Act 17
今回は短めです。申し訳ない。
ここまでレベルが上がり、装備も整えたので森のモンスターたちも特に気になることなく、適当に片づけながら四人は順調に進んでいた。
あれほど森でファイア系の魔法は使うなと言い含めていたにもかかわらず、一度ハルタチがやらかしそうになったので、シバの鋭い蹴りが炸裂したという事件はあったが――それ以外はおおむね平和である。
「ワークブーツって鉄板仕込んであるんだよな?あれな、あれな、すっごい痛い‥‥‥」
完全に涙目になっていたハルタチだが、いかにHPが五分の一ほど持って行かれているという事実があるとしても、味方はいない。
「今回ばかりは流石に庇えませんよ‥‥‥」
気まずそうに言うスピネルである。
「くそう。俺は一人だー!もういいもん!俺一人でどうにかしてやるぜ!」
「はいはい、置いてくぞー」
エトのスルースキルも最高に冴えわたっていた。
「あ、ちょ、待ってほんとに置いてかないでー」
慌てて駆け出しつつ、右足を引きずるハルタチだが、本当に懲りるのだろうか。
小芝居を繰り広げつつも、なんだかんだで目的地は近づいていた。
木立の中をかき分けるようにして見えてきた岩壁はずいぶんと横に広がっている。
「ここだね」
シバがぺたりと岩を軽く叩いて洞穴の入り口を眺めた。
特に不穏な気配もない。慎重に進むのは大前提だが、それほど身構える必要もなさそうだった。
「それじゃ、探索を開始しよう。狭い通路だから、僕が先頭を行くよ。スッピーは後ろで念の為に索敵を頼む」
「はいー」
そうしてザクザクと洞穴の中に足を踏み入れる。
洞穴内は大地の魔素と呼ばれるものが充満しており、それが発光するために明かりを特に必要としない。
また、この大地の魔素の影響により中で出現するモンスターは往々にして大地の魔法が全く効かない。むしろ魔法を行使してくる敵すら出る始末であるという。
風と水を使用するシバには相性のいい場所と言える。
初めの曲がり角を曲がった辺りで、岩陰からルインラクナルが2体飛び出てきた。
強さ自体は底上げされているものの、基本の動きはラクナルとそれほど変わらない。
特に苦労することもなく、一匹はエトの回し蹴りで軽く吹き飛ばされ、残りもスピネルの一撃、いや、ツインブレイクを使用したので二撃で屠られた。
「ほう。安全靴は蹴りの威力を結構上げるんだな」
「それは俺でも実証されてるし‥‥‥」
恨みがましそうなハルタチの台詞に、そういえばそうだねえ、などと白々しく棒読みでシバが答えた。
「僕が前衛職だから、よけいにかもしれんね」
ざっざっ、と地面を蹴っては感覚を確かめるエト。
そもそもおふざけで作ったはずだったのだが、ワークブーツは意外な効果を導き出しているようだ。
「後ろからケイブバットが来てますよー。そこそこの数いるっぽいです」
「ほいよー」
ひゅん、と微かな音がしてハルタチの指にはめられた指輪が光を放つ。
「ファイアバルテ」
熱量を持った緋の弾丸はすさまじい速度で空気を切り裂く。
三体あまりのケイブバットが悲鳴を上げて墜落した。
取りこぼしたのも3体ほどだ。それらはシバが的確なウォートブロウで撃ち落としていく。
落ちた物は順次スピネルとエトで片付ける。いいコンビネーションだ。
「ほんとに命中上がってるよなあこれ」
「私の目を見てもう一度言ってください!」
振り向きざま、軽く髪の毛が焼け焦げたスピネルが必死に反論する。
もう少し回避が遅かったら大惨事だったはずだ。
「装備ってスゲー。ってか3体も落とせたのって快挙じゃね?」
目を逸らしながらハルタチはいけしゃあしゃあとのたまう。
「うう‥‥‥」
最大の敵は己の身内にある、というのはつまりこういうことなのか、というのを痛感したスピネルなのであった。
「しかしまあ、なんだ。余裕じゃないか?」
エトが問いかけるようにして言う。
「ですね。この辺だとかなり長い間治癒要らずでしょう」
シバが頷く。確かに二度の戦闘を短いスパンでこなしたものの、ほとんどHPが減る機会がない。
「行けるなら奥行ってみたいですー」
スピネルがここぞとばかりに提案する。
うぐ、と一瞬全員が逡巡する。前回ぎりぎりまで粘って最後のクォータリズ・ヘッドと激闘になったことがここぞとばかりに思い出される。
「‥‥‥スッピーは、こう、なんていうかオプティミストでかわいいよねえ」
へ?と首を傾げるスピネル。前回一番の深手を負ったはずだが、その思い出がトラウマになった気配はないようだ。
シバがよしよし、と言いつつスピネルの背中を優しく叩く。フェアルヒューの身長ではライカヒューの頭まで手が届かないのである。
「あの、目を見開きながらばたっと突然倒れるのは、思い出すだに心臓に悪い」
エトも苦く絞り出すように言う。ハルタチも無言で頷き、同意を示した。
「あー。ま、大丈夫じゃないですか?あんなことそうそうないでしょ」
「まあなあ。じゃ、大丈夫ってことにしとこうか」
エトがしかたないなあ、と言わんばかりの口調で締め、一行は少しペースを速めて奥へと進んでいくのだった。




