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スキマ産業奮闘記―In The Cradle  作者: 狩山 宿
Ⅰ. 揺籠と社会人
3/63

Act 3


そうやって楽しみにしているとなかなか時間が進まない、などということはなく、日々の雑事に忙殺されているうちにさっさとその日はやってきた。

宿泊用の物はカバンに詰め込んだし、忘れている用事はない。

普段の出勤より1時間早い集合時間に、紡はきっちりとあくびをかみ殺しながら到着していた。ついでに言うなら、さらにそれより20分も早く。

心は弾んでいる。多少体に残る気だるさも今は気にならない。

横で紡より若干早く来ていた野宮もはやる心を抑えきれないらしく、楽しみだという感情を全開に出した笑顔で紡に話しかけていた。

「こういう仕事ならどんだけ来てもいいなぁ。高庭さんはどんなキャラメイクにするか考えてきた?」

「はいー」

紡の頭の中にはもうある程度の設定が出来ていた。それなりに考えて納得のいくものにまとまった、と思っている。

「物作るのが好きなんで、やっぱりそういうのをしたいな、と」

「そうか、いいねぇ。そうかそうか」

うんうんと頷く野宮に、紡は素直な気持ちで問いかける。

「じゃぁ野宮さんはどんなことしてみたいんですか?」

「そうだなー。んー。――俺はこう、後ろから高笑いをしつつ司令塔のように指示を出して走らせた仲間ごと蹴散らしていくようなことをしたいな!」

「……仲間ごと?」

「仲間ごと!」

満面の笑みだった。

紡は頭を振って、これはスルーしよう、聞かなかったことにしようとそっと胸中でつぶやいた。

「おはよー」

「おはよー」

小柴が来た。若干眠そうに眼をこすりつつ、それでも多少上機嫌である。

「眠れなかったわけじゃないけど、やっぱりちょっと早起きしちゃったな」

照れ笑いをして見せる小柴は、そう言いながら小動物を思わせる可愛らしい仕草で紡の脇腹をつついた。

「ふぎょう!」

不覚にも不思議な声を上げてしまう紡。

「良いよね女の子のこういう様子」

「ドSがいる‥‥‥」

小柴は嬉しそうに紡の隙を無言で伺っている。その指の不気味な動きから目が離せない。本当に、一癖もふた癖もある先輩方だ。誰一人として「普通の」という冠詞を付けようがない。

