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スキマ産業奮闘記―In The Cradle  作者: 狩山 宿
Ⅰ. 揺籠と社会人
10/63

Act 10


じゃあそろそろ引き上げようか、という話が出るたびにクォータリズの襲撃にあうので、切れ目ない攻撃の中なかなか引き上げられない四人だったが、とにかくアイテムの換金や補充はしなければならない。

「よしゃ、次に出てきたらそれだけ倒してあとは逃げて帰るぞー」

「わかりましたー」

若干疲れもたまってきていた。本当にそろそろ一休みしたい。

スピネルは深いため息をついて体に残る気だるさを吐きだした。

仮想とはいえ、もう一つの世界。奇妙な感覚に額を拭う。

湖に背を向け、街道のほうへ。

しばらく歩いただろうか、岩陰でがさりと不穏げな物音がした。そして聞こえる、クルルッ、ククッ、という甲高い喉を鳴らす警戒音――

「何体だ」

姿が一つ、二つ、三つ、四つ。飛び出してきたのは少し大きめのクォータリズだ。うち二体は少々錆びているがそれぞれ小剣と槍を持っている。

レベルもこれまでのモノよりも高い。最後の最後にちょっと珍しい集団と行き会ったようだ。

「チッ、レンジ的に考えて槍のやつが面倒だ、先に始末する!」

「翻る、裂く――ウィンデイル!」

シバが簡易詠唱で威力を高めたウィンデイルで槍のクォータリズの肩口を切りつける。

「おい、左手っ!!‥‥‥グランスタラ、ブラストッ!」

ハルタチがシバを狙っていた三体を足止めする石筍を作り上げ、続けざまに純粋な魔力の小弾丸で注意をひきつけさせた。

「ごめん、ありがと!」

「ちくしょ、MPたんねえぞお」

エトとスピネルのコンビネーションも苦戦している。

「くそ、近接は槍が最強だとかなんだとかは、近世までの戦争の話か!?」

「さあ、どうだったんでしたっけ、っと――ッぐ」

スピネルの目から火花が散った。振るわれた槍の石突が脳天にクリーンヒットしたのだ。

ここにきてスタンか――ヒットポイントも残りが頼りない。

「出し惜しみは‥‥‥考えるなってか。ハッ」

気合いを込めたエトの両の拳が僅かに光りだした。

「クロスカウンター!」

突き出された槍を体に食い込ませつつも、にやりと不敵に笑んだエトの気功を帯びた拳はクォータリズの顔面を見事にとらえていた。やってみるもんだ、と吐くその息は荒い。まさにギリギリであったようだ。

「ヒールッ!」

後衛への襲撃を食い止めるのに一段落したのか、シバの治癒魔法がふわりと柔らかくスピネルに降り注ぐ。それに助けられた、と言わんばかりにゆっくりとスピネルは立ち上がった。

