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スキマ産業奮闘記―In The Cradle  作者: 狩山 宿
Ⅰ. 揺籠と社会人
4/63

Act 4

ようやくキャラメイクです。




紡は言葉もなくその状態に感動していた。まるで夢の中で幽体離脱をしているような、という感覚を抱いたままでそこにいる。

目の前には自分と全く同じ容姿の、同じ体格の人間の素体があった。簡素なTシャツとジーンズ姿で目を瞑った自分が立ち尽くしている。

すると、突然その素体の頭上に四角いウィンドウが立ち上がった。

『キャラデータ作成テストを始めます。 Q1 新しいことが好きか Yes or No』

えーっと。どういうことだろう。心理テストか?

まぁこれもキャラメイクの一環なのだろう。最後にお勧めの種族、とかが出てくるのに違いない。

多少逡巡しながらも、紡は至極あっさりとそのように結論付けた。

となればこの質問には素直に応じていくべきなんだろう。

新しいものは当然好きだ。大好きだ。

そのように考えると、ポーンという電子音が出て質問が切り替わる。

家にいるのが好きか、外に出るのが好きか。――ええと、家の中、かな。

夢中になれる趣味はあるか。――あるな。

多人数で何かをするのが好きか。――そうでもないかな。

争いに首を突っ込んでしまう方か。――突っ込みたくないけど巻き込まれるよなあ。

困っている人を見ると放り出せないか。――あんまり放り出せはしないなあ。

力仕事と頭脳労働どちらが苦手か。――苦手な方‥‥‥考えるほうが得意じゃないかも。

動物は好きか。――基本的に好き。

すっぱいものが好きか。――全然ダメ。

将来のビジョンを持っているか――社会人に今更それを聞いてくるのか‥‥‥

新たな質問が出るたびに紡は二択で答えを探す。答えやすいものも答えにくいものもある。

何だってこんなもの、と思わずにいられないものまであった。

そうやって数えきれないほど多くの質問に答えていくうちに、ピポーン、という高い電子音が鳴り響き、ウィンドウの文字が書き換わった。

『お疲れさまでした。これで質問は終了させていただきます。

これらの質問への回答はゲーム中であなたが取得できるISに関係いたしますのでご留意ください』

なるほど、そうきたか。性格診断的な要素までゲームに関わるんなら、誰一人として同じスキル構成にはならないだろうな。

看板に偽りなしだなあ、と紡は一人感心した。

『それでは能力値の設定をしてください』

素体の横に新たに縦長に伸びたウィンドウが現れた。


Str 10

Dex 10

Int 10

Vit 10

Agi 10

Luc 10

残りpoint 20


これが能力値設定の画面のようだ。それぞれのステータスの基礎ポイントが10、自由振り分けポイントが20ある。

紡はとりあえずDexに10ポイントを振った。何かを作るならとりあえず必須だろう。

でも戦えないというのも困る。となればStrも忘れてはならない。これにも5ポイントを振った。

さて残り5ポイントだが‥‥‥どうしたものか。

紡は軽く腕組みをして唸ると、えいっとばかりにLucに残りを振った。

運がよければ何とかなる。そんな気がしたからだ。

『これでよろしいですか? Yes or No』

これでいい、と考えると、ポーン、という音とともに能力値設定用のウィンドウが消え、素体が目を開いた。

『では、外観設定に移ります。種族選択も外観に入りますが、先ほど設定された能力値を伸ばしやすい種族をおすすめさせていただきます。その他はご自由にお選びください』


推奨される種族:ライカ・ヒュー(獣人系統)

伸びやすい能力:Str、Dex(中上昇)


