうやつが知り合いにいたらどうにかなるんじゃねえか。要は魔力伝導率の高い素材と、核があれば、凄腕が作らなくてもどうにかなるって話は聞いたことがあるからな。前そんなことを工房貸の鍛冶屋が言ってたぞ」

すると、ハルタチとシバの頭上にポーン、と言う電子音が響いた。


――クエスト 魔器についての調査

  →魔力伝導率の高い素材と、核となり得る素材を調べよ

   報酬:魔器作成特殊工程用アイテム


思わず二人で顔を見合わせる。

またしても成り行きでクエストを発生させてしまった。最近こんなのばっかりな気がする。

「まさかと思うけど、これって自分で調べようと思わなきゃ気付かない‥‥‥よな?」

うんうん、とシバも頷く。シバの様に必要に駆られて、と言う状況が起きなければ、中々魔器について知る機会はなかったに違いない。

攻略本、攻略サイト、という存在が当たり前になっていた己を垣間見る。

「そうだなー。ま、知ろうとするっつーのは大事なことだろ」

武器屋店主がからからと笑って見せた。

「これからも知りたいことがあったらどんどん聞いてくれぃ。わかる範囲でなら答えてやろう」

「ういっす。ありがとーな」

軽い調子でハルタチが応じると、おうよ、とまたしても豪快に店主が答えた。

そうして実のある情報を得た二人はエトとスピネルの待つレンタル工房へと戻っていく。

シバの足は弾み、どうにかなるかもしれないという期待に若干はしゃいでいるようにも見えた。

『でも私、チャットウィンドウが一番大きな収穫のような気がするの』

「確かに」

その点に関しては、ハルタチも深く賛同した。



攻略本、攻略サイトがそれほど浸透していなかったころ、人はどのようにしてゲームの全てのイベントを出していたのでしょうか。

地道な努力に感服します。


そして私は忘れません、0%が表示だけで実際の確率は0%ではない、というあの伝説の「気が遠くなるほど低い確率だがゼロではない」というフレーズを。

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