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スキマ産業奮闘記―In The Cradle  作者: 狩山 宿
Ⅰ. 揺籠と社会人
11/63

Act 11


「満身創痍かよ」

フーッ、フーッと苦しげに息を吐くエト。自らも傷を負いながら、多少相手にもダメージは与えた。だが、これでは押し負ける。

トカゲもニヤつくのか。そんな場違いなことを思いながら自分に群がろうと爪を伸ばす三体のトカゲを見る。ハルタチが後ろから懸命に炎の雨を降らすが、一向に止まらない。

くそ。さすがに一体は避けられないか。これはもう、死ぬかな。そう思いながら体をひねり、せめて一矢報いてやろうとしたその時、オレンジの塊が一匹を跳ね飛ばす。

それに動揺したのか、集団の動きがぎこちなく止まって闖入者を見る。

「おいおい、シバ――どんだけ無理してんだよお」

完治とは言えないが、其処には動けるようになったスピネルが、この狼藉モノ、と言わんばかりに一体のクォートリズを思いっきり踏みしだいていたのだった。

「本当ですよね。シバ先輩ふらふらでしたので。早く終わらせましょう」

「あーあ。まったくあの子は――よし、スピネル、助かったよ。今のお前のおかげでどうにかできるかもしれん。悪いんだが、ハルタチのとこまで下がってくれ。もうすぐおわりだ」

「え」

「巻き込みたくないんでなあ」

いいから、行け。優しく言ったエトを見ながら不可解そうにスピネルはためらいがちに踵を返す。

「説明見る限りじゃあ、使うのは避けたかったが」

そういうとエトはギリ、と歯を鳴らした。

最初の戦闘の時からそれは習得スキルの中にあった。

ひどく魅力的だが、しかし非常にリスキーな要素を孕むだろうそれは、そうそう使いたくないものだ、などと思っていた。

せっかくみんなで一緒にいるのに、時に味方を傷つけるかもしれないスキルなんて。

迷惑をかけたくない――そんな思いが根底にある以上、それはこれまでの戦闘でもずっと封印してきたものだ。

だが。今はもう、ためらってなどいられない。

そうだよ。エトは苦く笑った。

避けてくれよ、って笑えばいいんだよな、あいつみたいに。


『狂獣化』。


使用する、と念じる。

「ぐぁ‥‥‥おおおおぉぉォオオ」

みり、という音がした。

再び振り返ったスピネルと、治癒を受けていたハルタチと、共に見ていたシバは、そこで信じられない物を見る。

ギシギシという音を立ててエトの体が膨らんでいくのだ。元の大きさの二回りは大きいだろうか。

その瞳からは理性の色が薄くなり、血のような輝きは不気味としか言いようがない気配をたたえてクォータリズたちを睥睨する。

エトなのに、エトではないような。何だかひどく、恐ろしいもののような。

そしてゆらり、とその体が動き、一歩、クォータリズたちが下がり。

予告もないまま一体が宙を舞った。

一撃でその生命を刈り取ったのか、光となって消えるクォータリズ。

「うぉ」

ハルタチが思わず声を上げる。

そのまま赤茶色の乱舞は止まらない。もう一体も猛然としたラッシュでごみのように蹴散らされ、残るリーダーに迫る。

逃げ腰になったクォータリズ・ヘッドだが、当然エトは許さない。その拳で吹き飛ばすと、容赦ない追撃を繰り出す。気功術も併用して強化されている攻撃が幾つもその身に刻み込まれ、そしてついに赤い羽根の冠を持つ亜人は純然たる暴力の前に屈したのだった。

