Act 21
しばらくたって落ち着いた頃、ドロップ品の存在を思い出したシバが辺りを歩き回り、一つ一つ鑑定しながら仕舞い込みはじめた。
大量に手に入ったのは岩巨人の装甲だ。それから大地の魔素の結晶もいくつか。
「おや?」
シバがぴたりと足を止めて、岩巨人の装甲の下に埋もれていた丸いものを取り上げる。
ゴーレムの双眼
ぱたぱたと砂埃をはたいてそれを見詰めるにつけ、シバは驚きに目を丸くしていった。
「レアアイテムだ!」
「本当ですか!?」
やったねえ、といいながら大切なものを扱うかのごとくシバはそれをインベントリにしまいこんだ。
「いやあ、これだけでもここまで来たかいがあったってものよ」
そしてうきうきとした様子でシバは最後に残されていた金属板に手を伸ばす。
「さて、これはなんだろな?」
文明の欠片(特殊アイテム)
「ふむ。シナリオ系アイテムかね?」
首を捻りながら、それ以上の情報をひねり出せないのを知ると、シバどこか釈然としないような顔をしながらもしぶしぶそれを片付けた。
収穫はどうやらこれで以上のようだ。本当に何も取りこぼしがないかどうかを確認して、さあて、とシバはぐるりと皆を見渡す。
「まずハルタチさんは動けるかな?」
視線が未だ座り込むハルタチに集中する。
決まりの悪そうな顔でハルタチは頭を掻き、微妙だ、と呟いた。
「あれのお蔭で大分楽に終わったは終わったけどさー。無茶しないでよー」
シバの眉も心配そうにひそめられている。
「んー。でも同じスキル使ったけど最初の時よかマシ。シバの指輪のお蔭だよ、これで魔力調節ができるようになったんだ」
ひらりと右手を振ってみせるハルタチに、シバの顔が少し紅潮し、黙り込む。
「もうちょっとしたら歩けるようにはなるから」
それを聞いたエトがそれなら、と提案した。
「じゃあ皆、少しここで休憩してから行こうか?」
「ですね。平癒丸は節約したほうがいいですもんね」
「ああ、そういうことだ。限りある資源は大切にしなければ――ただしハルタチ、お前は滋養丸をむせるほど食っとけ」
「何だってー!?」
あんまり無茶して心配させるな、とエトは苦笑してハルタチを見やった。
ハルタチはそれを受けてまいったなあ、とぶつぶつ言いながらも、おとなしく新たに滋養丸を三粒ほど口に入れて、案の定ひどくむせた。
「苦いー。まずいー」
だがここに味方はいない。テンションを下げに下げながらも、ハルタチは動けるようになるまでひたすら滋養丸を摂取し続けるしかないのだ。
マギ・エクスプロードの使用後はとにかく魔力回復率が減少し、MPが一定量回復するまではひどい吐き気と眩暈の症状をもたらす魔力切れに苦しむ。ハイリスク、ハイリターンなそれはまさに一撃必殺のスキルなのだ。
しかし、使用者に負担が大きいが故に、できるだけ周りは使わせたくないと思うものである。
「帰りにまた一時間だね」
「ああ。そうしたらそろそろ現実世界で六時間、ってところになるんじゃないのか」
指を折って数えて、確かに、とスピネルは頷いた。
「そうか、じゃあ帰ったら宿屋でログアウトですね」
「だな。しかし、今日は充実した一日だった」
そう、ログイン中は現実世界の時間の三分の一の速度で時間が流れる。
時間を有効活用している感じが半端ではないのだ。
「製品化されたら、本当に話題をかっさらっていくんだろうなあ」
「ああ。いいことじゃないか」
それだけのポテンシャルを、このゲームは秘めている。たった半日の体験だけでも、それを理解するのには十分だった。
本当に発売が近くなったら予約してでも買おうか、スピネルはそんな風にも考えるのだ。
「そんなことより、口の中がニガヨモギの匂いでいっぱいだ‥‥‥」
そんな明るい希望に満ちた会話のさなか、ハルタチが極限までぐったり、と言う形容が似合う幽鬼のような出で立ちでふらふらと歩きだし、壁に手をついて落ち込む。
どうやらMP自体は回復し、魔力切れの状態も緩和されたようだが、滋養丸の打ち消しようのない苦みのせいで精神状態が限りなく荒んでいるらしい。
「帰る途中の森の中、休憩ポイントの湧水あっただろ。我慢しろ、男の子だ」
エトが仕方ないなあと言わんばかりの口調でたしなめる。
「わかってる、わかってるさ‥‥‥」
やれやれ、と重いため息をつき、ハルタチは体についた砂埃をパタパタとはらう。
「そんじゃあ、いこっか!」
シバが明るく呼び掛ける。
「家に帰るまでが遠足ですよね?」
「そうだよー。スッピーはちゃんと基本に忠実でえらいね!」
そこで本来のハルタチなら、バナナはおやつに入るのか、いやむしろういろうはおやつに入るのか、などという茶々を入れてくるのだろうが、今だけはそれがない。
本当に滅多にない珍しい光景である。
「んー。うん。いっそここまで潔くへこまれると私も製作者としてへこむわー‥‥‥」
そんなわけで、シバまでつられて落ち込みそうになるのであった。
滋養丸はかなりえぐいヨモギの味がします。
平癒丸はアロエの茎の苦みをちょっと薄くした感じのなんとも青臭い苦さで攻め立ててきます。
シバとエトは耐えればいけないわけではない、という感じです。
スピネルは気を遣って我慢しています。でも苦いのは嫌いです。
ハルタチは完全に自重する気がありません。
味のフィードバックも制限されているのにハルタチがここまで騒ぐのは、現実世界では本当に口に入れた瞬間吐くレベルで苦いものが駄目であるということなのです。
好き嫌いも甚だしい男ですね。