そして、力のこもった瞳で振るわれたスピネルの渾身の一撃は、クォータリズの顎に見事に突き刺さった。

刃先が顎関節を貫く生々しい感触を微かにスピネルに残し、一体目のクォータリズが消える。

「ええとっ、ヒール!」

エトの傷も癒され、どうにかこうにか戦況は均衡を取り戻した。

「最後なのに、面倒な奴らだなあ、おい」

ファイアピアス――針のように尖らせた炎の矢が剣を振り上げたクォータリズを縫いとめる。

「当たった!?」

当てたハルタチがぎょっとして一瞬固まる。

「そこお前が驚くところなの!?いや驚くべきところなんだけど!」

その隙にエトがそのまま戸惑い暴れるクォータリズに掌底を叩きこむ。

スピネルは後衛への援護に回り、素手二匹の足止めをせんとばかりに相手どる。

「一本足ぃ、打法ー!」

力任せのウォーハンマーによるフルスイングで二匹まとめて押しやる。不意に襲いかかった物理的な衝撃に、カッ、と怒りを帯びた黄色い瞳が2対スピネルに向かう。

「ウィンデイル!」

「グランバルテ!」

集中する環境を取り戻した二人の魔法がエトと相手どるクォータリズに食らいつく。

「ナイスアシストだ」

ゲ、と短い断末魔を残してそのクォータリズも倒れ伏してゆく。残り二体。

が。ギィィィッ!という耳障りな鳴き声が鼓膜を揺すぶって、四人はうっと眉をしかめる。

そしてそれから間髪を入れずに、ドスッ、という不穏気な音が、あまりにも自分たちの近くで響く。

驚いたように目を見開くのはスピネルだ。最初に感じたのは熱量。次に感じたのは衝撃。それから、いくら仮想現実とはいえ、明らかに我が身に降りかかる――鋭い痛痒。

「けふっ」

あまりに軽い咳だったが、そのままスピネルはドウ、と重い音を立てて地に倒れる。

致命傷。自分のHPゲージが危険域に達したのをスピネルは見た。

こうなると思ったように体が動かなくなる。場違いのように自分の体にめり込んだ細い棒、おそらく投槍の一種だろうそれを見て、なるほど、とスピネルはひどく冷静に思った。

とりあえず震える手でそれを引き抜く。血が出るわけでもないし、衝撃はあるもののそれ以上HPが減るわけでもない。

生き残った。その事実にスピネルは安堵したが――これは。このままでは、また均衡が崩れる。

「いやァッ!」

悲鳴を上げるシバがヒッ、としゃくりあげながらヒールを必死になってスピネルにかける。

それでも精神的に余裕もない状態だ、僅かしかスピネルの傷はふさがらない。

「どこだ!?」

「ああくそっ、嘘だろう」

二体のクォータリズが勝ち誇ったような表情を浮かべて油断なく構えるその後ろから、本当に、一体いつからそこにいたのだろう。赤い羽根を冠のように飾り付けた、一回りはほかのものと大きなトカゲ型亜人が悠々と進み出る。


クォータリズ・ヘッド


「な‥‥‥」

思い返せば、初めからどうにも不可解な点はあったのだ。

烏合の衆ともいえるクォータリズがなぜ最初に後衛を狙い、分断させたのか。

こうしてずっとあれは機を伺っていたのだ。

「くそがッ!!」

火の魔法を矢継ぎ早に打ち込むハルタチ。

「シバッ!あいつが動けるようになるまでヒールだ!それまでは僕がなんとかする!」

叫んでエトも敵陣に駆け出す。

「わ、わかりましたっ!高庭ちゃん大丈夫?今HPどれくらい?」

「う‥‥‥」

HP自体は四分の一まで戻っているが、傷のステータス異常が体の動きを阻んでいる。

痛みをこらえてぐっと顔をしかめながらその旨を伝えると、シバはきつく目を瞑り、手をスピネルの傷口に添えた。その辺りが柔らかな光に包まれる。

「鐘の声、祈りの歌、泡沫の響き、生命の糸、」

「ぅぎッ」

ハルタチの押し殺したような悲鳴に一瞬詠唱が止まる。しかし、緩く首を振ったシバはそのまま声を乗せてゆく。

「連綿と続く、意志よ、祈りを形へ――」

ゆっくりと深い傷が塞がり、震えるスピネルの体が熱を帯びる。

「癒しの風を。ヒール」

ハッ、ハッ、とシバは荒い息を上げて目を開いた。

スピネルは顔をしかめながらもそこになんとか立ち上がり、手を握ったり開いたりしている。

「よかった」

くらりと傾ぐ体を支えながらシバは呟いた。

「こんな、きちっと唱えると、疲れるんだねえ」

そう。詠唱を破棄すれば発動も早いが威力は低くなる。短縮した単語だけでも乗せさえすれば威力は多少上がる。そして、中々戦闘で使うタイミングは難しいが、正確に詠唱して魔術を発動させると、魔力の負担も大きくなる代わりに威力も高まるのだ。

「先輩ありがとうございます。行ってきます」

一つ丁寧に腰を折って、そして蜂蜜色の獣は戦場へ走る。

「私も。まだ、負けない」

ヒール。ヒール。

癒しの風を男性二人にかけたシバは、まだ倒れてなるものですか、と独り言を小さく口の中で転がした。そして深手を負ったハルタチに駆け寄り、新たに治癒の詠唱を始める。







今回は状態異常について。

ちょっと他のゲームとは違う考え方をしています。


・頭に攻撃を食らうと高確率でスタンを食らいます。現実準拠です。

・大ダメージを食らい、かつ残りHPが危険域になると「致命傷」という異常を受けます。ばったり倒れてしまって全く動けなくなるので非常に危険。一定量回復しないと再び動けるようになれません。

・毒、麻痺、幻覚などは治療系呪文で効果を薄くして消していく、という風に考えます。故に緩和する、という微弱呪文に「キュイ」があります。逆に言うと、放っておくと症状が悪化します。


他にもいろいろありますが、とりあえずはこんな感じで。

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