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「お前が面倒なことは俺にとっても面倒なんだよ」
「まぁそう言わずにさ。俺を助けてよ」
胸ぐらを掴んで締めようとしていた日向の手がピタリと止まる。
笑顔の広瀬に肩を叩かれ、渋々ながらも了承したようだった。
彼は案外ほだされやすいのかもしれない。
「と言う訳で、ちょっとクロ借りてくよ」
「……借りるも何も」
向き直った広瀬が、俺の頭に帽子をのせてヘラりと笑う。
日向に奪われていた物だ。
「秋ちゃんは、顔出して笑った方が可愛いと思うんだけどなぁー」
「別に、可愛くなくていいんで」
笑えと言われても、頬が凝り固まっている。
この仏頂面は遺伝だと思ってもう諦めた。
表情筋の老化が他人より早いとか、そういうあれだ。きっと。
ふと気になって日向の方を見ると、彼は少し笑っていた。
「……早く、行ってください。日向さんも」
「あー、慌ただしくてごめんね秋ちゃん。後で埋め合わせはするから」
来た時と同じように広瀬が走って去っていく。
埋め合わせって、彼女じゃないんだから。
「さっきの話忘れるなよ」
そう言い残して日向も、廊下の角を曲がって消えた。




