37/82
8
「ここは開けとけ」
「でも、一応頼まれごとなんで、戸締まりはしないと」
「広瀬も真面目にやったことなんかねぇんだから大丈夫だろ」
それもそうか。
妙に納得してしまい、日向が出入口として使っているらしい西側の窓を一つ開けっぱなしにした。
ブレザーを着た大きな背中の後に続いて廊下に出る。
鍵を閉めて振り向くと、日向が俺を見下ろしていた。
「え、何ですか?」
「色々、悪かったな」
「……?」
「乱暴すぎたって反省してんだよ」
自分の耳が信じられなくて端整な顔を凝視していると、彼はバツが悪そうに視線を逸らす。
は、反省?
日向黒が謝っている。
それも、少し言いにくそうだから本気なんだろう。
これじゃまるで。
「じょ、常識人みたい」
「ああ゛?」
「い、いやいやいや。その、失礼な意味では無くて」
失礼以外の何物でもないが気にしない。
肯定は破滅を招く。
本音を言ったら最後、図書室へ逆戻りするかもしれない。
「お前には俺が常識の無い人間に見えてるのか?」
「そっ、そんな…………………………見えてませんよ」
「なんだその間は」
「見えてません見えてません」
見えてます。




