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「ちょ、ちょっと先輩!」
間宮藍太郎がすぐには戻ってこないのを確認し、素早く広瀬の腕を引いて顔を寄せる。
「どーしたの? 秋ちゃん大胆」
「どーしたの、じゃないですよ! 間宮さん真面目じゃないですか! どこが変人なんですか! 発言が教師じゃないですか!」
俺としては不本意な接近にニヤけている広瀬を、小声で批難する。
てか何で喜んでんの。
ホント馬鹿だ。
「あ、秋ちゃん? 何か怒ってる?」
「怒ってって、そりゃあ……、あれ?」
ん、あれ?
そーだよ。まともなら良いんじゃないか。
ちょっと説教くさいけど、悪い人じゃなさそうだし。
何の問題もない。
委員長や広瀬碧が不安になるようなことばかり言うから、妙に拍子抜けしたというか、何というか。
「んー、藍ちゃんはさ、確かに良い子だよ? かわいーし。真面目だし。かわいーし。知的だ」
おい、可愛いって二回言ったぞ。
まぁ、それについては否定しないけども。
「そう、みたい、ですね。ってか、離してください」
どさくさに紛れてするりと肩に回された腕から逃れようとするも、細腕で意外に力が強い。
そのままぴったりと密着され、もがく俺の耳元に広瀬が囁いた。
「……でも、残念な子なんだよねぇ」




