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「あ、あの間宮さん? 緑への愛は分かったんですけど、その……」
「そうだ! 緑ほど美しく心癒される色はない!」
「そ、そーっスよね。それで、その……」
もうやだよ。帰りたい。
委員長の『知り合いになって欲しい』という願いは叶えた訳だし。
仲良くはなってないけど。
仲良くなりたい、とも思えなくなってきたけど。
「それなのに! ここの生徒ときたら。黒や茶色はまだしも、赤だの青だの。あんな不自然な色、私は許せない!」
「……赤? 青?」
「髪だ。髪の色だよ、緑くん」
緑のあんたも自然とは言い難いだろ。
そう言いたい。
というか、そもそも。
「あ、あの。……俺が言うのもアレですけど、髪染めるのって校則違反っすよね」
服装の乱れをあれだけ非難したのだ、彼は規律に厳しい人であるはずだ。
恐る恐る問うと、彼は非常に良い笑顔で俺を見た。
「美は、得てして罪となる」
……帰りたい。切実に。
間宮藍太郎に気づかれないよう、顔をそらし、手で口元を隠しながら口パクで助けを求めてみる。
『せんぱい、ヘルプ。ヘルプミー』
通じただろうか?
返ってきたのは、穏やかな微笑。
滑らかに動く唇。
え?何?
い、け、る?
『イケる。まだ、イケる』
おい広瀬コノヤロー。
もう先輩とすら呼んでやらないからな。




