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そのうえ、
「デコピン、やり返したかったらやっても良いぞ」
頬をさすって座り直した俺に、彼はそんなことを言う。
デコピン?
あの、半端なく痛かったやつ?
「……そんなことしませんよ。良いんです。ホントに。チェスで勝っただけなんだし」
「お前には欲もプライドも無いのか」
「ヤな言い方しないで下さい」
何その、人として終わってる、みたいな感じ。
欲もプライドも人並みです。
日向は、『別に良いだろ』なんて言いながら機嫌良さそうにしている。
そして、しばらくニヤニヤ笑っていたかと思うと、急に苦い顔になって呟いた。
「アイツとは大違いだな」
アイツって言うと、やっぱり。
「広瀬碧、先輩のことですか?」
「ああ」
どうやら彼は広瀬碧にも負けていたらしい。