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スキマ産業奮闘記―In The Cradle  作者: 狩山 宿
Ⅰ. 揺籠と社会人
25/63

Act 25



「とはいえ、だ。私たちはどーせ五体満足でここから出られるわけでもないでしょう」

「まあ、な」

ハルタチが頷く。遅かれ早かれ、待っている道は全滅だ。

「やんなっちゃうなあ」

シバが少し苦しそうに言葉を放り投げた。

ルインラクナルの群れもずいぶんと減った。このままいけばうまい事群れを駆逐することは可能だろう。

だがMPはいつか枯渇する。滋養丸も平癒丸も有限だ。

その時に、また新たに沸いたモンスターが群れをなして迫ってきたら。

それを退けても、また新たな群れが迫ってきたら。

「考え込んじゃだめだ。今はこいつらをさっさと片付けて休憩に入ることを考えよう」

ぶるっと一回エトは頭を強く振り、突撃するルインラクナルを連撃蹴という二連続攻撃の蹴り技と掌底で叩きのめす。

この無茶な連戦によって、不本意ながらも全員の熟練度はずいぶん上がったと見える。

「ウォートブレイク!」

どうやらシバもウォートブロウの上位に当たる中級魔法を覚えたようだ。

一体を吹き飛ばしただけでは飽き足らない猛烈な水の塊が、目標になったルインラクナルの軌道上の三体ほどを巻き添えにして通路奥へと引き返させる。

ハルタチもいっそ通路であることを利用してしまえとでも思ったのか、これまでずっと引いていたのが、おもむろにひょいひょいと前に飛び出てきて、こともなげに右手を突き出す。

「さて。熱風、満たせ!‥‥‥ファイアストーム!」

ごう、と圧倒的な熱量が渦巻き、通路全てを埋めるかのようにそれはのたうち回り――それが引いた後にはひどく焼け焦げたルインラクナルが6匹あまり残るだけという、ものの見事な惨状がそこには展開されていた。

「お前の攻撃魔法は、ちゃんと当たれば規格外だよな」

「おう、もっと褒めてくれ」

「褒めてねーぞそれ」

確かに、ファイアストームはごくありふれた火系統の中級魔法だ。

が、その威力は確かに同じ魔法使いであるシバと比べても桁違いである。

本来ならば複数に細かいダメージを狙い澄まして与えるファイアバルテと、一体に強烈なダメージを与える用途で使うファイアストームというように用途が分かれるものなのだが、ハルタチにかかればどちらも無差別攻撃に変わってしまう不思議である。

「よし、あとは私が」

そういってぐるりと腕を回し、後始末にスピネルが駆け出すが、数歩ほど走ったところでスピネルはぴたりと止まってしまった。

そしてその後ろでその様子を見守っていた三人もまた硬直してしまっていた。

動きの鈍くなっているルインラクナルたちが悲鳴を上げる。

地面が割れて、あれは何だろうか。土色をした紐のようなものが次々とルインラクナルをとらえ、絞め殺していく。

「あれは」

「植物よ。でも、なんで」

ささやくように、慄くように、シバが言う。

そうしてすべてのルインラクナルが光子となって散り、そのまま辺りを睥睨するようにうねる謎の植物も、再び地面の裂け目に消えていった。

何故。

一体何が。

理解できない現象の中、最も早く行動したのはスピネルだった。

おもわず、といった様子で勢いよく振り返ったスピネルは、微かに怖れをにじませたような声で問いかける。

「まさか」

其処にいるのは自分たちの他には、間違いなく一人。

瓦礫の下にいた。虫の息だった。まだ子供だった。

だから、スピネルが思わず助けてしまった。

「――まさか。君、なの?」

地面に手をつき、落ち着いた様子でそこに座っている、聡明そうな子供。

先ほどより随分と具合がよくなったらしい彼は、その言葉を聞き、僅かに口の端を緩めてこくりとゆっくり頷いた。


「よく、なりまシた。ありがとうございまス」

若干発音がおかしいが、彼は子供特有の済んだ高い声でそう言い、頭を下げた。

誰もがあっけにとられ、思わず互いに顔を見合わせる。

「わかりまス。ボク、怪シいでス。似てる、ツチコビトに」

ツチコビト。おそらく土小人、と表記するのだろうそれはおそらくアースゴブリンを指すのに違いない。

「君は、誰だい」

エトが淡々としながらも、気を遣ったのか何処か穏やかな調子で話しかける。

ひょいとフットワーク軽くしゃがみこみ、目線を合わせるのも忘れない。

「ボク、グレナクレイ。イセキビト、司祭でス」

「君の名前は、グレナクレイ。で、イセキビト、っていうのは‥‥‥遺跡人かな?ルインホビットのこと?」

そうです、とグレナクレイと名乗った子供は嬉しそうに肯定を表した。

すると、その瞬間、彼を指す名称が変化した。



グレナクレイ(イベントNPC)

種族名:ルインホビット 特殊称号:司祭



イベントNPC。まさかの特殊NPCに全員驚きを隠せない。

思わず顔を見合わせ、どんな反応をしたものか、と戸惑う。

とどめを刺さなくてよかったなあ、と若干気まずそうにハルタチが頭を掻くのが、なんとも言えないアンニュイさを醸し出す。

「普通、遺跡人は臆病。逃げル、出てこない。殺サれる。話スルことできない。ボク、ここ、管理者。たまに魔素の天秤、整えルの。だから、怖いケド、出てきた。でも、早くテ、巻き込まれたよ」

む、とエトが困ったように言葉を詰まらせた。

‥‥‥これは解読が随分と難しそうだ。



グレナクレイ君ですが、彼は「人」ではないです。

人と言えるのは、当初書いた四種類の系統の存在のみ。

知性はあって、独自の言語と文化を持って、でも人ではない者もゲーム内にはたくさん存在しているのです。

ホビット種の他にもいろいろあるのですが、それらもそのうちでてきます。


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