Act 22
地震に似た描写があります。
気になる、と言う方は今回その点ご留意くだされば幸いです。
ようやく出口を目指して出発しようか、となったとき、ふとシバが、
「そういえば思ったんだけど、ウォートを出力調整できれば水が出来るかも」
というまさかのコペルニクス的発案をした。
それを聞くや否やハルタチの顔が輝き、頼む、早く何とかしてくれ、と言う懇願を前面に出してシバを見やる。
当然、器用なシバのことだ、ウォートの調整もすぐにものにして、飲料水を作り出すことが出来るようになった。が、しかし。
「コップも水筒もない‥‥‥よね」
「ですねー」
スピネルはあちゃー、と言う顔で答えた。
そして、エトが重々しく宣言する。
「致し方ない。直飲みだ」
ひっ、とハルタチが一瞬息をのんだ。
「絶対威力強めて放ってくるだろ!?やめろよ!絶対やめろよ!!」
「だーいじょうぶ大丈夫だって。私を信じてー」
阿鼻叫喚の大騒ぎの中、それでも無事水を摂取し口の中をリフレッシュさせたハルタチだったが、やはり精神的疲労によりそこそこ消耗してしまったようである。
とにもかくにも、完全に気力充実、とは言い難いもののそれなりに落ち着いた一行は襲い来るモンスターの群れを確実に片づけながら出口へと向かう。
大規模な集団がやってくると突然思いもしないところからアースゴブリンの放つ『アースブラスト』――ようは凶悪な石つぶてが降り注いできたりなどもするが、皆、何度も戦闘するうちに身の庇い方や避け方もうまくなっていくものである。
最終的には風魔法の熟練度が上がってシバが新たに覚えた防御魔法、『ウィンデコート』でそれらの威力を弱めることによってほぼ無効化できるようにもなり、前衛は魔法を気にすることなく暴れまわることが出来るようになっていた。
アースゴブリンやロックスライムは晶石を落とすこともあるが、たまに鼓石という変わったアイテムを落とすことがある。
軽く叩くとコォン、という澄んだ大きな音を響かせるその薄黄緑の結晶体は、防具に使うと魔法抵抗を高める効果があるらしい。
その他にも新アイテムを大量に収穫し、またしても次の装備にグレードアップできる算段がたてられそうである。
「次の道って右だっけ、左だっけ」
「えっと、確か迷った時は行きの場合右でしたよね。じゃあ帰りは左の方選んで帰ればいいんじゃないですかね?」
そうだな、などとエトも呑気に返事をしている。
実際そこまで複雑なマップではないので、間違ってもすぐに修正がきくのだ。
マップ関連のスキルがなくても、今回は幸い問題は起きそうにない。
しばらく歩いて周囲を見渡す。時々ばったりと出くわすケイブバットに驚かされながらも、四人は順調に進んでいた。
ところがそうして歩いていると、おや、と突然ハルタチが眉をひそめた。
「なんか、壁がちかちかしてるぞ」
え、などとスピネルが間の抜けた声を上げる。
確かに、何となく壁の表面に集積している魔素が明滅しているようだ。先ほどまではまったくそんなことに気付かなかったのだが。
「本当だ。なんだろうね、気持ち悪いねえ」
シバも所在なさ気にそんなことを言う。
「それよりなんとなく額が熱いのは何なんだろう」
「俺も。っていうか多分そっちの方が先だったわ。魔力切れと混ざっててわからんかった」
エトとハルタチが己の角の生え際のあたりを撫でさすっている。
一体どういうことなのだろうか。
「これは、ちとヤバい感じがする」
なんとも言えず不穏な様に、皆不安を隠せない。
「一体、どういう、」
スピネルの声はそこで途切れた、否、無理矢理途切れさせられたのだ。
初めはそれがただの轟音だと思った。
次にそれが過ちであったと知ったのは、壁面の岩が崩れだし、自分たちが立っていられなくなったから。
とっさに頭を庇って地面に俯せても、脈動する地面には明確に死の予感が見えて恐怖はさらに募っていく。
「地震か!?」
エトが叫ぶ。グオン、と獣の悲痛な叫びがどこからともなく反響して聞こえる。
「違う!」
ハルタチがきっぱりと断言した。音は断続的に小さくなり、やがてそれは緩やかに収束する。
周囲は先ほどより格段に暗くなっているものの、相手の顔が見えないというほどではない。
土ぼこりが舞う中でようやく、咳き込みながらもそれぞれはゆっくりと立ち上がった。
「魔素が、抜けたんだな。しかし、ここまでゲームでやるかよお」
ハルタチが情けなさそうに周囲の壁を触りながら具合を確認している。
つまり、シエンダ洞穴内に溜まった大地の魔素が、何らかのはずみで一気に吐き出された故に若干の衝撃が発生したのだという。
仕組み的にいえばプレート型地震と似たようなもので、元に戻ろうとするときの衝撃で起きた局地的な揺れ、らしい。これらすべてハルタチ談なのだが。
「なんでそんなことわかるのよ」
「あー。俺、ノスタ・フェアルじゃん。ノスタ系ってわりと大地系統に親和性あるみたいなんだよ。んで魔法使えるから、今ここにある魔素の状態をよく読めば現状何が起きてこうなったか、なんとなくわかるわけで。‥‥‥でも、起きるまではわからんかったし、みんなにも伝えられんかった。不覚だ」
ハルタチはしゅんとなって座り込んだ。
「まあまあ。誰のせいでもないだろ」
「ですよー。それなら奥まで行ってみようとか私が言わなければここまで長居もしなかったでしょうし‥‥‥」
スピネルも軽くうなだれる。
「てかノスタ系なら僕も察しろよってことだしな。実際角辺りが気持ち悪いのはわかってたわけだし」
「そもそも私なんて何もわかってなかったわよー。仕方ない、仕方ない」
パタパタと土ぼこりを払ってシバがぴょんと立ち上がる。
「道、どうなっちゃったかなー。帰れるんだろうか」
そう、現在の最大の不安材料はまさしくそれだ。
運よく自分たちの周りが崩れることはなかったとはいえ、帰り道が塞がれていない保証はない。
その上今回の揺れで完全に方向感覚が吹き飛んでしまった。
「こういう時は単独で行動すると危ない。とりあえず誰とも離れないように心がけよう」
「了解」
エトの先導で、再び四人は歩きだす。




