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「あ、広瀬…………先輩」
「今、先輩って言い忘れそうになったでしょー?」
「ソンナコトナイッスヨ」
広瀬碧は俺の軽口に呆れたようにため息を吐きながら、次いで、フードを剥がしにかかる。
何だか止めるのも面倒で、されるがままになった。
「え、秋ちゃんがいつになく素直。と言うか、大丈夫? 死にそうな顔してるけど」
無抵抗なのがよっぽど気になったのか、細い指が頬に当てられる。
冷たくて心地いい。
それを振り払う気分にもならないということは、だいぶやばい状況だったらしい。
「……眠気と暑さの所為ですよ。ちょっと頼み事があって、先輩を待ってたんですけど」
「秋ちゃんが俺をー? 珍しいこともあるんだねぇ」
口角を妖しげに上げたかと思うと、彼はキツネのような瞳を穏やかに細めて言った。
「ま、とりあえず。暑いから校舎に入ろっか」




