Act 20
僅かな静寂の中、思い出したかのようにスピネルが走りだす。動きを止めたテライオンの膝部分の、白い発光体に鉄槌を振り下ろした。
「ス、ト、ラ、イ、クッ!」
びしっ、という鋭い音が走った。発光部分にひびが入ったのだ。
「うおおおオォッ!」
エトも両手を組み合わせ、力任せに弱ったその部分を叩きのめす。
「ウォートネット!‥‥‥ウォートブロウ!」
動きの鈍ったテライオンに好機を見たのだろう、シバは水の拘束呪文をかけ、援護する。
水の拳もまた、したたかに巨人の頭を殴りつけた。
「ウィンデミルダ!」
そして立て続けの暴風が食らいついた。テライオンはふらりとよろけ、攻撃を止める。
「あと少しだ!押し込めえええええ!」
さらに、エトの蹴りがとうとうテライオンを転倒させ、それを待ってましたと言わんばかりに光の薄まったそのテライオンの眼に、スピネルがピックを振るって飛びかかった。
後、少し。
後、僅か。
震えるテライオンが最後の力を振り絞って、顔の周りを飛び交う邪魔者を払いのけようと力任せに腕を振るう。
飛び退くスピネル。次に重量のある岩の腕が落ちてくる際の地面への衝撃に堪えようと、ふっと重心を落としてすぐさまそれに備える。
しかし、その衝撃と来たるべき轟音はいつまでたってもやってこなかった。
恐る恐るスピネルが上方を伺うと、空中で差しのべられたような形で腕が固まっている。
その関節部分にある白い発光体が、何故だかひどく鋭利な刃物で切り裂かれたように抉れていたのだ。
「だから言ったろ。こんなにでかけりゃあ、はずさねーよ‥‥‥?」
苦しそうな息の下で、もう座り込んだまま目を開けるのも辛そうにしながらも、ぎりぎりまでカッコつけて彼はそう言った。
ハルタチの、渾身のウィンデイル。
それがテライオンの最後の体力を奪い去ったのだった。
Congratulation!
そんな表示が現れ、ポーン、ポーン、と電子音が響く。
スピネルは今の戦闘で少なくとも自分のレベルが2は上がったことを知った。
と。突如としてバアアアァァッ、と空間に光が満ちる。
強烈な光量に全員が思わず目を庇った。
『ヅ‥‥‥コチラ‥‥‥E-O‥‥‥。現地民、接触‥‥‥。重度損傷‥‥‥稼働不可‥‥‥』
バツン。
ブラウン管のテレビが消されたように、それは一気に終息した。
恐る恐る彼らが再び目を開いた時、そこにはゴーレムの残骸とでもいうべきドロップと、奇妙な金属板が落ちていただけだった。
「う‥‥‥」
そのまま硬直しているスピネル。しかしだんだんとその表情は茫然とした状態から安堵へ、安堵から歓喜へと移り変わる。
「うわおー!」
そしてとうとうスピネルは気が付くと、感極まって叫び声をあげていた。
両手を高く差し上げ、そしてなんと、手近にいたエトに思いっきり抱きついたのである。
「やったー!やりましたよおー!」
「うぉわ、ちょ、おま、お前待っ‥‥‥」
そんなエトこそ硬直してしまって、現状混乱の極みである。
当然スピネルには他意はない。ハイタッチと意図的には近い、あくまでもフレンドシップ的なノリのつもりである。なので余計にエトも止めることが出来ない。
そうしていたら、きゃー、もさもさー、とか言いながらスピネルはここぞとばかりにエトのもふもふの毛並みを堪能してきたようだ。普段はブレーキがかかる理性も、ついうっかり今回タガが外れたようである。
エトは今度こそ赤面してこら、やめてくれ、お願いだ、などと弱々しく言い始めた。
「ひゃー。大胆ー」
軽く頬を染めながらシバがその様子を見つめている。
「天然怖ぇー」
ハルタチも思わず苦笑している。ぐったりとその場に座り込んでいるため、軽くシバを見上げながら止めねーの?などと他力本願に言ったりなどしているが、明らかにその声音は面白がっていた。
「さすがにそろそろ止めますかー」
シバがそんな混沌の渦中に、跳ねるようにそれはもう軽やかに駆け寄っていく。
そして何を思ったか、ぶんぶんと振り回されているスピネルのふかふかの尻尾を、それはもう思いっきりむんずと掴んだ。
「ひぎゃっ」
凍りついたようにスピネルが止まり、髪の毛と耳と、それから尻尾がぶわっと逆立つ。
それらを確認してシバはそっと尻尾から手を放した。
「よし、おねーさん落ち着いたかい」
そこでスピネルははっとして現状に思い至る。
目の前にいる脱力しきったエトはまるで、目に見えない魂が抜けかけているかのようになっていた。
「もうお嫁に行けない‥‥‥」
エトが静かに顔を覆ってそんなことを言い出すものだから余計にスピネルは慌てだしてしまう。
「う、ひゃぁ、すみませんすみませんごめんなさいやってしまいましたー!」
それを見て、くっくっ、と喉を鳴らすようにハルタチが笑う。
つられてシバまで笑いながら、思いっきりスピネルに抱き着いた。
岩の広間。穏やかな歓喜が四人を満たしていた。
短い文章での更新が続いています。
きりのいいところで、と思うとどうしてもいつも2,000字程度になってしまう。
今回スピネルさんがやってくれました。
割と感情が高ぶると周りが見えなくなるタイプの彼女、確実にその後誰もいないところで一人何度も悶絶する羽目になるでしょう。
そしてその度にちょっと落ち込み、でもあのもさもさは気持ちよかったなあ、などとトンチンカンなことを考えるのです。
天然とはそういうものです。




