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ガシャンっ。
「……君たちは、随分と仲が良いんだな」
声に驚いて顔を向けると、銀のバケツを両手で抱えた間宮がこちらを見ていた。
いつの間にやらエプロン装備。
何故だか少し不機嫌そうな顔をしている。
「あー、藍ちゃん。やっぱそう見える? 実はさぁ……」
「別に仲良くはないです」
「ちょ、秋ちゃん」
広瀬に余計な発言をされる前にシャットアウト。
一瞬固まった隙にすかさず腕から逃れ、そのまま間宮藍太郎のもとへと駆け寄った。
「あ、あの、これも画材なんすか?」
覗き込んだバケツの中には左官さんが使うコテの用な物が数本入っている。
授業でも水彩画くらいしか描いたことの無い俺にとって、油絵なんてものはまさに未知の領域。
そんな興味本位の質問だったのだが、絵について訊かれたのが嬉しかったのか、ずっと硬い表情しか見せなかった彼が相好を崩した。
「何だ。君は絵に興味があって訪ねて来たのか? それならそうと早く言ってくれれば、もっと歓迎したのに」
「えっ? ああ、えっーと……」
そうか、絵か。
それが良い。
絵をきっかけに友好関係を築こう。
絵は得意でも好きでも無いが、別に嫌いな訳でも無い。
話を膨らませていって困ることもそんなには無いだろう。
……などと言う俺の思惑は、この後ものの数分で崩れ去ることになる。