野宮はまず自重しないドSだし、小柴も油断するとこれだ。沢崎は飄々としているくせに時々爆弾を飛ばしてくるから油断ならない。

そんなことを考えていると、いつの間にか良い勢いで構内に大きなバンが進入していた。ウィンドウが開けられ、運転者である沢崎が手を振って三人を呼んでいる。

野宮はひゅー、と口笛を吹いた。

「さすが。準備いいよねぇ」

別に会社から研修所は徒歩でも行けないことはない距離である。

ただ、大荷物が邪魔くさいだろうと思った沢崎が見事に気を回していたのだ。

これまでの付き合いから三人は、何となく彼ならこうしそうだ、と予想していたのだった。

なので、誰一人として戸惑うことなく各々が大荷物を抱え上げ、バンに駆け寄る。

「お待たせ。いこっか」

「おー!」

荷台部分に荷物を載せ終え、各自その身を車に押し込んだのを確認すると、陽気なバンは研修所に向かって発進していった。



受付と荷物の搬入を済ませた四人は、待合所のようなところに座って適当に会話をしていた。

「一般の人と同じ条件なわけだよね。ここでテスターする人もいるし、別会場の人もいるんだっけ」

沢崎が首をひねりながら確認する。

「確かそうだったはずですね。一般の方は事前にキャラデータを作ってあるから午後から受付だそうです。人数結構集めたみたいだし、3か所くらいでやるとか」

小柴が、そういう風に私は聞きましたねえ、と締める。

紡はふむふむ、とうなずく。じゃあ今日の午前中はキャラメイクで終わるのか、なんて時間がかかるんだろう――そんなふうに考えながら。

「なっがいな」

「うんー」

そうしているうちに、いつしか時計の針がいい具合に定刻に近づいてきたので、四人は研修室へと歩を進めることにした。

野宮が扉を開けると、そこには4台の大型コンピューターのようなものが設置されていた。しかもそれぞれの機械には専属のオペレーターがついている。

それらに圧倒されている紡は自分のすぐ横で、わお、と小さく沢崎が呟いたのを聞いた。

「お疲れ様です」

一番左端に座っている男性オペレーターが立ち上がり、挨拶をした。

「あ、お疲れ様です。今日はよろしくお願いします」

沢崎に続き、三人もよろしくお願いします、と頭を下げる。

「こちらこそ。私たちは開発部門の第2チームです。今からそれぞれそこの席にお座りいただきまして、データの採取と簡単なテストを行わせていただきます」

「テスト?」

首をひねる紡にオペレーターは心配しなくて大丈夫です、と笑いかけた。

「基礎的な身体機能のテストになりますので。リラックスしてください」

それでは各自お座りください、と促され、紡も手近にあった一台に腰かけた。

「右手に置いてあるバンドを頭に巻いてください」

はい、と頷き、マジックテープ式になっているそれを微調整しながら固定していく。

「では今から端子を付けますので、そのままで」

すると紡の前に座っていたオペレーターが失礼します、という声とともに細いコードをいくつも紡の体につけ始めた。

「あ、目も閉じてくださいね」

優しげなその声に従い、紡は瞼の裏の柔らかな闇に意識を投じた。

「それでは、今からデータを採取します。しばらく動かないでくださいねー」

すると、紡の全身に一時にむず痒い電流が流れたような衝撃が走った。

うっ、という息を飲み込んで耐える。

「はい、いいですよー」

はぁ、と意外と深いため息が漏れた。何とも言えず不快だが、しかしこれで基礎データが取れるのは大したものである。

「はい、ありがとうございます、これでデータ採取はオッケーです。ではそのまま右手を上にあげて」

言われた通り紡は右手を掲げる。それから次々とオペレーターの指示に従って首を動かしたり眼を動かしたり、せわしなく動いた。

「――はい、これでテストも終わりです」

「あれ、これがテストだったんですか?」

何をされているのだろう、とは思っていたのだが、これがテストだったとは。

「ええ。もういいですよ。反射神経とか身体機能を同調させるテストでしたので」

何処か狐につままれたような顔をしていたのだろう、紡を見てオペレーターはちょっと面白そうなものを見るようないたずらっぽい表情を浮かべた。

「皆さんそんな感じです。テストって言葉は、いつまでもみなさん身構えるようですねえ」

そういわれては苦笑するしかない。身構えて本来とはかけ離れたデータを取るのはまずい、ということからこうした方法を取るのかもしれない。

「ではキャラデータ作成に移っていただきますので、コードを外してヘッドギアを装着してください。」

紡は右手に置かれているフルフェイスヘルメットを彷彿とさせるようなそれを手に取る。

予想に反して意外とそれは軽かった。

頭に装着すると、目の前が塗り潰されたような黒色になる。

「頭部右手の起動ボタンを押してください」

カチリ、という軽い音。

するとそれをきっかけに見る見るうちに視界に奥行きが生まれ――いや。

自分の意識が藍色の暗い空間に投げ出されていた。






野宮は大体人が困惑する姿を見るのが好きな人です。

でも根の部分は優しいので本当に困っているときはふざけません。

小柴は意外とお茶目です。

なんだかんだで後輩をかわいがっています。

沢崎は諦めと受容の人です。ていのいいツッコミ要因なのかもしれません。

紡の周りはみんないい先輩ですね。


一応そんなこんなで紡さん中心に視点が動くことは多いんですが、主人公か?と言われると微妙です。

そんな立ち位置。不憫。

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