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体を起こそうともがくが、腕一本で簡単に押さえつけられて真っ直ぐな視線をまともに受けてしまう。
日の無い朝の図書室でもはっきりと見える深い紅。
自ら発光してるんじゃないかって思うほどに綺麗だ。
だから自然に惹かれて、のみ込まれていく。
「お前、良いヤツだな」
意識の抜けかけてた俺の鼓膜を、低い声が擽った。
「……っ」
……は?
良いヤツ?
何が?俺が?
何か言いたかったけれど、強すぎる力が喉を圧迫していて上手く発声できない。
「今なら、仕返しもできるけど?」
胸ぐらを掴む手が離れたかと思うと、今度は顔へ。
「うぶっ……」
手のひらで挟むようにして顎の辺りを掴まれた。
親指と人差し指で両側から頬肉を押され、俺の顔はとんでもないことになっているに違いない。
「はっ、あの……」
「ん?」
「し、かえしって……な、ぶふっ」
「あ、悪い」
力加減を間違えたのか急にグッと押され、頬の空気が一気に抜けていく。
このままでは顔がひしゃげてしまう。
「はなっ、ひて……ふだはい」
「……ああ」
必死の言葉が通じたらしく、大きな手は静かに離れ、自分で支えきれなかった俺の頭は机へ落下した。
「あだっ……!」
顔面から。
いきなり、いきなりはどうかと思うな。




