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「ほら、椅子に座れ」
棚をゴソゴソと漁っていた日向が戻ってきて、乱暴にパイプ椅子に腰掛ける。
長方形の机を挟んで俺は向かい側に座った。
「白と黒、どっちが良い?」
「ど、どっちでも」
「……なら、先に並べた方が先攻だ」
置かれたのは思ったよりも小さめのチェス盤で、そこへ互いに黙々と駒を配置していく。
俺は黒の駒を並べながらそっと日向の方を盗み見た。
長い睫毛。
その下の赤。
白い首。
浮き出た鎖骨に、男らしい肩。
ただただ美形だと思うばかりで、何を考えているのかはまるで分からなかった。
結局先攻は日向。
白のポーンが、二歩進んだ。




