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「先輩、それ自慢にならないッスよ」
「えっ……」
『えっ』てなんだ。
逆に訊きたい。
本当に自慢だったのか。
「広瀬、俺に殴られる前に用件を言え」
焦れたらしい日向が、険のある声を出す。
男前な低音にはそこら辺の奴に無い迫力があった。
けれどそれにも慣れているのか、広瀬はケロリとした様子で答える。
「あ、そうそう。クロに用があったんだ」
「みたいだな」
走りながらあれだけ大きな声で名前を呼んでいたんだ。
誰もが分かっている。
狡猾なのか。
頭が悪いのか。
よく分からない人だ。
俺の視線に気付いたのか、広瀬は僅かに苦笑した。
「中庭でちょっと面倒なことが起こっちゃってさ。クロに収めて欲しくて来たんだよね」
「……お前がやれば良いだろ」
「何言ってんの。総長はクロでしょ」
派手な見た目に反して、広瀬碧は族に入っていない。
俺でさえ最もだと思う言葉に、日向は不機嫌そうなため息を吐いた。