どうやらライカ・ヒューを選択すれば力と器用さが伸びやすくなるらしい。

中上昇とは言え二種類伸びるのなら否やはない。

じゃぁこれだ、と紡が考えると、目の前の素体の姿が見る見るうちに変化していった。

思わず紡は目を見張る。顔の横についていた耳は鋭角に尖り、少し上方に遷移して犬のようなそれになる。そして腰のあたりからは細く長い尾が生えていたのだ。

獣耳に尻尾だと‥‥‥なんという破壊力。

とはいえいまだに素体は自分の姿のままなので違和感がある。若干直視しがたい、とも思う。

紡はすぐさまそのほかの設定に取り掛かった。あんまり長く獣耳の自分のと向き合っていると無意味に笑ってしまいかねない。

ええと、そうだ、髪の色を変えてみよう。茶系統もいいけど‥‥‥せっかくだしもっと明るくして、長さも今より少し長めがいいかな。

って、髪の色と連動して尻尾の色も変わるのか。そうか、そうだよね。

どうせなら尻尾はふっさふさのふわっふわがいい。それだ。

目の色は髪の明るさに合う色にして‥‥‥肌の色はいじらなくてよさそう。身長と体格もいじらないほうがいいのかな。気持ち鼻を高くしよう。こんな時くらい見栄を張りたい。

紡が延々と孤軍奮闘し始めてどれほどたっただろうか、それはなんとか形になった。

目の前の素体ははちみつ色の髪を肩口まで伸ばし、顔の横からは三角形の耳が少し覗いていた。

尾はふさふさとして大きいものになり、全体のイメージはまさにキツネのようだ。

目の色はアクアマリンと同じような透明度の高い水色にした。

それ以外の部分はあまりいじらなかった。多少顔立ちを変えた程度である。

本当はもう少し身長を高くしたかったのだが、その辺りはバランスを変えるとゲーム内であまりうまく動けなくなりそうだったのでやめたのだった。

『これでよろしいですか?Yes or No』

これでいい、と考えるとまたしてもポーン、という電子音が鳴った。

『それではお名前を入力してください』

ゲーム内の名前か。紡はしばらく考え込んだが、結局いつも自分が使っているハンドルネームを使うことにした。

――スピネル。

紡の直訳である。本人としては非常にわかりやすく、長年使っている名称だ。

『名称が短すぎます。ファミリーネームもご入力ください』

おっと、名字も必要なのか。

ええと、高庭だから‥‥‥何になるんだ‥‥‥

『お名前は ”スピネル・ヤーディク” でよろしいですか? Yes or No』

オッケー。これで完成だ。

『お疲れさまでした、これでデータ作成を終了いたします。完全に目の前が暗くなりましたら、ヘッドギアを取り外してください』

目の前の素体、否、自分のアバターが微笑んで手を振り、すうっと消える。

そのうち藍色の空間がゆっくりと暗くなり、そして暗幕に閉ざされたように真っ暗になっていった。


「お疲れさまでした」

ふー、っと息を吐きながらヘッドギアを取り外すと、オペレーターがそう声をかけた。

「はい、これキャラデータが入ったメモリースティックです。午後はこれを持って第3研修室に行ってくださいね」

はい、と紡は頷いた。そしてもう一度大きく息をついた。

「いやー、それにしてもすごかったです」

紡が思わずそういうと、オペレーターは得たりと言わんばかりの表情で頷いた。

「すごいですよね、あれ。気に入っていただけたみたいで何よりです。――ところで、もうそろそろ昼食時間になりますよ。みなさん先に終わられたようなので食堂に行ってるんじゃないですかね」

そういわれて紡ははっと時計を見た。本当だ、午前中がもう終ろうとしている。

慌てて頭を下げる。

「ありがとうございました」

「はい、また午後に」

そうして紡は慌てて立ち上がり、軽く走るようにしながら食堂へと向かっていった。

いまだに夢の中にいるような、ぼんやりと陶酔した気分だった。

これからどうなるだろう。楽しみだ。そう考える紡の口の端は無意識のうちに半月の形を描いていた。




スピネル・ヤーディク

紡ぐの英訳がスピネルで、庭の英訳ヤードからヤーディクです。

紡さんは最初ファミリーネームをハイヤードにしようかと思いましたが、ハイヤー!という馬をけしかける声が浮かんでやめたという隠れエピソードが。

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