「エトさんすごい‥‥‥」

シバが熱に浮かされたように呟く。ゆっくりと立ち上がり、勝利を収めたエトに向かおうとしたが、その本人が震える腕でゆっくりとそれを押しとどめた。

「動かナイでクレ。まダ‥‥‥効果ガ、切レて、ナイ、襲ウ。このスきるは――危なイ」

その言葉にぴたりとシバは動きを止める。

エトは深く息を吸い、そして吐いた。ゆっくりとその体が元の大きさに戻っていく。

戻りきったとき、疲れたように三人を見てエトは言った。

「悪いなあ。もう、いいよ。でもまあ、僕が、ダメだ」

やわらかく困ったように笑いながら、エトはそのままへたり込んだ。

「あはっ」

スピネルは笑った。

何故だか妙に笑えて来て、でもみんな同じ気分だったらしく、しばらく辺り一帯は笑いの渦に包まれた。

落ち着いた頃みんなでドロップアイテムを拾った。

これまでの戦闘と今回の分を加えた結果、モンスター素材として36個のリザードマンの鱗と22個の鋭い爪、18個のリザードマンの牙を得ていたほか、錆びた槍と丈夫な小剣、棍棒3つという武器ドロップの収穫があった。そのほか、晶石という加工用素材が22個に、蜥蜴亜人の長の証と濁緑の鱗というアイテムを3つ手に入れていた。後半は恐らくクォータリズ・ヘッドからのドロップだろう。

ほうほうのていでログスポートに戻ったころには全員がへとへとで、肉体的にも精神的にも限界だった。

「ちっときついから、宿屋でルームサービスとって一旦ログアウトしようか?」

シバの提案に、みな一も二もなく頷いた。

宿屋の宿泊料金は50Alcだ。ルームサービスを付けるとプラス20Alcで利用できる。

宿屋で休憩し、ログアウトするとその時間に比例してHPとMPが回復するのだ。

ルームサービスは宿屋に泊ってログアウトした時のHP、MP回復の効果を高める。

多少レベルが上がればポーションを利用したほうがいいと感じるかもしれないが、やはりどうしてもコスト高になる。故に、宿屋は初心者向け施設、ということになるだろう。

「ええと、実際の時間で1時間でこっちの3時間でしたっけ。じゃあ30分くらい休憩すれば体力も戻りますかね」

「そうだな」

ハルタチが首肯し、そして宿屋で手続きを済ませた四人は各部屋をあてがわれた。

スピネルはふ、と小さく息を吐いた。ベッドに腰掛けると柔らかな感覚が返ってくる。脇腹を刺し貫いた痛みは今はないけれど、しかしあれはひどく恐ろしい感覚だった、と思った。

システムウィンドウを開き、ログアウトボタンを選択する。

案内に促されて、彼女はゆっくりと目をつむった。



カシャ、と静かにヘッドギアを外すと、同じようにヘッドギアを外す三人の人間を見つけた。

「おわぁ‥‥‥なんか、もう、すごいなあもう」

ぷるりと首を振ってそう言うと、だよねえ、と可愛らしい声とともにぷにぷにといつの間にか紡の頬をつつく存在が同意を示した。

「びっくりしたよ。ちょっと違いはあるけど、疲れるし痛いし怖いし?でも――」

「楽しい、よな」

うん、と沢崎もあまり動かない表情に若干の興奮をにじませて答えた。

「すごいよねぇ。まったく、それしか言いようがないじゃない、貧弱な語彙しか持ってないし」

あはっ、と明るく笑い声をあげたのは野宮だった。

「ほんとな。すげー、しか言えねえわ。技術と開発がんばったなあ」

うんうん、と全員が真剣に頷いた。

「えっと、30分あるし、私今のうちにレポート書いちゃいますね」

「そうだねえ。そのほうがいいかもしれない」

紡と小柴は手元にある荷物からUSBを探り当てると、割り当てられた部屋に一旦戻ることにした。

「りょーかい。俺、煙草吸ってくる」

「おう。あ、電話してくるわ、連絡入ってるし」

男性陣もそれぞれの用事を済ませに散っていった。

書くことはたくさんあって、ありすぎてどうまとめようか。

そんな風に考えるレポートなんてめったにないぞ。

紡はふと横を歩いている小柴を見て、しかしすぐに目線を少し上方に戻した。

「‥‥‥言いたいことはわかる。ゲーム内の大きさと若干違うんだ、これが」

小柴も同じようなことをしたらしい。

ライカとフェアルの身長差は意外と大きいのだ、というのをなぜか現実世界で実感するとは。

そうだ、まずはそれを書こうか。やれやれ、と困った顔の、現実でもちょっと小さめの先輩を見ながらそう思った。




ちょっとヒヤッとした感じの戦闘でした。

なんだかんだで痛み、というよりも擬似的ではあれ死を体験することによる恐怖感って大きいんじゃないかな、と私は思います。

ゲームということで、機械側からの制約で心理的なフィードバックが少なくなるようにはしているだろうけれど、多少はクるものがあるだろうなあ。

事実こういうことがあったとして、突然横の人が死んだら結構パニックになる気がします。

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