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スキマ産業奮闘記―In The Cradle  作者: 狩山 宿
Ⅰ. 揺籠と社会人
23/63

Act 23


足元はずいぶん悪くなっていたが、全く進めないということはない。

道の中央に大きな岩が転がっていることもざらにあり、皆、早くここから出なくては、と言う思いをますます募らせていく。

しかしその思いとは裏腹に、その先は残念ながら行き止まりであった。出口へ続く道ではなかったようである。

仕方なく引き返していくが――行けども行けども、其処此処で傷ついたモンスターたちが混乱して走り回っており、それと出くわすたびに何度も戦闘となる。はっきり言ってまともな状態ではない。当然こちら側の消耗も激しくなる。

ふらふらになったケイブバット、岩が突き刺さったロックスライム、そんなものがどこからあふれ出してきたのか、と言わんばかりの数で出てくるのだ。

「くそ。こんな命がけのレベル上げなんて御免こうむりたいねっ」

「ウォートピアス!!――生きて帰るのは、難しいかなあ」

ハルタチだってまだ本調子ではない。

故に魔法攻撃面ではシバが一生懸命カバーしているのだが、それもいつまでもつか。

いつしか四人も周囲のモンスターと同じように走り始めていた。

立ち止まっていたり下手に歩いていたりする方が、結果的にエンカウント率が高くなり、余計な戦闘が増えていく。

流れるように道を阻むものを打ち倒し、殴り飛ばし、そして幾度も行き止まりにぶつかる。

元は奥に通じているのだろう通路の途中で崩れ、行き止まりになっているものも多い。

このままではいたずらに疲れていくだけかもしれない、正しい道を見つけることなどできないかもしれない、誰もがそう思い始めていた。

「どうすればいい‥‥‥」

エトが力なく言葉を吐いた。

行き止まりになった崩れた壁を背にして、ゆっくりとエトは座り込んだ。

周囲は敵の気配も薄い。魔素も薄くなっている場所らしく、あたりは薄ぼんやりとしており、周囲の様子も伺い知れない。

ようやく一息つけた、と言う安心もあったが、八方ふさがりな現状に溜息を抑えることができない。

「はっきり言っていいか。実のところ、僕はもう、まったく出口がわからない」

どちらがもともと奥だったのかもわからない、と言ってエトは項垂れた。

「どうしようもない。完全に迷ってる」

ハルタチもその場に腰を下ろし、緩く首を振った。

「今まで見てきた道はすべて行き止まりだった。その他にまだ道はあるのかもしれないが、それがうまい具合に開通してて、しかも出口である可能性は低いと見積もっていい。恐らく今、俺たちは出口から切り離され、閉じ込められているんだろうし、挙句の果てに迷子なんだ‥‥‥それが事実だ」

ぎり、と歯をを噛みしめる音が鳴った。

「今何ができるか考えるしかない」

冷たい声音だった。感情を極限まで抑えて震え、鋭く尖ったその言葉は皆の胸に刺さった。

「運のいいことに、私たちは真の意味で死ぬことはない。けど、死の恐怖がなくなるわけじゃない」

ぽつ、とこぼすようにシバが言う。重苦しい沈黙。

その時、スピネルがふと通路の奥から転がるように飛び込んできたロックスライムを何の予備動作もなく叩きつぶした。

そうやってふと見えたスピネルの横顔はひどく表情が薄くなっていて、振り払いようのない疲労と憔悴が伺える。

無慈悲な鉄槌の下、ロックスライムが消え去った後も、呆然としたスピネルだけがその場に立ち尽している。

最早何かを話すことすら億劫そうな彼女は、そこに立ったままふと目を伏せると――突然、ぺたりと空気の抜けた人形のようにその場にへたり込んでしまった。

頭から突き出た耳もへにゃりと折れている。微かに体も震えているようだ。

「おい‥‥‥」

エトが立ち上がり、ためらいがちに問いかける。

「どうした」

「‥‥‥すみません。私、‥‥‥その、狭くて暗いところ、あまり得意ではなくて。

今まで、大丈夫だったんですけど。なんか気が抜けちゃった‥‥‥」

ああそうか、とシバは苦い思いで唇をかみしめた。

紡は閉暗所が苦手なのだ。

どのぐらい苦手かと言うと、彼女はまず倉庫や資料室に一人で入ることが出来ない。電気がついていれば多少緩和されるものの、薄暗く閉じられた場所だと過呼吸さえ起こしてしまうときがある。

人がいて、会話をして、今までは気が紛れていたのだろうが、魔素が抜けて暗くなり、実際に閉じ込められ、走り続けてパニックにもなれば、具合が悪くなるのもうなずけた。

「いよいよ動けない、か?」

半ば笑い含みにハルタチが肩を竦める。

「しかたねーな。潔く力尽きるまで戦い続けて、帰るしかねーか」

よいしょ、という掛け声をかけてハルタチが立ち上がる。

そんな、ゆったりと気の抜けたような動きとは裏腹に、ハルタチの双眸は深い蒼に炯々と燃えていた。

「休ませてやらねえって言ってるやつらもいるみたいだし」

低い囁きにシバもびくりと反応し、通路の先に目を凝らす。

逃げ場を失い混乱したルインラクナルの群れが、まるで一面の絨毯のようになってこちらへ向かってきていた。

「あ、はッ」

ひきつった笑顔を浮かべながらシバも杖を構え直し、エトも動けないスピネルを気にしながら拳を構える。

「さて、消耗戦の始まりだ」

エトが諦めを滲ませ、そう言い捨てて――そして、獣の群れの中を掻き回す旋風となった。



今日は気分が乗ったので、2話投稿します。

紡さんはエレベーターなども一人で乗るのがあまり好きではありません。

なので階段を駆け回って移動するのですが、年々落ちていく体力に危機感を覚えているのだとか、そうでないとか。


本作の展開がシリアスで割と重い分、あとがきの補足はいい加減な雰囲気で行こうと思っています。

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