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「私が最も心惹かれる色……。それは緑っ! グリーン! ヴェルデ! 色に溢れるこの世界で、一際輝く癒しの沈静色っ!」
「…………」
あれ、何この人。
急に頭のネジ飛んでったんだけど。
癒し?沈静色?ってか、沈静色って輝いちゃだめだろ。
どこか芝居がかった調子で腕を振り上げる彼は生き生きとしていて、一見すると無邪気な子どもがはしゃいでるようにしか見えない。
だが、よくよく見ればその目は取り憑かれたような狂気に満ちている。
「寒色でも暖色でも無い、魅惑の中性。まるでヨハネ。ああ、なんて素晴らしいんだっ! 分かるかい? 深い森の奥、濃淡様々な緑に囲まれた時の感動が!」
「あ、いや、あの……」
「なぁ、分かるだろう? 分かるよな? 分からないはずが無いよな?」
「わ、わわわ分かります、分かりますともっ!」
迫りくる謎の威圧感。
可憐とも言える容姿を以てしても、これは無理だ。
中和しきれていない。
変態性が滲み出ている。
「そうか、分かるか! さすが緑くん!」
「……緑山です」
ああ、何故だ。
俺が関わる相手は何故こんなにもヤバい奴ばっかりなんだ。
さっきまで常識人だったはずだろ。
絵の話を振ってから数分。
今や間宮藍太郎は、パレットナイフ片手に緑色への狂愛を叫ぶアブナイ人である。
広瀬碧をちらりと見れば、彼はいつの間にか距離をとって安全圏に避難している。
何?
もしかして俺が悪いの?
絵の話は地雷なの?
それとも緑山って名乗ったのが悪いの?




