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敬意なんてある訳無いだろ。
「……秋ちゃんて結構Sだよねー」
「それほどでもないっスよ」
「そんな可愛くないこと言ってると、いつか誰かに喰われちゃうよ?」
「……は?」
涙目の広瀬先輩は俺に鍵を渡してニヤリと笑った。
喰われる?
「俺なんか喰っても腹壊すだけですよ」
「色気ってのが無いよね」
「……っ!?」
そう言って、俺の顎を撫で上げる綺麗な指。
擽ったくて背中が粟立つ。
猫になった気分だ。
「や、やめてください」
「ん? じゃ、図書室に行って来てくれる?」
「……分かりましたよ」
渋々頷いた俺を見た後、広瀬先輩の手がそっと離れた。
心なしか敗北感を感じる。
「行ってくれるだけで良いから」
「…………?」
図書室に、行くだけ?
突っ込んで訊こうとしたが、先輩は『後で何か奢る』なんて言ってさっさと行ってしまった。
掌に乗せられた鈴付きの鍵を見つめ、一抹の不安。
妙な頼みを受けてしまったかもしれない。